この作品のレビュー
平均 3.3 (5件のレビュー)
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【読もうと思った理由】
以前、平野啓一郎氏の「本の読み方」の感想にも書いたが、平野氏がそもそも読書にハマったきっかけが、三島由紀夫氏の「金閣寺」だそうだ。(詳しくは「本の読み方」の感想をご覧くださいま…せ)なので僕もいつかは「金閣寺」を読まないとなぁと、ずっと心に引っかかっていた。ただ色んなユーザーの方が、難解な書籍だと感想をあげていたので、読むのにずっと躊躇していた。そんな折、ブクログのオススメ書籍で本書がピックアップされてきた。その名も「三島由紀夫論」。直近で読んだニーチェの「ツァラトゥストラ」に挑んだ際に学んだことだが、難解とわかっている本を読む際は、先に入門書なり解説書を読もうと決めていた。著者が本書を執筆する際に構想から20年の大作だと書いている。そこまで思い入れ深く書いた本であれば、読まずにはいられないと思ったのが理由。
【三島由紀夫氏とは?】
(1925-1970)東京生れ。本名、平岡公威(きみたけ)。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。'49『仮面の告白』を出版し、同性愛を扱った本作品は高い評価を得て作家の地位を確立した。 その後も『愛の渇き』、'50光クラブの山崎晃嗣をモデルとした『青の時代』、'51『禁色』、'54ギリシャの古典「ダフニスとクロエ」から着想した『潮騒』、'56青年僧による金閣寺放火事件を題材にした『金閣寺』、『永すぎた春』、'57『美徳のよろめき』、'59『鏡子の家』などのベストセラーを立て続けに発表。 また、同時期に、戯曲『鹿鳴館』、『近代能楽集』を発表。小説・戯曲・評論を通じて様々な実験を行ない美的探究を続けた。文学以外でもボディービルや剣道の練習、文学座をはじめとする劇団でみずから演出、出演をしたり、映画出演、自衛隊への体験入隊などで話題をまいた。 作品も精力的に描き続け、'65『豊饒の海』、戯曲に『サド侯爵夫人』など発表し、この頃にはノーベル文学賞候補として世界的にも名声をあげた。 '68〈楯の会〉を結成、'70森田必勝ら同会の学生と、東京市ヶ谷の自衛隊東部方面総監部に乗り込み、自衛隊の決起を促したが果たせず、割腹自殺した。 その美学を完成するために絶対者(天皇)が必要だとした主張とともに、死の行為は大きな波紋を及ぼした。享年45歳(墓誌には46歳)。 戒名は彰武院文鏡公威居士。作家の武田泰淳は「・・・息つくひまなき刻苦勉励の一生が、ここに完結しました」と弔辞を捧げた。
【平野啓一郎氏とは?】
1975年愛知県蒲郡市生。北九州市出身。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。40万部のベストセラーとなる。
以後、一作毎に変化する多彩なスタイルで、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2004年には、文化庁の「文化交流使」として一年間、パリに滞在した。美術、音楽にも造詣が深く、日本経済新聞の「アートレビュー」欄を担当(2009年~2016年)するなど、幅広いジャンルで批評を執筆。2014年には、国立西洋美術館のゲスト・キュレーターとして「非日常からの呼び声 平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」展を開催した。同年、フランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章。また、各ジャンルのアーティストとのコラボレーションも積極的に行っている。著書に、小説『葬送』、『滴り落ちる時計たちの波紋』、『決壊』、『ドーン』、『空白を満たしなさい』、『透明な迷宮』、『マチネの終わりに』、『ある男』等、エッセイに『本の読み方 スロー・リーディングの実践』、『小説の読み方』、『私とは何か 「個人」から「分人」へ』、『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』、『考える葦』、『「カッコいい」とは何か』等がある。
【本書の概要】
2023年、構想20年の『三島由紀夫論』を遂に刊行。『仮面の告白』『金閣寺』『英霊の声』『豊饒の海』の4作品を精読し、文学者としての作品と天皇主義者としての行動を一元的に論じた。三島の思想と行動の謎を解く、令和の決定版三島論。
【感想】
