mRNAワクチンの衝撃 コロナ制圧と医療の未来
ジョー・ミラー(著)
,エズレム・テュレジ(著)
,ウール・シャヒン(著)
,柴田さとみ(訳)
,山田文(訳)
,山田美明(訳)
/早川書房
作品情報
ファイザー社と組み、11カ月という常識外のスピードで世界初の新型コロナワクチンの開発に成功したドイツ・ビオンテック社。画期的なmRNA技術で一躍注目を集めるバイオ企業の創業者/研究者夫妻に密着、熾烈なワクチン開発競争の内幕に迫るドキュメント。
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商品情報
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 早川書房
- 書籍発売日
- 2021.12.25
- Reader Store発売日
- 2021.12.25
- ファイルサイズ
- 2.2MB
- ページ数
- 432ページ
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この作品のレビュー
平均 4.4 (25件のレビュー)
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mRNAは将来のがん治療の主役かも
ビオンテックはがん専門の企業。
しかも新型コロナワクチン開発において、競合他社からまるまる一周分の遅れを取っていた。
素人だけでなく、業界に通じたアナリストでさえ、今回の同社による偉業を予測するこ…とはできなかった。
「科学は、私たちが思うよりもずっと、偶然のめぐりあわせに左右される」と述懐するように、この医学上の成功の裏にも多くの偶然が積み重なっていた。
事前にゲイツに促されて、専門のがん治療だけでなく、感染症、ひいてはパンデミックにも対応できる態勢を準備していたこと。
相手が比較的扱いやすいターゲットだったこと。
さらに、結果的に途中で中止されることになったが、SARSウイルス用のワクチン研究で、ターゲット候補が特定されていたこと。
これらにより、取り組みはじめて間もなく、20ものワクチン用候補を揃えることができ、あとは選別していくだけだった。
mRNA医薬品の規制当局がドイツ国内にあり、しかも連携が重ねられていて、承認のための土台がすでに築かれていたことも大きい。
ただし、これはドイツ政府の全面支援を受けていたという意味ではない。
むしろ融通の効かない規制により資金調達に苦労させらたし、国内で積極的に支援されていたのは別の会社だった。
無名だったこと、アメリカの企業ファイザーと提携していたことで、色眼鏡で見られていたこともあるが、一番大きかったのは、ウール&エズレム夫妻が、できるだけ他からの干渉を少なくして独立性を保とうとしたこと、そして確定した裏付けが得られるまでは中間的な治験情報など諸々を秘匿していたことが大きい。
メルケルから「何か必要なものはないか?」と問われ、「ロックアウト時にもジョギングできるようにしてほしい」と答えたというエピソードからは、彼らの奥ゆかしい性格とともに、何が何でもやり通すという固い決意が伺える。
ドイツ政府がようやくビオンテックに3億7500ユーロの助成金提供を発表したのは、ワクチン開発の最終コーナーを過ぎて、ゴール目前の段階になってからだった。
理想に近いほぼ完璧と思われる候補の選定も済み、各国で大規模な治験中の段階。
それまで同社は、原材料の調達や製造拠点の確保に、自己資金などで必死に工面していくしかなかった。
その後のインタビューでウールはこの点について「不満は一切ない」と答えているが、国産ワクチンの開発に国が全面支援していくと国会論戦で声高に叫んでいた日本の政治家を思い出し、到底埋まらない差を感じた。
他にも偶然があった。
脆いmRNAを保護し狙った細胞まで安全に届けるための、いわば乗り物に当たるカプセルがすでに実用化されていたこと、しかもそれが人体に無害であると承認済みで、さらにその工場が車で8時間の距離にあったことが実はかなり大きかった。
ビオンテックも新興のバイオベンチャーで社員数は少ないが、このポリミューン社も家内工場というから相当規模は小さいのだろう。
袋にmRNA材料を詰め、それらを外で待っているバンに詰め込み、8時間かけて運んで、脂質と組み合わせて容器に詰め送り返す製造プロセスは、車づくりを想起させる。
極めつけの偶然は、アレックス・ムイクという"バットマン"が社員にいたこと。
彼はもともとワクチン開発メンバーではなかったが、がん治療薬の仕事の合間に、同僚が直面する困難の話を聞き助けに動く。
