世界の美しさを思い知れ
額賀澪(著)
/双葉社
作品情報
蓮見貴斗と尚斗は一卵性双生児。弟の尚斗は人気俳優だったが、遺書も残さずに自殺した。葬儀を終えて数日後に尚斗のスマホが見つかり、貴斗が電源を入れると顔認証を突破できてしまう。未読メールには礼文島行きの航空券が届いていた。自殺したのに、どうして旅行に行こうとしたのか。その答えを知るために貴斗は旅立つ。人気絶頂で自殺した愛する弟は何に悩んでいたのか。止められなかった自らの後悔を胸に世界を旅する貴斗。「生きること」と「死を受けとめること」の意味を問う、感動のロードノベル。
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この作品のレビュー
平均 3.7 (70件のレビュー)
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あなたのスマホにはどんな情報が入っているでしょうか?
スマホの所有率はどのくらい?10年ほど前であればそんな質問もあり得たかもしれません。しかし、今やこの国では90%と高い所有率となり、かつ10代や…20代に限定すると98%というもはや所有率という言葉さえ意味をなさないくらいに誰もが当たり前に所有するものとなりました。そんなスマホには、写真、SNS、そしてメールと、あなただけが知るあなただけの世界が存在しています。”スマホがなくては生きていけない”、そんな言葉が大袈裟ではないほどに私たちにとってなくてはならない存在となったスマホ。
一方で、そんなスマホにあなただけの情報を格納すればするほどにセキュリティというものの大切さが重みを増してきます。パスワード、指紋認証、そして顔認証というように、そんなスマホの情報を守るために用意されたツールたち。自分の知らぬ間に誰かにスマホを覗き見されていた…という起点のTVドラマに、ありえないだろう、と突っ込みを入れたくなるほどに誰もがそれぞれの情報を守ることに敏感にもなった現代社会。しかし、そんな厳重にも思われる認証をあっけなく突破することができてしまう現実もあります。『試しに、スマホを自分の顔にかざしてみた』という兄の前で『あっさりとロックは解除された』という弟のスマホ。それは、『同じ遺伝子情報と姿形を持つ人間がこの世にもう一人いる』という『双子』だからこそ成せる技です。
この作品は、自死を選んだ弟に『どうしてだ。なあ、どうしてだ』と問いかける兄の物語。そんな兄が、弟のスマホの中に遺された情報を元に、彼の死の理由を探し求めて世界を旅する物語。そしてそれは、そんな兄が『どうか世界が昨日より美しくあってほしい』と願う未来を垣間見る物語です。
『【速報】俳優の蓮見尚斗さん、自殺か』と『享年25歳』で亡くなった弟が暮らしていたマンションへと向かうのは主人公の蓮見貴斗。そんな貴斗は『尚斗さんの双子のお兄様ですよね?』、『遺書は見つかったんでしょうか?』、『自殺の動機について、お兄様は…』と矢継ぎ早に質問する記者』を『お話しすることは何もないです』と振り切ってマンションへと入りました。『尚斗から預かっていたカードキー』を使って部屋へと足を踏み入れた貴斗は『ドアを開けた瞬間、尚斗の匂い』をそこに感じます。『一週間前、俳優の蓮見尚斗はこの部屋で自殺した』と改めて思う貴斗。『中学三年生のときに渋谷でスカウトされ』、『今後の活躍を期待される若手俳優の一人だった』という尚斗。『2LDKの部屋は尚斗が死んだ日のまま』という尚斗の部屋で『最後に会った日のことを思い出』す貴斗は、『彼が死ぬ気配など、自ら死を選ぶ兆候など、微塵も見つけることができなかった』と振り返ります。『どうしてだ。なあ、どうしてだ』と尚斗に語りかけるように自問する貴斗。そんな貴斗は母親から『尚斗のスマホも探しておいてほしい』と言われていたことを思い出しました。『マネージャーや母親が「ない、ない」と騒いでいた』そんなスマホをあっけなく見つけた貴斗は、『充電ケーブルに』繋いで電源を入れます。『パスコードはアレか』と思案すると、『顔認識』を求められ、思わず『自分の顔にかざしてみた』貴斗。