百年の子
古内一絵(著)
/小学館
作品情報
昭和~令和へ壮大なスケールで描く人間賛歌。
人類の歴史は百万年。だが、子どもと女性の人権の歴史は、まだ百年に満たない。
舞台は、令和と昭和の、とある出版社。コロナ蔓延の社会で、世の中も閉塞感と暗いムードの中、意に沿わない異動でやる気をなくしている明日花(28歳)。そんな折、自分の会社文林館が出版する児童向けの学年誌100年の歴史を調べるうちに、今は認知症になっている祖母が、戦中、学年誌の編集に関わっていたことを知る。
世界に例を見ない学年別学年誌百年の歴史は、子ども文化史を映す鏡でもあった。
なぜ祖母は、これまでこのことを自分に話してくれなかったのか。その秘密を紐解くうちに、明日花は、子どもの人権、文化、心と真剣に対峙し格闘する、先人たちの姿を発見してゆくことになる。
子どもの人権を真剣に考える大人たちの軌跡を縦糸に、母親と子どもの絆を横糸に、物語は様々な思いを織り込んで、この先の未来への切なる願いを映し出す。
戦争、抗争、虐待・・・・・・。繰り返される悪しき循環に風穴をあけるため、今、私たちになにができるのか。
いまの時代にこそ読むべき、壮大な人間賛歌です。
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この作品のレビュー
平均 4.3 (102件のレビュー)
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久しぶりの古内一絵さんの作品を読了した。心のきびに入り込んでくるどきどきする感覚と温かいものに包まれている穏やかな感覚を味わいつつ、古内さんの丁寧な描写を読み進めた。物語は、昭和と令和を交互に進んでい…く。令和の物語の中心人物は新卒入社5年目の市橋明日花。昭和の物語の中心人物は、令和の時代では94歳になるスエ。明日花の祖母にあたる。だが、2人の関係は孫と祖母という家族関係だけではないことが、徐々に明らかになっていき、その関係が明らかになっていくにつれ胸にグッときた。令和の物語はコロナ禍を描き、昭和の物語は戦中、戦後を描いている。どちらも激動の時代と言えるだろう。
メインとなる舞台は大正レトロの雰囲気を漂わせる外観の「文林館」という大手総合出版社だった。明日花にとっては、「文林館」は念願の就職先であった。だからこそ、やってみたい仕事も明確で、やりがいをもって担当の仕事に従事していた。そんな矢先に、明日花に異動が命じられる。異動先は「文林館創業百周年記念 学年誌創刊百年企画チーム」であった。そこでの広報活動が明日花の新しい任務となった。その出版100周年の企画を請け負うことに、明日花は不満を持っていた。明日花が担当したい仕事は、出版マーケティング局のもので、児童向けの学年誌出版局のものではなかったからだ。仕事は、自分が好きな内容だけではないし、自分に任されていた任務が変わることがあるだろう。さらに異動もつきものだろうな。そのような中で、任された仕事を自分のしたい仕事へと意識を変えていくことは簡単ではないだろうな。
物語は、スエが就職し仕事を始める昭和時代に遡る。明日花とスエが、どのようにつながっていくのだろうかと想像が広がる。令和の時代のスエは介護が必要となっている。過去に遡っていく中で、スエが激動の時代を逞しく清々しく生き抜く姿が鮮やかに描かれていた。スエが就職し働いた会社は、明日花と同じ文林館だった。スエと明日花とのつながりが明らかになっていく。スエが働いていた頃、文林館は児童誌で一躍栄えていた。しかし、戦争の影響を受け、児童誌も内容や形を変えざるを得なくなっていた。
物語は令和へ。明日花の同期、誉田康介の所属は、学年誌「学びの一年生」の編集部。康介の仕事への姿勢や言動は、明日花の心を揺さぶり、よい刺激を与える。仕事となると、自分のしたいこととは限らないだろうな。変えることができるのは、仕事にあたる自分の考え方なのだろう。時にうまくいかず悩むこともあるだろう。そんなとき、明日花にとっての康介のような存在は、自分の考え方を見つめ直すきっかけになるのだろうな。初代社長、会田辰則が起こした学習雑誌の小さな会社「文林館」。その後、3代目社長の文則が会社の基礎を築き上げた。しかし、令和の時代では「学びの一年生」のみが刊行されていた。
物語は昭和へ。明日花は、2歳から中学を卒業するまで、祖父母と暮らしていた。そのような中、両親は離婚する。明日花にとっては、母、待子以上にスエが一層近い存在となっていた。このことについては、後の展開で、その背景が明らかになっていく。明日花が知らなかったこと、母の待子が知らなかったこと、スエの経歴や思いも明らかになっていく。その場面では、胸にグッとくるものがあった。古内さんの伏線的な展開にも驚きと思わず唸ってしまうものがあった。母、待子は獣医師だった。このことも、後の展開に大きな影響を与える。待子と明日花の名前の由来も明らかになり、そのことも胸にグッときた。
物語は令和へ。明日花は、「良い子のひかり」「小國民のひかり」の刊行される昭和19年の文林館の入社者の中に鮫島スエ、祖母の旧姓を見つける。文林館でのスエと明日花のつながりが明らかになり、この先の展開が気になっていく。祖母スエは認知症の症状があり、明日花は文林館にスエが勤めていたことを確かめられなかった。母の待子にそのことを尋ねると、スエに口止めされていたと告げられる。読みながら驚いたが、その理由はラストに向かって明らかになり、そのこともスエの明日花に対する温かい思いが背景となっていて、胸にぐっとくる。
物語は昭和19年に遡る。スエの実家は房総半島の突端の花卉を育てる農家だった。スエは16歳になったときに実家を離れ上京し、洋裁店の住み込みで働いた。しかし、時代の流れの中で、店は閉店に追い込まれる。スエの状況に心を寄せながら、過酷な戦中の生活を想像した。そのような中、文林館の臨時職員募集の張り紙をスエは目にする。それがきっかけとなり、文林館を訪れるスエ。ここから、この先のスエの人生が垣間見えるだろうと想像し、どきどきしながら読み進めた。この間に、叔母が作家の家で留守番をしていたスエと同世代の白坂円との出会いがある。円も、ラストに向かって重要な登場人物となる。円は叔母と同じ小説家を目指していた。文林館の元取締役、野山彬が登場する。この野山も重要な登場人物。野山は、1960年代、学年誌黄金期入社後、30代で「学びの一年生」の編集長。円の執筆した作品を夢中に読んでいたスエ。未来を期待するスエ。
この後、野山も円も令和の時代に明日花と出会うことになり、スエとのつながりが鮮明になっていく。と読み終えたとき、昭和と令和のそれぞれの時代背景と社会情勢を生き抜いた登場人物と共に、解き放たれた自由な感覚に包まれている感じがした。それでも、令和の時代の今、まだその途中であり、これから一層の自由が待っている期待も膨らんだ。時代を超えた人のつながりと一つのものに関わる人たちの熱量を存分に味わった。それは古内さんの本作品にかける熱量なのかもしれないな。次の古内さんの作品が楽しみになった。続きを読む投稿日:2024.05.04
初めて読んだ作家さん。とても興味深いテーマだった。他の作品も読んでみたい。
人間たちが時代を作っているが、その大きな流れに翻弄されるのもまた人間たち。女性も男性も大人も子供もその中で逞しく生きている。…小さな一滴かもしれないが、どの人生も、またどの出会いもそれぞれが大切な流れの一部分だ。続きを読む投稿日:2024.05.20
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