飢渇の人 エドワード・ケアリー短篇集
エドワード・ケアリー(著)
,古屋美登里(訳)
/東京創元社
作品情報
『堆塵館』でごみから財を築いた奇怪な一族の物語を紡ぎ、『おちび』でフランス革命の時代をたくましく生きた少女の数奇な生涯を描いた鬼才エドワード・ケアリー。その彼が本国で発表し、単行本未収録の9篇(『おちび』のスピンオフ的作品を含む)+『もっと厭な物語』(文春文庫)収録の1篇に、この短篇集のために特別に書き下ろした6篇を加えた、日本オリジナル短篇集。書き下ろしイラストも多数収録。ケアリーらしさがぎゅっと詰まった、ファン垂涎の一冊。/【目次】序/吹溜り/おれらの怪物/バートン夫人/アーネスト・アルバート・ラザフォード・ドッド/かつて、ぼくたちの町で/家庭で用いられる大黒椋鳥擬の歌/コズグレーヴ諸島/私の仕事の邪魔をする隣人たちへ/エドワード七世時代の寄せ集めの人物/おが屑/毛物/鳥の館 アーネスト・アルバート・ラザフォード・ドッド著/パトリックおじさん/名前のない男の肖像/グレート・グリート/飢渇の人/訳者あとがき
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商品情報
- シリーズ
- 飢渇の人 エドワード・ケアリー短篇集
- 著者
- エドワード・ケアリー, 古屋美登里
- 出版社
- 東京創元社
- 書籍発売日
- 2021.07.09
- Reader Store発売日
- 2021.07.12
- ファイルサイズ
- 18.1MB
- ページ数
- 232ページ
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この作品のレビュー
平均 3.3 (12件のレビュー)
-
吹き溜まり
1. 雪や落ち葉などが、風に吹きよせられてたまっている場所。
2. 行き場のない人たちが、自然と寄り集まる所。
「吹溜りは孤立した部屋で見つかることになっている」
「ご存じのように、大…半の吹溜りはあえて沈黙しているが、言葉を発するものもいる」
最初の「吹溜り」を読んだ時に、大好きな、「アイアマンガー三部作」を思い出しました。上記の、哀愁ある雰囲気の中にも、茶目っ気溢れる様が、奇妙さと共に、親しみやすさを感じさせるところなんか、まさに一緒です。
ただ、どうしてもイラストの怖さに目がいくと思うのですが(表紙を見るとね)、物語を読んだ後は、その印象も変わると思います。もちろん、イメージ通りで構わない方は、それはそれで問題なしです。ゾクゾクする作品もありますから(「私の仕事の邪魔をする隣人たちへ」や、「グレート・グリート」とか)。
アイアマンガー三部作は、人と物の関係の独自な視点や、ゴミの溢れる独特な世界観に、現代社会への痛烈な皮肉をユーモラスに盛り込みながらも、人間への愛がたっぷり込められていました。それは、今回の短篇集にも様々な形で盛り込まれています。
対のような、「バートン夫人」と「パトリックおじさん」は、どちらも別のものに、なぞらえている共通点があります。前者は、コロナ禍だからこそ生まれた、怖いような可笑しいような感覚が新鮮で、後者は、作者自ら描いた絵と共に、なんともファニー。
「パトリックおじさんは、春の初め頃に植えるのがいちばんよい」
また、「アーネスト・アルバート・ラザフォード・ドッド」が書いた作品(作中作に近い感じ)としての、「鳥の館」があり、どちらも「大黒椋鳥擬(おおくろむくどりもどき)」が登場しています。
これは作者が住む、オースティンの自宅の窓の外に実際いるのを見て、インスパイアされたのですが、前者ではそれを、「人生で味わったすべての恐怖、人間の残虐さをことごとく内包している」と表現していますが、後者では「喚起の鳥」となっています。
これには、「鳥の館」の主人公である、「クロウ」のこれまでの孤独な人生が報われた形になっており、そこに、精神崩壊寸前の作者ドッドのささやかな願いが込められているような気がして、何とも言えない切なさを、両方読むことで感じ取れました。
また、切ないといえば、表題作の「飢渇の人」もそうで、孤独な「ポール・バターブロット」と、犀の「ルイ」の心のやり取りに、ポールを想う「シャルロット」が入る関係は、やりきれない中にも得体の知れぬ恐怖が入り混じった結末に、荘厳な美しさを感じました。また、人生には悲しいことも起こるという、当たり前のことをまざまざと見せつけられたのも確かですが、その横に添えられた「ルイ」の絵柄には、作者の優しさが感じられて、少し気持ちが凪いだのも確かです。
作者のエドワード・ケアリーが生まれ育った館は、十六世紀のテューダー朝時代に造られたもので、何世紀にもわたるイギリスの歴史があり、作者自身、「そこで時間と対話をしていた」、という表現をしているのがすごく印象的で、物語を作る独創的な想像力や歴史を大事にされているところには、作者の懐の深いお人柄も感じられます。
そして、今回の短篇集は、なんと日本独自の短篇集ということで(書き下ろしもあり)、私は本当に幸せ者ですよ。翻訳家の古屋美登里さんの、作者との温かい友情があるからこそ実現できたのだと思うと、感謝に堪えません。古屋美登里さん、本当にありがとうございます。続きを読む投稿日:2021.08.15
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