『全く別人の俺の顔で、開いてしまうのか』と驚く貴斗の前で『あっさりとロックは解除され』ました。『何か、尚斗の言葉が残っているんじゃないか。自殺の理由を記した遺書が、この中に』と、ボイスメモやメモ帳を見るもそれらしいものを見つけることはできません。そんな時、未読メールが表示されたのを見る貴斗は、『重要:ご出発日が近づいています』という件名のメールに目が止まります。『どう見ても旅行のリマインド』というそのメールには旅程表がついています。『羽田空港から飛行機で新千歳空港へ… 稚内まで飛び、礼文島のホテルに宿泊する』というその旅程の出発日は明日でした。『ふざけんな!』と『スマホをベッドに投げつけた』貴斗は、マンションを後にし尚斗の墓を訪れ骨壷から一片の骨を取り出しポケットへとしまいます。そして『稚内空港は小さな空港だった…』と『蓮見尚斗の名前で、飛行機に乗った』貴斗は、礼文島へと向かいました。そんな貴斗は、マルタへ、ロンドンへと尚斗がかつて訪れた街へ旅する中で、そんな土地に尚斗の死の理由を探す物語が始まりました。
沢山の花を頂いた髑髏が空を飛翔しているという強烈な表紙が頭から離れなくなるこの作品。そんな作品は『一週間前、俳優の蓮見尚斗はこの部屋で自殺した』と、双子の兄が、亡くなった弟の部屋を訪れる場面から始まります。若手俳優だった弟の死の理由を知りたいと思う兄は、弟のスマホをまさかの顔認証でロック解除します。双子はスマホの顔認証を突破できるのか?という話題は一時期ネットを沸かせました。現在でもさまざまな実験を目にすることができますが、その多くで普通にロックが解除できてしまう現実が報告されています。今このレビューを読んでくださっている方の中にも双子という方はいらっしゃると思います。この国で双子が生まれる確率は約1%とされています。逆に言えば、この国の1%の方はスマホの顔認証にリスクがあるとも言えます。しかし、そんなリスクを持った顔認証がこの作品を成り立たせていると考えると何とも複雑です。
そんな物語は、弟のスマホから得た情報を元に、『尚斗の匂い』を求めて彼が生前訪れた場所へと世界を旅する兄の姿が描かれていきます。そんな目的地となる場所は多彩です。この作品は七章から構成されていますが、そのそれぞれの章が目的地の名前となっています。『カラッとした風が吹いているが、紫外線がジリジリと肌を焼く』という『地中海に浮かぶ小さな島国』である『マルタ島』。『豪奢な門扉越しに見たバッキンガム宮殿から、ここがイギリスの真ん中だという声が聞こえた』と訪れたのは『ロンドン』。そして、『富士山より高い場所にある空港は、空気が薄い』、『雲の上の街だった』というまさかの南米ボリビアの首都『ラパス』、というように世界のさまざまな都市へと赴く兄・貴斗の旅が描かれていく物語はまるで旅行記を読んでいるような気分にもなってきます。また、そんな物語には『茹でた子羊肉、牛ハツの串焼き、ジャガイモと白トウモロコシのスープ、名前がよくわからない豆を煮込んだ料理』といった現地の食についての記述も多々登場します。『美味いものも随分食べたし、シンガニというマスカットの蒸留酒をホテルで浴びるほど飲んだ』と続くそんな主人公たちの行動を読んでいると、旅に出たいという読者の気持ちが刺激されてもきます。これらの都市に行かれた方はそんな場面を懐かしみ、まだ見ぬ世界という方にはそんな場面に思いを馳せる、この作品には額賀澪さんのぐいぐい読ませる見事な筆の力によって、物語を読みながら世界を旅する感覚が味わえるのがとても魅力的だと感じました。
