この作品のレビュー
平均 3.6 (6件のレビュー)
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いつも冷静な中島さんだから読んでみた。保坂さんについては、どうもむかし「朝まで生テレビ」に出ていたころの印象が強くて、あまりいいイメージがない。で、本書を読んで変わったかというと、なかなかこのイメージ…は変えられない。が、熟議デモクラシーを実践されており、信頼に値するということはわかった。ところで、中島さんは保坂さんを再び国政へとお考えのようだけれど、一自治体の首長として成功された方が、はたして国のレベルでもうまくいくのか。規模の違い、人口の差というのは大きいのではないか。ずいぶん前のことだが、予備校で200人とかを相手にしている先生の講演を聞いたことがある。ふだん多人数を相手にして授業をしている先生は少人数でも対応できるが、逆は無理だろう、というようなことを言われていたと思う。本当にそうか? あなたは3人相手に授業ができるのか? レベルの差は歴然としてくるし、誰に合わせたとしても不満は出る。ひとりひとりをしっかり見るしかない。そんなことを考えていた。保坂さんが国政に打って出たときに、必要とされるスキルはいったい何なのだろう。その辺が聞きたいと思って、オンライン対談の質問事項にあげておいた。日曜日が楽しみだ。ところで、メロリンキューはどうしたんだろう? 中島さん、けっこう押してたと思うんだけれど。山本太郎は僕にはメロリンキューのイメージしかない。過去につくられたイメージはなかなか払拭できない。続きを読む
投稿日:2021.07.22
政治思想の研究者である中島先生と、現世田谷区長の保坂氏の対談本。
中島氏が評するように、保坂氏が他と異なるのは、1人の人物内にある与党性と野党性の同居。
保坂氏は社民党として初当選し、自社さ政権時に、…当選1年目ながらに自民党の重鎮たちと政策論議を行ってきた。
そうした中で、当時の自民党幹事長の加藤紘一氏が、政策の各テーマに対して自民3人、社民2人、さきがけ1人の6人でユニットを作り、あえて多数決では決まらない熟議での政策決定の方法を執ったことが原体験と言う。そうした中で、加藤氏の、「保坂君が納得することに普遍性が宿る」という対立する立場の中でも熟議によって合意形成をする胆力のある与党政治家に触れてきたことで、自身の政治スタイルを確立したとも言っている。
また、これは本書の最後に記載があるが、小さい政党で与党に参画したことによって、対話する相手も格段にレベルが高い中で揉まれることが自身の成長や政治家としてのスタイルに繋がったとも後述している。
そうした中で、与野党を経験しながらも民主党政権後に、世田谷区長に立候補し、世田谷区長として10年以上区政を引っ張ってきている。今、「引っ張っている」という言葉を使用したが、中島氏の評するように、民主主義の中でのリーダーシップとは、スピード感をもってグイグイ引っ張るということではなく、時間をかける忍耐性でもあると言う。中島氏の保守思想にもあるように、人間は誤りを犯すという積極的諦念をスタート地点として、設計主義的に政権運営をするのではなく、人々から主体性を引き出し、それらを実現する手助けをするようなリーダーシップが、本来は求められている。保坂氏は下北沢の再開発や、各種討議事項においても、何十回と市民が集まり、熟議を行う会を開き、立場や意見を一度、度外視した上で、もう一度下北沢らしさとは、世田谷区らしさとは、ということを再帰的に考えた経験が、市民全体の政治リテラシーや満足度を引き上げているとも考えている。また、コロナの際には世田谷区モデルという対応策をいち早く構築し、過去からの霞が関人脈や政治家とのつながりも最大限に生かして、国政も動かしていく実行力も兼ね備えている。まさに理想的な区政のトップとしての振る舞いもある。
最後に印象に残ったのは、野党としての役割ということへの考え方で、特にコロナのような緊急時には与党は即時即応が原則となるため、野党はあえて数か月後や半年後を考えた世界中の知見収集や建設的な意見集約と与党への呼びかけが必要という言葉であった。政治に対してわかりやすさを求めるメディアの中で、与野党は長らく対立的なメッセージを強く打ち出してきたが、与野党のいずれも経験した保坂氏ならではの、与党と野党のお互いの価値の出し方という点が非常に建設的で感銘を受けた。こうした与党性、野党性は一般企業でも会社内の合意形成に非常に重要であるとも感じる。結果責任を負うリーダーはよほどではない限り、緊急時の即時即応のかじ取りをせざるを得ないからこそ、リーダーができないことを中長期、幅広いスパンであえて行うという棲み分けのポジショニングが非常に重要であると感じた。
政治がエンタメ化し、簡略化される世界の中で、保坂氏のような奥深く、複雑な事象を、複雑性を毀損せずに時間をかけて合意形成に至らしめるリーダーシップある政治家が、今後増えていくことを望んでやまない。続きを読む投稿日:2024.05.25
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