日本人にとってキリスト教とは何か 遠藤周作『深い河』から考える
若松英輔(著)
/NHK出版
作品情報
神とは、信仰とは、どういうものか? 霊性と宗教は矛盾しないのか?
批評家、随筆家、そしてNHK「100分de名著」で最多の指南役を務める著者が、自身と共通点も多いキリスト教文学の大家の作品から、「日本人とキリスト教」を考察する意欲作。本書の軸になるのは、遠藤最後の長編『深い河』。著者はこの作品を「遠藤周作一巻全集」と呼ぶべきもので、遠藤の問いがすべて凝縮されている重要作と語る。神、信仰、苦しみ、霊性、死について・・・・・・。それら一つ一つを章タイトルに据え、登場人物の言動を丹念に追いながら、そこに『沈黙』や他作品を補助線として用いることで、遠藤や著者自身はもちろん、多くの日本人キリスト教者が追究した大テーマ「日本的霊性とキリスト教の共鳴」を可能にする。
はじめに 日本的霊性とキリスト教
第1章 神について
第2章 死について
第3章 出会いについて
第4章 信仰について
第5章 告白について
第6章 苦しみについて
第7章 愛について
おわりに 復活について
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この作品のレビュー
平均 4.0 (5件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
遠藤周作の『深い河』にたいへん感銘を受け、この著書に出合いました。
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『深い河』の魔力は、霧のようにわたしにまとわり付き、心を浸食していきました。 脆弱な感受性のわたしでさえ、深層のわたしに気づき、救われました。
そして、本書ですが、わたしが読み解くことができなかった数々の遠藤周作の思いを享受できたことが素晴らしく、嬉しい‼︎
キリスト教については、知識の乏しいわたしには難しいところはありましたが、丁寧で分かりやすい解説だと想いました。
その中で、キリスト教作家ベルナノスの言葉は衝撃的です。
『信仰というのは、九十九パーセントの疑いと、一パーセントの希望だ』
そして、『宗教多元主義』の考察も興味深いものがありました。
『深い河』のガンディーの言葉に言及されていますが、わたしがもっとも心惹かれた言葉です。
『私はヒンズー教徒として本能的にすべての宗教が多かれ少なかれ真実であると思う。すべての宗教は同じ神から発している。しかしどの宗教も不完全である。なぜならそれらは不完全な人間によって我々に伝えられてきたからだ』投稿日:2022.04.27
このレビューはネタバレを含みます
著者の若松英輔氏の日経新聞の連載が面白く、興味を持って本書を手に取る。共感できたり、勉強になったりすることは多かった。特に、「生活」と「人生」の違いというところは印象に残った。ただ、本書に含まれる多様…なテーマの繋がりというか、本書全体のテーマというのが捉えにくく感じた。タイトルの「日本人にとってのキリスト教」より、もっと広く普遍的なテーマを扱っている気がした。
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以下、面白かった点。
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遠藤周作はカトリックだが、プロテスタントの正宗白鳥を愛読した。
→プロテスタントとして正宗白鳥は読んでみたい。
戦国〜江戸時代の日本人は、霊性的欲求に従って、ある主体的な決意と覚悟のもとに、キリスト教を受容したと井筒俊彦は考えている。それは、キリスト教の「日本化」ではなく「血肉化」である。
仏教も、最澄、空海、道元によって、インド・中国のものがそのまま持ち込まれたのではなく、日本で血肉化し開花した。彼らが生きたのは「仏教」という思想ではなく、「仏道」と呼ぶべき霊性だった。「道」は人間がそれを生きることによってのみ確かになる何ものかである。それを「実存的」と言ってもよい。
