世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道
中野剛志(著)
/幻冬舎新書
作品情報
世界が物価高騰に襲われている。この高騰は、景気の過熱に伴う「デマンドプル・インフレ」ではなく、景気後退・政情不安を招く「コストプッシュ・インフレ」の性格が強い。その背景にあるのは、グローバリズムの終焉という歴史的な大変化だ。このようなときには安全保障の強化や財政支出の拡大が必須だが、それらを怠ってきた日本は今、窮地に陥っている。世界秩序のさらなる危機が予想されるなか、もはや「恒久戦時経済」を構築するしか道はないのか。インフレの歴史と構造を俯瞰し、あるべき経済の姿を示した渾身の論考。
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商品情報
- シリーズ
- 世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道
- 著者
- 中野剛志
- 出版社
- 幻冬舎
- 掲載誌・レーベル
- 幻冬舎新書
- 書籍発売日
- 2022.12.14
- Reader Store発売日
- 2022.12.14
- ファイルサイズ
- 6.2MB
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この作品のレビュー
平均 4.2 (7件のレビュー)
-
先ず、現状の日本をどのような状態と捉えているか。その原因は何か。状態が良くない場合、その対策は。このような論旨で解決策まで提起するのが本著。論理展開を開始する第一の切り口が、リベラルなグローバリズムの…終焉という事だ。
データの説明が分かりやすい。貿易開放度とはGDPに占める輸出入合計の比率だが、つまりグローバル化の傾向を示す。1870年には世界で17.6%、1913年29%、1945年10.1%、1980年39.5%、冷戦終結し更に加速。2008年に61.8%まで。しかし、リーマンショック以降にこれが鈍化。更に、ウクライナ情勢がアメリカによるグローバリズムに終わりを告げる。
2014年アメリカの国務次官補であるビクトリア・ヌーランドがウクライナに親米政権を樹立しようと画策したことが情報流出。更にその後バイデン政権はヌーランドを国務次官に任命した事でプーチンの警戒は高まる。NATO東方拡大に先鞭をつけた責任者オルブライトはウクライナ侵攻一ヶ月後に死亡。ロシアによるウクライナ侵攻が、アメリカのリベラル覇権戦略の破綻を示すというのが著者の主張。
アメリカは中国に240万人の雇用を奪われた。ブレグジットは東ヨーロッパからの低賃金労働者流入によりイギリスの賃金低下も主因に。日本における別のデータで見てみる。1990年代半ばに1割程度だった日本に海外投資家比率は、2006年には4分の1へ。外国人株主の影響が強い企業ほど賃金抑制圧力を受け、賃金が低くなる傾向だという。つまり、先進国はグローバル化により賃金や物価が抑えられていた。それが終わりなら、インフレ傾向は自明。このインフレは、需要増が導くディマンドプル型ではない。
コストプッシュインフレは、生活基盤物資に対する支出の割合が大きい。低所得者層や労働者階級の生活を圧迫する。従い国民は高インフレに対して不満を抱くものであり、高インフレを放置する政府を支持しない。インフレ悪しき、だ。
で、恒久戦時経済へというのが著者の主張。少し乱暴な要約だが、こんな感じか。戦時経済体制での肝は政治介入による特定物資の価格統制。しかし、ガソリンや電気代、鋼材や食料品など、競争原理など働いておらず、談合を禁じても価格が上がる時には横並びで上がるのが現状。既に自由競争はあまり機能していない。コストを支配する水道の蛇口がエネルギーコストのように共通なら、自然とそうなるのだろう。売価をコントロールしても仕方なく、結局、根本は輸入材料・輸入資源の価格次第ではないのか。故に、個社任せにせず関与すべきは売価ではなく調達ではなかろうか。続きを読む投稿日:2023.12.03
このレビューはネタバレを含みます
昨年12月に刊行されたので、もうすぐ1年というところである。著者の書籍は初めて読んだが、その指摘がその後に起こった変化を含め現状をよくとらえている点に驚いた。
レビューの続きを読む
まず冒頭に「グローバリゼーションはリー…マンショックで終わっていた」という衝撃的な主張が。確かにリーマンショック後、ロシアのジョージアやクリミア侵攻や中国の南沙諸島や尖閣への介入が強まる。この間、北朝鮮も核実験を加速させていた。一方のアメリカはオバマの下で融和政策を取り続けた。10年以上に渡る前段階があってから、ウクライナ戦争や習近平独裁確立によって現実的な脅威となった。グローバリゼーションが世界を平和にする、という主張は空想的だったことが明らかになった。
とはいえ、この本のメインは経済の話である。インフレがコストプッシュなのかディマンド・プルなのかで対応策が変わるはずという主張は、渡辺努『世界インフレの謎』でも指摘されていた通り。この本ではグローバル化はデフレを、インフレは世界の大変革を引き起こすという経験則を、歴史から導いている点が目を引いた。インフレは格差を増大させ社会を不安定にし、反乱・内戦・革命・戦争を招き寄せるのである。
70年代以降に起こったインフレを、共産圏諸国は配給制によって乗り越えようとしたが失敗し、冷戦が終結する。その後はグローバリゼーションが加速、旧共産圏の安価な労働力が入ることでインフレが抑制された。
ところが現在のインフレは格差が増大し国際情勢が不安定化する中で襲ってきたものであり、アメリカもEUも国内・域内に政治的分断や難民問題・債務問題などの多くの悩みを抱えている。その影響はこれまでのインフレよりも深刻なのだ。
ではどうするか。筆者の主張は「恒久戦時経済」への移行である。戦時経済とは総力戦を遂行するために、経済のあらゆる面に政府が介入し統制するということだ。もちろん現状で日本は戦争状態にはないが、エネルギー、食糧、技術、労働力までもが希少化する現状では、そうした統制をかけなければ我々は生き残れない、と著者は主張する。確かに中国は今、自由主義経済を捨て戦時経済に移行していると見れなくもないだろう。これから軍事力をかさに様々な材を横取りしようとしてくるはずだ。
しかし著者の主張に一つだけ反論するとすれば、統制経済などという国民に不自由を迫るような政策を、今の日本政府が実行できるかという点である。そのような気骨のある政治家がいるのか。残念ながら、未来はあまり明るいとは言えないようだ。続きを読む投稿日:2023.10.28
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