経営リーダーのための社会システム論~構造的問題と僕らの未来~
宮台真司(著)
,野田智義(著)
/光文社
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「安全、快適、便利」なのに、なぜ生きづらいのか? 社会学者・宮台真司と経営学者・野田智義が、大学院大学至善館で行った講義を初書籍化。社会なくしてビジネスは存在しない。ところがビジネスパーソンほど、ふだん社会のことはあまり考えない。社会は便利で暮らしやすくなっているはずなのに、人々はなぜ孤独で誰もが入れ替え可能なことに悩むのか? すべての企業人必須の、社会と未来を見通すための知的フレームワーク。
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この作品のレビュー
平均 4.6 (22件のレビュー)
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野田智義は、非営利の独特な教育機関であるISL(Institute for Strategic Leadership)の創設者である。ISLは、大企業の経営幹部候補を対象に、リーダーを育てる教育を行う…機関である。私はこれまでに、金井壽宏先生との共著である「リーダーシップの旅」という野田智義の著書を読んだことがあり、とても共感を覚えた記憶がある。ISLを母体に、2018年には大学院大学の至善館を開校されている。
宮台真司は有名な社会学者であるが、その至善館の特任教授として講義を受け持たれていて、本書「経営リーダーのための社会システム論 構造的問題と僕らの未来」は、その至善館での講義を著書にしたものである。
とても面白かった。社会学という学問を学んだことはないが、学んでみたくなるような書籍だった。
宮台真司と野田智義は、現代の日本社会を「社会の底が抜けている」状態であると認識している。それは、特定の大きな「悪者」がいるわけではないし、皆が悪い社会にしようと意図的に悪事を働いているわけではない。それは、社会システムの問題であり、構造的な問題である、と本書の中で主張しており、本書の大部分を使って、どんな状態なのか、その構造的な原因などを分析し語っている。
本書はISL・至善館での講義ノートなので、対象はリーダー候補の人たちだ。こういった状態の中で、あなた方は、リーダー候補としてどのように考え、どのようなアクションを起こしますか?というのが、講義の、本書の問いかけだ。
お二人が主張されていることの詳細の内容は本書に譲るが、とても漸進的で真っ当な内容であり、これらのリーダー候補の人たちが、それぞれの持ち場で本気で実践してくれると、世の中が良い方向に変わるきっかけになるかもしれないと感じた。続きを読む投稿日:2022.06.14
このレビューはネタバレを含みます
自立依存から他律依存への頽落
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構造的問題の最大の特徴は、「悪役がいない」ということだ。悪役がいれば、話は比較的単純だろう。打ち倒そうと正義のヒーローが現れるし、必死の覚悟で一揆をおこすことだってできる…。でも、悪役がいなければ、ヒーローは現れようがないし、抵抗のエネルギーを結集することもできない。
コミュニティの維持について大切なのは、おせっかいを互いに許容しあうこと、人の人生に入り込んでいくことをお互いに許容しあうこと。具体的には、祭りでみこしを担ぐようなこと。バックボーンの異なる人たちが力を合わせてみこしを担ぐ、そういう肉体を使った共同作業を行うこと。それを「いいなあ」と感じてもらうこと。→「体験のデザイン」
「いいとこどり」はできない。
絆には絆コストがかかる
一人ひとりが安全快適便利を求めることは止められない。しかし、「つまみ食い」や「いいとこどり」は許されない。「いいとこどり」ができないのが社会の厄介なところ
「生活世界」と「システム世界」
・「生活世界」地元商店的
コミュニケーションは顕名的、人格的、履歴的
店主の代わりを務められる人はいない 人材の入れ替えは容易でない
共同体意識、仲間意識によって成り立つ→いわゆる「ウザさ」「不自由さ」の原因にもなる
・「システム世界」コンビニ的
匿名的・没人格的・単発的 → 没主体化・損得化・動物化
慣習しきたりではなく、マニュアルに従って役割を演じ切ること重視
人間関係は全体的・包摂的ではなく、部分的・機能的なものを求められる
結果「善意と内発性」ではなく「損得勘定」が行動動機になってしまう
基本的に感情を伴わない-
「法よりも掟」
「相対的剥奪感」と「外部帰属化」
日本ではこうした変化が特に著しく、汎システム化と共同体空洞化の先に絶望しかないことを他の国々に先駆けて示している点で「課題先進国」なのです。
日本が課題先進国になった理由は、
第一に「郷に入っては郷に従え」の類の共同体従属規範はあっても、「共同体の衰退を是が非でも避けなければならない」という共同体存続規範がないこと。
第二に「人が見なくても神は見ている」の類の、人のまなざしと神のまなざしを分ける宗教的規範がないこと
加えて、日本の共同体は「遠くの親戚より近くの他人」的な地縁共同体であるため、システム世界の拡張がもたらす高い流動性に脆弱
以前の「世間体」は実際に「誰かに見られている」と同義だったが、地縁共同体の崩壊以降、世間体は形骸化し生活様式の共有を描いた匿名者たちの内容空疎なモードになります。
そこでの世間体は、見かけをとりつくろわせるだけの「外野のノイズ」で、孤独に耐える勇気やちゃんとふるまう動機を与えられません。
マッチングアプリで出会っても、カップルが絆をつくることは難しい
①大半は、互いに相手を入れ替え可能だとみなし続けてきたクセがある
②「相手はまだアプリを使っているかも」と想定しながら付き合うことになる
から