仏教は自然に仏が宿ると考え、キリスト教は人間が自然を支配すると考える、という言説を耳にする。しかし、キリスト教にも自然の中に神のはたらきが注がれているという考え方はある。アッシジの聖フランチェスコや、現教皇フランチェスコなど。遠藤や遠藤の親友の井上神父は、人も草も神という大きな命に生かされ、そのことを無心に表現していくべきものだと考えた。
本書が扱うのは「生きるとは何か」という問題。「どう生きるのか」という処世術の問題ではない。遠藤はこの違いを「人生」と「生活」という言葉で区別した。そして、遠藤にとって信仰とは、自らを「人生」へと向き直させるはたらきでもあった。
著者は井上神父の弟子。
クリスマスは元々ローマの太陽神の祝日だったとされる。実際にイエスの生まれた日ではない。イエスのはたらきを陽の光と捉え、あえて救世主の誕生を冬に据えたところに、キリスト教の霊性がある。
「いのち」は「絶対矛盾的自己同一」として存在する。(西田幾多郎)
私たちの「人生」を根底からひっくり返すような言葉はむしろ、平凡な、ありふれた言葉なのではないでしょうか。ありふれているから、見過ごす。
生きるとは、どうにかして生まれ変わろうとすることだ、とすら言える
困難にぶち当たったとき、私たちは未知な情報を探します。あるいは新しい知識を求めます。しかし、そうしたとき試みなければならないのは、新しい何かの発見ではなく、自分が見過ごしてきたことと向き合うことなのかもしれない。
「人生」は私たちに進むことではなく、むしろ立ち止まり、佇むことを、そして、問いを深めることを求めます。
神父である大津は、「神」という表現をあまり用いない。この言葉は神そのものの姿を見えなくすると考えている。現代では「神」という言葉がもう「神」を表していないというのが遠藤の実感。
悲しみが、愛(かな)しみに変わる。
→八木重吉の「かなしみ」はどちらか?
遠藤と九鬼周造の偶然論。キリスト教では「偶然」という言葉は使わず、「摂理」「神慮」と言う。英語だと”Providence”。アリストテレスは、「絶対者とは偶然なき存在である」と言った。九鬼は、偶然を神霊の意によって否定する原始人も、偶然を自然によって否定する自然科学的決定論者も、原因の特定せずにはいられない焦燥と不安、また真理の探究を諦めているという点で同じとする。九鬼は若い日に洗礼を受けており、日本の重要なカトリック司祭・神学者・哲学者の岩下壮一と親友だった。遠藤は岩下の孫弟子。岩下は癩病院を経営した。癩病人の苦しみを見た時、プラトンもアリストテレスもカントもヘーゲルも投げ捨てたくなった。
→神はサイコロを振らない(アインシュタイン)
余白が生まれるとき、真の意味で出来事と呼ぶべきことが起きる(エックハルト)。作家は登場人物に対し、人は自分に対し、余白を作るべき。
遠藤もモーリヤックもドストエフスキーも、作中人物が作者に逆らって動き出すことを良いことと考えたが、サルトルはそれを批判した。
「恐れ」は恐怖、「畏れ」は尊敬が根底にある。
悲しみを知るものは、他の悲しむ者を慰めることができる。聖母マリア、中世の最も信仰が深まった頃、”Lady of Sorrows”(悲しみの女)と呼ばれるようになった。日本のカトリック教徒が激しい迫害の中で信仰を保ったのは、マリアに縋ったからである。仏教でも「悲母観音」という言い方がある。
→横田早紀江さんの悲しみを思う。
リルケは若い詩人に「日常」と深く交わること、幼年時代に注意を向けることを勧める。
宗教多元主義。ヒック、ガンジー、遠藤。どの宗教も多かれ少なかれ真実で、同時に不完全である。なぜなら、不完全な人間によって伝えられてきたから。宗教多元主義の力点は、宗教は何でもいいということではなく、全ての宗教は、同じ「神」「一なるもの」「実在」「超越者」から発すること、またそれぞれの宗教の中で自我中心から実在中心へと生き方の変革が起きていることである。複数の宗教の共通の根を考えず、一部を混ぜ合わせる混淆主義とは違う。混淆主義は歴史という根を分断するため長続きしない。続きを読む投稿日:2024.02.24
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