一冊の本で、ここまで読み応えのある本も久しぶりだ。この1週間ほど、読書に費やせる時間があまりなかったのもあったが、他の本を併読せずに、一冊読了するのに1週間まるまる費やしたのは、結構久しぶりだ。ページ数にして約650ページ。確かに分厚い本ではあるが、最近僕が読んでいる本は基本はほとんど分厚い本なので、まぁ2〜3日で読了出来るだろうと思っていたが、全然読み進められない。分量ではなく、内容が難解なのだ。実はこの本の構成として、確かに4作品を説明してくれているのだが、「豊饒の海」以外の3作品は、各100ページ程で、100ページ毎に区切りがあるのでリズムよく読めていた。だが最後の「豊饒の海」が、本書全ページ数のうち約半分を占めている。
また内容も後で詳しく書くが、仏教の「唯識」についてガッツリ踏み込んでいる小説なので、当然解説書である本書も、唯識についてかなり詳細に書いている。実はたまたまではあるが、「唯識」については、COTENの深井龍之介氏がYou Tubeの番組(木曜日は本曜日)で、人生に影響を与えた本として紹介していたので、「唯識の思想(講談社学術文庫)」は、既に購入はしていた。(まだ一切読んではいない)深井氏が3冊オススメしている中で、もっとも難解な本だという。(残り2冊は、アリストテレスの「ニコマコス倫理学」と、「進化論はいかに進化したか」〈更科功著〉)それでも唯識について説明した本を何冊も購入した中で、この本が唯一理解できた本だという。他の唯識の書籍は、難しすぎて理解が出来なかったんだとか。
ではあくまで簡単にだが、「唯識」とはなんぞや?ということを、あくまで僕が理解できた範囲で書くと以下だ。
「摂大乗論」は、まず認識作用を〈八識〉と分析する。〈五識〉は、眼識、耳識、鼻識、舌織、身織であり、これは我々の「五感」に対応している。更に、五識の感覚的な認識作用と共働し、それらを統合しつつ、言語によって概念的な思索を行う〈意識〉がある。これらの〈六識〉は、部派仏教から大乗仏教の中観派に至るまで共通している。唯識は、六識を「変化しつつ生成する識」という〈諸転識〉として整理するが、元々はこれは経量部に帰せられる原理であった。唯識が独特なのは、更に七番目に〈末那(まな)識〉を、八番目に〈阿頼耶(あらや)識〉を設置している点である。末那識とは、自己同一性に固執する潜在的な我執である。私は私だ、という言語的な自覚は六番目の意識に属する顕在的我執であり、区別されている。また、末那識の対象が、外界ではなく、八番目の阿頼耶識である点も大きな違いである。更に、意識の我執が断続的であるのに対して、末那識は「恒審思量」を特徴とし、生死輪廻する限り、阿頼耶識を執拗に自我(アートマン)であると思い込み続けるという点、常に四煩悩(我癡、我見、我慢、我愛)と共に機能し、それ故に汚染された心とされ、〈染汚意(ぜんまい)〉とも呼ばれる点も特徴的である。末那識の語源は「マナス」(manas)であり、これは漢訳で「意」とされている。元々、末那識は意識の範疇であったのだが、「瑜伽師地論」に萌芽を見つつ、「摂大乗論」に於いて、徐々に独立した七番目の識として区別されるようになった。
では、阿頼耶識とは何か?
それは末那識の更に深層にある根本的な識であり、自我の実体であるかのように諸転識を把握統合し、保持する心でありながら、同時にこの世界の一切をも生み出すとされている。つまり唯識は有部が説く外界実在論を否定し、それはすべて阿頼耶識が生み出したものに他ならないと考え、外界に経験可能な認識対象は実在しないと主張する。したがって、実のところ、六識も末那識も、阿頼耶識によって生み出された現象的な識に過ぎず、言い換えるならば、八識はすべて阿頼耶識であり、一切は唯識だということになる。この六識+末那識+阿頼耶識は、三層八識として構造化されている。
瑜伽行派は、その名が示す通り、ヨーガと呼ばれる瞑想法を実施する修行集団であり、その思想を支えるのは禅定体験である。意識の深層に更に末那識を見出すというのは、一見、西洋思想史に於ける無意識の発見と類比されようが、フロイトのような臨床ではなく、それがヨーガの成果の一つだった点は注目すべきである。
我々が今日、阿頼耶識の概念に触れたとき、これを瞑想中の一種の直感と捉えるならば、実体験はなくとも想像に難しくはないであろう。禅定に入り、外界に対する五感の働きを極限まで抑制すれば、なるほど、現実とされている世界は、すべて脳内で描き出したものに過ぎないと感じられもしよう。
