名著ではじめる哲学入門
萱野稔人(著)
/NHK出版
作品情報
「国家とは何か」「権力とは何か」「政治とは何か」と問われて、明確に答えられる人がどれだけいるでしょうか。本書は、西洋哲学の名著を題材に、日本人にとって苦手な「概念によって物事を把握する力」をつけて、「哲学の実践」のスキルアップを図ろうするものです。
一般に「哲学を勉強する」というと、著名な哲学者の本を読んで丸ごと理解しなければならないと思う人が多いかもしれません。しかし、それは哲学研究者のすることで、哲学の本質ではないと著者はいいます。では「哲学」とは何なのか? 著者によれば、まさしく「〇〇とは何か」という問いそのものが極めて哲学的な問いであり、その問いに対して、あるいは物事をとらえるために、概念的に考えたり、概念を練り上げたり、新たな概念を創出したりする知的営みこそが「哲学」だと語ります。
では、概念的に考えるとはどういうことか? スピノザは、「〇〇とは何か」という問いについて、その問いの答えは、「対象となっているものの〈起成原因〉を表していなくてはならない」(『スピノザ往復書簡集』)と考えました。たとえば、地面に置いてあるボールを子どもが蹴ったとき、ボールが転がったのは「子どもが蹴ったから」とふつうは考えますが、それだけではありません。もし重い岩だったら蹴っても転がりません。ボールが転がったのは、ボールが丸くて軽く弾力性があるからで、また人間がそのように製造したからであり、ゴムという物質が地球上に存在したからであり、さらには硬い地表と重力が作用したからでもあります。これらが「ボールとは何か」の起成原因であり、物事を概念的に考えるということです。
本書では、このように近代の哲学者たちの名著を、「哲学」「人間」「国家」「政治」「権力」「存在」など、私たちが社会生活を営むうえで根幹となるものにグルーピングして、各項目3~5作品、1作品につき4、5ページのテキスト+イラストで構成します。
著者は「哲学の効用とは、頭をよくしてくれること、そして物事をより明晰に理解させてくれることにある」と断言します。自分の住む世界とはいったい何なのだろうか――。名著を味わいながら、世界のしくみを新たな視点でとらえる哲学の実践的素養が身につく、至れり尽くせりの哲学入門書です。
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商品情報
- シリーズ
- 名著ではじめる哲学入門
- 著者
- 萱野稔人
- 出版社
- NHK出版
- 書籍発売日
- 2020.09.10
- Reader Store発売日
- 2020.10.16
- ファイルサイズ
- 11.4MB
- ページ数
- 312ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (5件のレビュー)
-
・スピノザの起生原因
・ヘーゲルの言った「概念において把握する」とは、そうしたなぜそれが存在するかという根拠を原理的なレベルにまでさかのぼって認識することにほかならない。
・「いかに不合理にみえる現象…でも、そこに作動している存在のロジックを理性によって解き明かしていくことが知性の役割であり、また哲学の課題であると、ヘーゲルは考えていた」
・キリスト教的世界観はあくまでも信仰のために要請される世界観であって、それを哲学が探求すべき心理と混同してはならない。これがスピノザの基本姿勢だった。
・”生きることの意味”を考えるような問いは意味論的な問、もしくは当為論的な問いといわれる。そもそも人間が生きるとはどのようなことかという問いは存在論的な問いといわれる。
・アーレントの「労働」、「仕事」、「活動」。アーレントは「活動」を重視した。
その理由は、「活動」においては言論が主要な役割を担っているということにある。
・レヴィナスは私達には予想できないかたちで私達に迫ってくる他者のあり方を「<他者>の顔」と表現している。「<他者>の顔」とはあらゆる物理的な力よりもいっそう強力に私達に「殺すな」と抵抗してくる<他者の他者性>にほかならない。他者は「顔」を通じて、さまざまな物理的な力の全体を「超越」して、私達に特別な倫理的態度を要請してくる。物理的な力の「全体」を「超越」しているから、他者の存在は「無限」だといわれる。
・たとえものすごく憎い相手がいて、決して警察には逮捕されないという状況にあったとしても、自分の手でその人間を殺すことはなかなかできない。多くの人はその場合でも強い心理的抵抗を感じるはずである。その「抵抗」こそ、「<他者>の超越」という言葉でレヴィナスが示しているものである。引用文でレヴィナスは「<他者>の超越という無限なもの」は「殺人よりも強いのであって、<他者>の顔としてすでに私達に抵抗している」と述べている。
・とはいえ、レヴィナスの他者論には2つの難点がある。1つは他者は人間にとって特別な道徳を求めてくるだけの存在ではないという点。第2は「予見不能性」という点で人間存在の特別さを考えるのは不十分であること。人間という存在の特別さは、端的に、人間が人間にとって最大の仲間になりうると同時に最大の敵にもなりうるという点から考えられるのでなくてはならない。
→ この点については、相対性理論が量子論的なところに適用しにくいように、適用範囲が違うと思う。レヴィナスは一種の極限状態について述べたと思っている。
・ハイデガーの「現存在」は「人間」のこと。ハイデガーはこの世界に存在しているあらゆるものをまとめて「存在者」と呼んでいる。「現存在」としての人間はそうした「存在者」の1つにほかならない。
・ハイデガーは人間のことをなぜ「現存在」と呼ぶのか。そこには存在について考えるためには人間という存在者を手がかりにしなくてはならないというハイデガーの考えが反映されている。なぜ人間という存在者が存在を考えるうえで手がかりになるのかというと、人間は自分が存在するということを了解しており、みずからの存在をつねに気にかけているから。そうした人間の存在了解や存在への拝領を手がかりに存在そのものの意味へ迫ろうとするのが『存在と時間』の方法である。「現存在」の意味は、現にここに存在するものとして自らを自覚している存在ということ。