しかし、そんな世界各地を巡る旅は兄・貴斗の単なる物見遊山というわけではありません。それは、『どうしてだ。なあ、どうしてだ』とこの世を突然後にした弟の死の理由を探し求める兄の姿でもありました。もちろん彼も単純に『マルタに来たら尚斗の自殺の理由がわかるだなんて、そんなことは思っていなかった』と冷静な判断の中にあります。その一方で『尚斗に対する〈わからない〉のうちのいくつかが、ここに来れば解消されるような身勝手な期待をしていた』と、世界各地を旅する兄・貴斗。この作品ではスマホのロック解除が起点となって進む物語があります。それは、上記した通り双子だから成せる技でした。『双子のくせに、何一つ、気づいてやれなかった』という貴斗の苦しみ。私は双子ではありませんので双子の方がそれぞれにどのように相手のことを考え、意識しているのかは分かりません。ただ、自分と同じ姿をした存在が目の前にいるという感覚は、やはり双子でない兄弟とは全く違う意識がそこに生まれるのではないかとも思います。この作品で、額賀さんはそこに一つの仕掛けを入れられます。それが、『俺達は生まれたときからずーっと、二人だった。なんでも二人一緒だった』という中、出かけた渋谷の街で『先に店を出て外で待っていた尚斗』がスカウトされたという展開の先にスターダムに俳優へとのし上がっていく弟とそうならなかった兄という運命の分かれ道です。『そこにいたのが尚斗でなく自分だったら、どうなっていたのだろう』と思う貴斗。『尚斗が俺で、俺が尚斗みたいになる未来があったのだろうか』とも思う貴斗。兄弟の一方が俳優であるということがどのようなものなのか、そしてそれが双子という特別な立場だったとしたら…。当事者でないとなかなかに理解できない、それでいて恐らくは相当に悩ましい葛藤を感じさせるこの設定が読者を物語に深く引き込んでいきます。
そして、この作品では視覚的にさらに面白い試みがなされてもいます。幾つかの章の冒頭にSNSの書き込みを模したようなページが挿入されているのです。似たような試みをしている作品としては、湊かなえさん「白ゆき姫殺人事件」があります。凝り方としては湊さんの方が断然徹底されていますが、額賀さんのこの作品のように手堅く一ページずつの挿入という方がくどくなく読みやすいとも感じます。そこには、『双子で片方が芸能人とか絶対仲悪い。嫉妬がないわけがない』、『蓮見尚斗兄、弟そっくりの姿で豪遊?弟の遺産はオレのもの?』といったような意地の悪い書き込みがなされています。昨今、こういった匿名が故の身勝手な書き込みが遺族に追い討ちをかける状況が問題視されています。この作品の貴斗も同じようにそんな書き込みを目にもしています。そんな複雑な心持ちの中、物語は結末に向けて”ある決断”を貴斗に求めていきます。
『あいつ、全部置いていった。世の中、綺麗だと思えるものが、まだたくさんあるのに』と尚斗のことを思う貴斗。『それでもなお、あいつは死んだ。あいつが選んだ死を含めて、あいつの人生だった』と冷静に尚斗のことを思えるようになっていく貴斗。そんな貴斗が結末へと向けて最後の一歩を踏み出す物語は、額賀さんが選んだ舞台の総決算となるような、極めて納得感のある結末を見るものでした。『いつか弟に「お前の知らない美しいものが世界にはたくさんあった」とあの世で伝えたい』と語る貴斗。まさかの二段階に展開する結末の物語を読み終えて、『世界の美しさ』という言葉に、『世界の美しさ』から浮かび上がる情景に、静かに思いを馳せました。
『「またね、気をつけて」 それが尚斗と最後に交わした言葉だった』という結果論の先に永遠の別れが待っていた双子の兄弟。そして残された兄・貴斗が、弟・尚斗の死の理由を求めて世界各地を旅する様を描くこの作品。『順風満帆に見えた弟は何故自殺したのか?旅の果てにその答えは待っているのか?死によって道を違えた双子達のその後を、ぜひ見届けてください』とおっしゃる額賀さんが描くこの作品。まるで旅行記の如く鮮やかに描かれた世界各地の風景と、現地で貴斗が巡り合っていく人々の優しさを感じるこの作品。『世界の美しさ』を知り、『尚斗の死を俺で飾ろう』と前に進んでいく貴斗の姿に、身内の死を乗り越えて生きていく人のたくましさを感じた素晴らしい作品でした。続きを読む投稿日:2022.03.21
ずっとずっと言葉が強い。
その強さに圧倒されながらも、引き込まれて行きました。私はとても好きでした。投稿日:2024.05.15
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