しかし一度、瞑想を中止して五感が外界に開いてしまえばどうか?有部のように、認識対象を、感覚器官がそのように見せている表層に過ぎず、「物自体」としての「法」は経験できない。と見做す認識にまでは達し得るであろう。例えば、ヒトとは異なる認知システムを備えた蝶や犬、コウモリが、私たちと全く違った姿でこの世界を経験していることは、生物学的にもよく知られている。
しかし、自己も外界も二つながらに存在せず、すべては阿頼耶識が生み出した虚妄である、と考えることには、更なる飛躍が必要である。私たちの通念は、どうしても阿頼耶識が一体どこにあるのかと、そのとき空間的な帰属先を求めようとする。一体私たちの内側なのか、外側なのか?なぜ、認識論に留まらず、存在論なのか?阿頼耶識は、生きている間は身体に付着し、その全身に遍満していると考えられており、無我であってまた、死後も持続する以上、例えばユング心理学になぞらえて、末那識を個人的無意識、阿頼耶識を集合的無意識のように理解し、個体内部の脳を中心とした現象と見做すことは、誤りなのである。
実際、世親の「唯識二十論」では、この世界は、ただ各々の心の表象であるに過ぎないと説かれるのに対して、有部のような外界実在論者から、外界に対象が存在しないのに、なぜ、そのような表象が時間的・空間的に限定されて生じ得るのか、と反論が為されている。それに対する回答は、夢は外界に対象を持つことなく認識が成立しているではないか、というものである。この夢への言及は、「摂大乗論」にも見えている。
また何故、同じ一つの表象を複数人が共有することが出来るのか、という問いに対しても、例えば地獄で皆に守衛が見えるのは、そもそも罪人たちが、前世で何か共通するような悪事を働いており、それが成熟して、同じ報いを被っているからだと説明される。地獄というのは、特殊な環境だが、この発想は、長い歴史的な時間の中で転生しつつ〈業〉を相続してきた人間が、日常生活の中で近似的な世界像を共有しているということを示している。
あくまで唯識の触りだけであるが、上記となる。
上記の考えが、もし完全に理解でき腑に落ちれば、例えば僕が直近で読んだ、村上春樹氏の「街とその不確かな壁」の世界観も、何の問題もなく理解できるし、なんなら似たような世界にも、意識が行くことも可能だろうなぁと。
ただ複数人が阿頼耶識下で共通認識を持つところまでは、正直言って、腑に落ちていない。だが、普段の意識で認識している世界は、全体のほんの一部のみで、もっと深くまでもし認識出来れば、普段とは全く違う世界観を持てるというのは、最近の読書と思考習慣で、朧げながらわかってきた。
正直いうと、唯識を理解することが難しすぎたので、「金閣寺」は、なんの問題もなく、普通に読める気がしている。難しすぎる課題に取り組んでいると、普段は難しく感じる問題もイージーに感じてしまう感覚ってありますよね。今回の金閣寺と唯識(豊饒の海)の対比は、まさにそんな感じです。今後「豊饒の海」を読む際は、当然「唯識の思想」を読了後に読みます。「唯識の思想」を完全に腹落ちするまで理解出来るのは、いつになることやら。だいぶ先になりそうかも。
【雑感】
このすぐ後に、三島由紀夫氏の「金閣寺」を読みたかったんですが、図書館の返却期限の兼ね合いから、次は、佐藤亜紀氏の「天使」を読みます。この本は前回読んだサン=テグジュペリの「人間の大地」を紹介してくれた森大那氏が、「絶対にハズレなし小説10選」の動画で紹介していた本です。森大那氏いわく、佐藤亜紀氏の本は、何を読んでもすべて面白いとのこと。恥ずかしながら佐藤亜紀氏は今回が初読みだが、前回の人間の大地(人間の土地)も当たりだったので、期待して読みます!
ちなみに「天使」のあとに、読もうと思っている本の順番は、三島由紀夫氏の「金閣寺」→伊坂幸太郎氏の「逆ソクラテス」→岡潔氏と小林秀雄氏の共著「人間の建設」→岡潔氏「春宵十話」→三木清氏「人生論ノート」の予定です。(あくまで予定は未定なので、その時の気持ちで、順番が前後する可能性はあります)続きを読む投稿日:2023.06.18
このレビューはネタバレを含みます
「仮面の告白論」
レビューの続きを読む
主人公の彼が、『悪』よりも『恥』を重視している事を非常に感じる小説であった。
戦争で生き残ってしまった苦悩が、生きたい→生きなければならない→園子を愛さなければならない、へと駆り立て…ていたのか。
園子への愛が本物であるように見えたが、彼の肉領域では同性愛なのは不変であったから、園子を実は愛していないのではないかと疑ってしまった。しかし、肉領域と精神領域での愛が異なることがあり得る事に合点がいった。続きを読む投稿日:2024.01.14
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