便利なシステムではあるが、人間が求めているはずの全人格的な性愛関係を回復させるものではなく、むしろ属性主義や損得化を加速させる方向で確実に機能している
→「逆説的な不全感」
出会いにコストをかけたくないから、マッチングアプリを使う。すると相手が見つかってももっといい条件の人を探す→「おかしい。なんでこんなに頻繁に相手を入れ替えなければいけないんだ?」とは思うが止められない→結局は「高コスト」
ネットコミュニティは何らかの目的を持って参画する。そうすると、人とのつながりは、極めて限定的、合目的的にならざるを得ない
かつては、国家の中に共同体が残っていた。自分たち誰のことを考えていたら生きられなくて、他人に助けられた経験を持っていた。なので人は倫理的に育ちやすくなっていた。でも、共同体が空洞化すれば倫理的な指導者を生む環境も空洞化する
ゲーティッドコミュニティ、独立する富裕層の減少→もはや「国民=仲間」「われわれ意識」はなくなりつつある
→統治コストは飛躍的に増大
人間は利便性のためにシステムを作り出しますが、使い方を間違えると、人間の行動がシステムに支配されてしまいます
「お金が人間を支配する世界」と「AIが人間を支配する世界」はなだらかにつながっている
「お金が人間を支配する世界」の観点から見ればシステム世界への依存度が高まるほど、そこに市場が作られる
↓
その市場はさらなる格差や貧困を生む
↓
それを再配分で埋めずに、バーチャル世界が与える幸せで埋めれば、ますます格差が広がる
監視カメラや信用スコアによる統治 パブリックマインドをあてにできる「信頼ベースの社会」か「不信ベースの社会」か
5章引き続き「統治」の視点から
システムの全域化≒構成員が動物(快不快損得だけで動いても)であっても回るしくみ→客の常識をあてにしないのでさらに不信社会を招くしくみ(象徴的な出来事がモンスタークレーマー)
キーワードは「仲間」です。「どの範囲までを仲間だと思えるか」
「災害ユートピア」
阪神大震災では出現、東日本ではあまり見られなかった→普遍的な現象ではない
東日本では宗教、お寺の檀家運営などでだけ出現=システム世界の外(≒共同体)を日ごろから大切にしてきたから
災害ユートピアは、どんなに集団を小さくしてもできないのか。安全が確保されていれば一時的にでも出現するのか。
→答えは、育ち方の環境です。「利他性」や「貢献性」について「概念としてはわかるけど、そういう感情が自分の中に生まれたことがない」・・・そういう人たちには共通して、誰かが犠牲を払ってでも自分を助けてくれたという経験がありません。経験がないのは彼らのせいではありません。
社会の統治の未来を考える時には、「どんな生育環境を、自分の子供や仲間に残したいのか」という問いが重要になるのです。
「利己的な利他」と「利他的な利他」
自分が救われるために誰かを助ける 端的に助けたいから助ける
システム世界に向き合う際のアプローチ 社会成員に期待すること
・ヨーロッパ世界 人として「まとも」に生きようとすることを期待する
・アメリカ世界 設計された環境に適応し、「うまく」生きようとする
テックはシステム世界の全域化=汎システム化を促進→個人間の分断、クラスタ間の分断→人々の動物化→
内発性とは無関係に損得だけですべてを済ませられる領域が広がったので、他者とのつながりを維持することもコストだと考え始め、損得を超えた倫理に関心を持たなくなりつつある・・・「感情の劣化」
「人間であること」と「人間的であること」は違う
人間的なAI、遺伝子組み換えによる人間的な改造哺乳類、非人間的な人間が横並びになる
すると「人間であること」よりも「人間的であること」の方が大切になる
8章 処方箋
システム世界も生活世界を含めた全体の中の内部表現。それぞれ独立していない
再構築を目指すのは「システム世界の力を借りて存在する人工的な共同体」
共同自治とは、地方自治のようなものを指すのではなく「われわれが、われわれのことをなんとかする」「任せて文句を言うのではなく、引き受けて考える」
没主体化・損得化・動物化に一人では抗えない
システムのファストフードに対する人間関係のスローフード のような 二項図式は失敗する
「気にかかる仲間」はネット上では作り出せない そこから「全体への意識」
「一人で自分のために知恵を出そう」は動機が枯渇しやすい 「みんなで、みんなのために知恵を出そう」は楽しくなる。熟議の場で、みんなが仲間になっていない状態では、断言調で極端な意見を話す人がいると「潔さ」や「痛快さ」を感じる人が出てきて、その意見が通りやすくなる。
中動態≒能動的受動 見るでも見られるでもない「見える」
「われわれ意識」を生じさせる
「われわれ意識」を持つのは、「われわれ意識」を持とうとするからではなく、「われわれ意識」を持つのが自然な環境に置かれて育つからです。正確には気づいたら「われわれ意識」が生じているのです。
全員を巻き込むことは理想ですが、現実的ではありません。
→「われわれ意識」をはぐくむには、「俺が決めた!仕切った!」という人ではなく「みんな参加した」という人をたくさん作ること。
統計的には全体の2割が議論に参加してくれたら大成功。それで雰囲気はがらりと変わる
→議論に参加してもらっても、他の意見をつぶしたり決定権を持たないようにすることが大前提
みなさんが生きてこられた社会はそれぞれだいぶ異なっていると思います。しかし、それがデフォルトです。生きている世界が違うからつながれないというふうに思ってしまったら、そこから先は一歩も進めなくなります。
暗黙の了解、とか、信頼で成り立っていたものが、契約とかルールでしか成り立たなくなる。
暮らしていくしくみが複雑になり、システムの力を借りないと成り立たなくなる。
顔と名前よりも、識別可能な番号や記号でないと成り立たない社会、逆に言うと入れ替え可能であり、主張しなければ忘れられていく不安や孤独と向き合う社会続きを読む投稿日:2024.05.08
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