・「世界内存在」は人間がこの世界のなかで存在するさまをあらわしている。。。世界のなかでさまざまな存在者に囲まれて存在する人間のありさまを、ハイデガーは「世界的存在」と呼んだ。
・「有意義化のはたらきのうちで現存材は、おのれ自身におのれの世界内存在を先行的に了解せしめる」
・『存在と時間』におけるハイデガーの目的は「存在の意味とは時間である」ということを示すことにあった。現存在としての人間は、一定の時間的な幅のもので、現に自分はどのような存在であり、どのような存在者に囲まれているのか、今後どのように存在しうるのかということを「了解」しながら存在している。時間的な幅のもとではじめてその「ありよう」が理解されるということ、それがハイデガーの考える存在の意味である。
・人間の存在は人間にとっては特別で重要な存在に違いない。しかし、存在の世界全体にとっては、人間存在は決して特別な存在ではなく、他の存在者の存在と変わらない存在でしかない。
・ハイデガーの「用立て」
・テクノロジーを可能にする要素は人間の側にではなく、自然(つまり存在の世界)の側にある。存在の摂理に従うことによってしか、人間はテクノロジーを生み出せない。したがって厳密に考えるなら、テクノロジーを可能にしているのは人間と世界との特定のかかわり方であり、そのかかわり方を定める存在の力学である。この存在の力学は、人間が世界とかかわる仕方を定めるものである以上、人間が存在する仕方そのものを定めるものでもある。人間の存在は世界の中でかろうじてなりたっている以上、みずからの存在の仕方を定めるものを人間が自由に生み出すことはできない。
・政治は「善い・悪い」の区別のもので成立する道徳の領域とは異なった地平で存在している。
・国家ができることではじめて所有権も成立すると考えたホッブズと、国家ができる前から労働によって所有権はセイルつすると考えたロック。同じ社会契約説でも肝心なところが異なる。
・ひとびとを支配しうるほど強い集団が強制力を行使して自分たちにだけ特別な権利を与えることによって、法の状態、つまり国家が成立する。それ以前はいくら個々人が土地を所有していると主張しても、それは「権利」ではなく物理的な占有にすぎない。法と権利は国家が生まれると同時に発生する。所有権をめぐる問いは、ドゥルーズ=ガタリによればホッブズに理がある。
・ナショナリズムは非常に幅広いものである。ナショナリズムがなぜ排外主義を生んでしまうのか。それは、国家は私達国民のものだとナショナリズムが主張した瞬間に、「その国民とは誰のことか、どのような人間が国民にふさわしいのか」という問いが必然に出てきてしまうから。ポイントは、排外主義的なナショナリズムも国民主権にもとづくリベラルなナショナリズムもじつは地続きであり、状況に応じていろいろなあらわれ方をするのがナショナリズムだということ。
・国家は合法性そのものを独占している。法の外で勝手に行使される暴力は、いかに法に書かれている目的と一致する場合でも、「国家による合法性の独占」をおびやかしてしまう。
・フーコーによると、人間を命令に従わせるとと同時に能動的にものごとを生産してくれるようにすることが、「規律・訓練」という権力の目標である。
・「生-権力」は、「人間が生きるという現実のさまざまな場面に積極的に介入することで、人びとをより効率的に管理したり、人びとにより生産的な活動をさせたりすることをめざす権力」と理解できる。
・「生-権力」には2つの方向性がある。1つは、個々人の身体活動に働きかけることで、個々の人間をより御しやすく、またより効率的に活動してくれる存在へとつくりかえていくという「規律」の方向。もう一つの方個性は、出生率や平均寿命、経済指数といった統計で表されるような、人びとの集合体に介入する方個性。人びとが生きているという現実を一つのまとまり(集合体)として捉え、それを特定の指標によって数量化し、その数量を増やそうとしたり減らそうとしたりすることで、人びとの集合体をより望ましいものへと改善していこうという実践である。
・理論的には、人間を個人のレベルに分化し、個々の身体活動に介入するのが「規律」の方個性で、人間の活動を一つのまとまりとして捉え、そのまとまりが示すさまざまな現象を数量化して管理するのが「調整」の方向性と理解できる。
・ベッカリーアの死刑反対、カントの反論
・ミルは他者危害原理こそ文明社会の原理であるべきと述べている。
・資本主義においては所有(私有)とは単なるモノを所有することではなくなり、「権利」を所有することになる。続きを読む投稿日:2021.12.27
各哲学の概要と現代の問題とを繋げて解説してあるのが大変ありがたかった。「活動」における言論は、人格的アイデンティティーを表出するものとして、アーレントは評価していたが、現代はSNSでヘイトスピーチや誹…謗中傷が起こるなど、肉体的アイデンティティーを離れた空間を作っても、アーレントの考えていたような理想的な社会になっていないと指摘している例など、考えさせられる。
ハイデガーの山番の話、用立て理論が、ドゥルーズ・ガタリのアレンジメント=配置、案配、構成、機械状アレンジメントと近いこと、それは現代のテクノロジーが、人間社会関係そのものを編成する力をもっているということにもかかわっていることと同じなのだということも感じられた。AIの課題などが多く出ている現代の問題を考える上で、こういう考え方で捉えていく必要があるなと感じた。
政治を行うものの資質として必要なことや、国家がどのように生まれるのかなどについても、哲学の名著を通して語られることで、考えの幅が広がった。続きを読む投稿日:2024.05.07
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