それは会社に、中和抗体の試験を行うために必要な高いレベルの実験室がなくて、他社に依頼するにも時間はかかるわ、ロックアウト中だわで、ほとほと困り果てていた時、彼は既存の実験室でもテストできる偽ウイルスを作れるよと手を挙げる。
これだけでもお手柄なのだが、さらに彼はなんと、それまで治験で好成績を収めていた第一候補を上回る最終候補のワクチンを作ってしまう。
この当たりの経過があまりにも唐突でサラリと描かれているだけなのでもどかしいが、機密にあたることなのかもしれない。
しかしこの土壇場での最終候補の逆転劇は、実は多くの接種済みの日本人に大いに関係があって、もしこの逆転劇がなければ、もっと多くの人に接種後の副作用(発熱など)が見られただろうし、ひょっとするともう少し長く中和抗体が持続したかもしれない。
本書を読んでずっと謎だった、なぜこのワクチンは、感染を防ぐことはできないけど、重症化予防に効果を発揮すると喧伝されているのかもよくわかった。
確かに抗体を高めれば、ウイルスが細胞に入り込む前に攻撃し撃退することで、十分に感染予防ができるだろう。
しかし、今回のウイルスの特性上、またがん医療薬で培った経験から、免疫専門の狙撃兵であるT細胞をより多く呼び集め、活性化するほうが重要だと考えたのだ。続きを読む投稿日:2022.02.23
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本書『mRNAワクチンの衝撃: コロナ制圧と医療の未来』は コロナワクチンを開発した会社の1つであるドイツのビオンテックを取り上げたノンフィクションだ。 日本では同じようにmRNAを用いたワクチン開発…会社であるモデルナはよく知られているが、ビオンテックについてはあまり知られていないかもしれない。本書にも詳しく買いてあるが、それほど規模が大きくなかったビオンテックはワクチン配布にあたってはファイザーと提携しており、日本では”ファイザー”ワクチンと呼ばれていたからだ。
生物を真面目に勉強した人をのぞいて、コロナワクチンが広く利用されるようになるまではRNAという単語を知っている人はほとんどいなかったと思う。DNAについてはエンタメや親子関係の確定に広く使われているために普通の単語になっているが、RNAはそういった広まり方をしていないからだ。
このRNAというすごく簡単にいうと、DNAの情報をコピーするために使われている(正確に言えば体内に存在するので、”使う”という表現は正しくないが・・)。
本書によればこのRNAを用いて病気治療を行おうとする考え方は長い間存在していたらしい。mRNAを用いて体内の免疫系を利用する治療方法が確立すれば、よりテーラーメイドな医療を提供することが可能となると考えられていたからだ。
一方でmRANを 利用した治療は、コロナ禍が起こるまではまだ先の話だと考えられていたと本書には書かれている。 これまでにない新しい治療方法であるために、当局の審査や認可を受けるのは簡単ではないし、創薬には莫大な費用がかかるからだ。
ビオンテックは もともとは、感染症に対するワクチンを開発するためのスタートアップではなく、このRNAを用いて がん患者への治療薬を開発することを目的に作られたスタートアップだった。 そのためビオンテックはコロナウイルスが発生した段階においては、すでに上場を果たしており、有望なスタートアップとしてみなされていたらしい。一方でmRNAを用いた新たなプラットフォームを開発するには研究開発資金が十分ではなく、何らかの方法で資金を集めることが必要だったらしい。
コロナワクチンが開発され世の中に広まっていく過程では、このmRNA と言う技術は、まるで突然天から降ってきた発明のように報道されることもあった。自分も含めてバイオ技術を積極的に追い続けていない人間にとっては、 この技術は、当然学校で習ったこともなく、初めて聞く技術だったからだ。
ところが本書を読むと、このmRNAと言う技術は長い間活用のアイデアが温められ、それほど多くはないとはいえ研究が続けられていたことがよくわかる。実用化されなかったのは、適切なタイミングがなかったということと、もっといえば予算がなかったからだ。
本書を読めばわかるとおり、何かものすごい危機やチャンスが発生したからといって、突然新しい発明やアイディアが実現すると言う事は現実世界ではありえないということなのだ。 日の目を見るずっと前からそこに情熱を傾けている人間がおり、あるいは(広い意味での)リスクにかける投資家が何度も倒れた先に、初めて社会を変えるようなイノベーションは実現するのだということを、本書は(そしてmRNAの実用化という例は)教えてくれる。続きを読む投稿日:2024.03.18
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