この作品のレビュー
平均 3.7 (7件のレビュー)
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80〜90年代ハードSFの代表格、グレッグ・ベアの中編2篇がハードカバーで刊行されました。「鏖戦」は「SFマガジン」掲載後に短編集に収録されましたが絶版、「凍月」はピンで文庫化されましたがこちらも絶版…、久しぶりの書籍化です。鴨は「鏖戦」についてはSFマガジン掲載時に一度チャレンジして玉砕ヽ( ´ー`)ノ、「凍月」は文庫版を読了していますが、どちらも良い感じでディテールを忘れていましてヽ( ´ー`)ノ新鮮な気持ちで再読いたしました。
読了して、最も強く心に残った印象は、純粋にして過剰なるヴィヴィッドなイメージの奔流。
正直なところ、鴨の浅薄な理解力ではよくわからないところも多々あります。読了しても「?」な状態です。が、その「理屈では良く理解できないけれど、とにかく美しい/カッコ良い」という世界観そのものを楽しむタイプの作風なんだろうな、と鴨は感じています。
ただ、その作風が、「鏖戦」と「凍月」では真逆の作用に働いて真逆の印象を残すに至ったなー、というのが、鴨の正直な感想です。
2作の何が違うのかというと、「鏖戦」の舞台は遙か遠未来の星間宇宙、人類社会も人類そのものも大きく変容している、いわば100%想像力を働かせることができる設定であることに対して、「凍月」の舞台は近未来の月社会、現代と地続きのリアルで生々しい、その分”今”のヴィジョンと価値観を相当程度共有している/共有せざるを得ない設定であることです。
「鏖戦」は、冒頭の舞台となる原始星群<メデューサ>の描写がもぅ圧倒的な迫力で、酒井昭伸氏のクールかつトリッキーな訳文も相まって、我々読者の現在位置から最も遠く離れた時間/空間/価値観を描き出していることをまざまざと見せつけられます。登場するキャラクターたちの独創性もまたしかりで、理解できなくても仕方ないと思わせてくれるレベルの社会的距離感を感じさせます。そんな遥か遠くの世界の物語を、幻惑的な文体でスピーディーに展開しつつ、最後の最後で我々読者にも理解できる、すなわち普遍的な虚無感と哀感を静かに漂わせてスパッと幕を閉じる、この鮮やかさよ!かなり難解ではありますが、SF者たるもの、一度は読んでおくべき傑作です。
他方、「凍月」は、鴨は文庫版のレビューで「よくわからないままあれよあれよという間に読了してしまった」と書き残しておりますが、今回再読してその理由がなんとなくわかりました。
終盤のイメージの鮮烈さは、まさに「鏖戦」と同レベルの針の振り切れっぷりながら、そこに至るまでのストーリー展開が現代の人類社会と地続きの価値観に支配されているが故に、描き出されるイメージの方向性があまりにも突然レベルアップしすぎて、完全に置いていかれてしまうんですよね・・・。そのため、終盤までのストーリー展開はとてもわかりやすいにも関わらず、読了後の「?」は「鏖戦」より遥かに上ですヽ( ´ー`)ノ
というわけで、鴨的には「鏖戦」は星5つ、「凍月」は星3つ、総合して星4つ、といったところです。
読者のSFリテラシーがチャレンジされる作品でもあると思いますので、心してお読みください!続きを読む投稿日:2023.07.22
グレッグ・ベア氏の作品を読むのは初めてでしたが
あまりに重く濃密で凄まじい、恐ろしい中短編集でした
2作とも、もう30年以上も前の作品だとは信じられない
『鏖戦』は遠い未来の宇宙戦争の話
時折現れる…古文調の文体が超絶格好いいし、当て字の漢字による固有名詞が頻発するのにもわくわくする
過酷な戦争の描写があるのに、どこか美しく儚い情景が浮かぶし、とても女性的な印象をうける物語でもあった
難解だけど流麗な文章、語り手や視点が入れ替わる幻惑されるような物語、そして訪れた結末の無常さ…
どこか日本の古典文学に通じる印象を感じました
それにしてもほんとに、翻訳の文体がめちゃくちゃ格好いいし難解です
これを翻訳された酒井昭伸氏の他の訳書もぜひ読んでみたい
『凍月』は『鏖戦』での世界よりは、現代に近いかもしれない、月に移住して数世代が過ぎた、月生まれの住人の政治や陰謀、科学研究の話
高度な科学実験や、人体の冷凍保存技術、新興宗教とそれに絡む政治、などの様々な要素が絡み合い、どんどん展開するストーリーがずっと先が読めず、斬新でめちゃくちゃ面白い
語り手の主人公と、その姉、その夫の関係性が何とも魅力的でしたし、語り手の前に障害として立ちはだかる人物の描写も、あるいは教え諭し利用もするし、でも導いてもやる師匠役の人も、作中に名前と音声しか出てこないけど重要なキーパーソンとなる新興宗教の教祖の逸話も、どれもキャラ立ちが秀逸で面白い
何よりも、周囲の人物と比べどこか印象が薄めであった語り手が、どんどん打ちのめされて変わってゆくさまの鮮やかさが楽しい作品でした
こちらの中編の訳者さんは『火星の人』や『プロジェクト・ヘイル・メアリー』も手がけている小野田和子氏、さすがです
それにしてもこの2作が、同じ著者さんの手による物だとは恐ろしい
でっかい引き出しが無数にあるグレッグ・ベア氏なんですね続きを読む投稿日:2024.01.10
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