世界怪奇実話集 屍衣の花嫁
平井呈一(編訳)
/創元推理文庫
作品情報
推理小説ファンが最後に犯罪実話に落ちつくように、怪奇小説愛好家も結局は、怪奇実話に落ちつくのが常道である。なぜなら、ここには、なまの恐怖と戦慄があるからだ――伝説の〈世界恐怖小説全集〉最終巻のために、英米怪奇小説翻訳の巨匠・平井呈一が編訳した幻の名アンソロジー『屍衣の花嫁』が、60年の時を経て、〈東西怪奇実話〉海外篇としてここに再臨! 怪奇を愛し霊異を尊ぶ、古き佳き大英帝国の気風がノスタルジックに横溢する、遠き世の怪談集。ハリファックス卿やE・オドンネルら、英国怪奇実話を代表する幽霊ハンターが集結!【収録作】1「インヴェラレイの竪琴弾き」/「鉄の檻の中の男」/「グレイミスの秘密」/「ヒントン・アンプナーの幽霊」/「エプワース牧師館の怪」/「ある幽霊屋敷の記録」/2「死神」/「首のない女」/「死の谷」/「女好きな幽霊」/「若い女優の死」/「画室の怪」/「魔のテーブル」/「貸家の怪」/「石切場の怪物」/「呪われたルドルフ」/「屍衣の花嫁」/「舵を北西に」/「鏡中影」/「夜汽車の女」/「浮標」/3「ベル・ウィッチ事件」/解説=平井呈一/新版解説=東 雅夫
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商品情報
- シリーズ
- 世界怪奇実話集 屍衣の花嫁
- 著者
- 平井呈一
- 出版社
- 東京創元社
- 掲載誌・レーベル
- 創元推理文庫
- 書籍発売日
- 2020.09.30
- Reader Store発売日
- 2020.09.30
- ファイルサイズ
- 7MB
- ページ数
- 382ページ
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この作品のレビュー
平均 3.0 (3件のレビュー)
-
想定外の面白さが、色々とある1冊だ。
正直、読み始めは困惑したのだが、次第にはまってきてしまった。
"チューニング"と私は呼んでいるのだが、そうして読み方をつかんだ後は、いかようにも面白く読める本であ…る。
怪奇実話を集めた本である。「世界」といっても、英米の話だ。
全体は3部にわかれていて、この第一部(表記はⅠ)に、困惑させられた。
ある人が、ある所(城)に逗留する。
そこで、不意なノック、足音に悩まされる。
なにかを目にする。
その城、その地域にまつわる伝説、怪奇話を聞く。
特に結論はない。
たしかにそうだろう。
実録であれば、説明も結論もないことはままある。
こんなことがあった、あんなことを聞いたというだけで、余談を入れない。
けれど、話としてはつまらないのだ。
こんなのがずっとおわりまで続いたらどうしようと、不安に思った頃、『エプワース牧師館の怪』が現れた。
これでがぜん面白くなった。
エプワース牧師館は、メソジスト派を興したジョン・ウェズリーが、少年の頃、住んでいた家である。
そこでおこった怪異を、彼の話や記録を主にして、わかりやすく書かれている。
怪異は、大きな物音や、勝手に動くあれこれという定番だ。
面白いのは、それに対する家族の態度だ。
はじめは恐れていた子供らが、次第に慣れてきて、
幽霊(と思われるもの)の登場を、時計のかわりにしたり、いっそ遊びの助けにしている様子が面白い。
牧師の父の血気盛んな態度と、啖呵も見所だ。
『なぜきさまは、こういう頑是ない、無力な子供たちをおどかすのだ! 来るなら、おとなのおれのところへやって来い!』 (81頁)
怪奇の記録なのだが、当時の宗教観や社会風俗などもうかがえて、そういった点でも興味深い。
つづく『ある幽霊屋敷の記録』がさらに面白かった。
記録したのはR・C・モートン嬢(仮名)。
自身の住む「典型的な近代住宅」に現れた幽霊のあれこれを、克明に記録したのだ。
しかも、受動的にただ書いたのではない。
話しかける、触ってみようとする、実体があるかどうか確かめようと実験をする。
知的な好奇心、探究心に満ち、行動力が優れている。
後の人の描く、少女探偵や女性探偵に通じるものがある。
よくやるなあと呆れも感心もして、読みごたえのある一品だ。
そして、第二部(Ⅱ)になると、より面白くなる。
物語としての出来が格段にあがるのだ。
文もいっそ落語を思わせる趣向になって、たとえば『魔のテーブル』などは、桂歌丸に演じてほしいと、私は切に願うくらいだ。
そう、「落語を思わせる」というのは、訳文が古めかしいからである。
大正から昭和にかけての、時に抹香のにおいさえする文章だ。
昔の本だからこんなものかと思ったが、いや、よく考えれば、ちがう。
この本が、全集の1冊として最初に出版されたのは、1959年(昭和34年)、すっかり戦後なのだ。
1954年 マリリン・モンローが来日、「シャネルの5番よ」の名言を発す
1956年 東海道線 全線電化
1959年 『お熱いのがお好き』 主演 マリリン・モンロー
編訳『屍衣の花嫁 世界怪奇実話集』 (世界恐怖小説全集) 東京創元社
マリリン・モンローが、劇中歌で「Boop Boop Bee Doop!」を披露する年に、
平井呈一は、文章をことさらに古風に仕立てているのである。
『台所の屏風』 (78頁) 英国の牧師館のキッチンに、屏風があるとは思えない。
『待ち女郎』 (160頁) キリスト教式結婚式にいるとは思えない。ブライズメイドのことだろう。
『太鼓判』 (163頁) 判子はその地にないだろう。
『宿六』 『断ちもの』(158頁) 『お百度』(216頁) いま知っている人はもう珍しいだろう。
びっくり戸惑いするうちに、だんだんと慣れてきて、しまいに声をあげて笑わずにいられない。
もとの言葉はなんなのかと想像する楽しみさえ湧いてくる。
さらにくわえて、数々の古風な訳の他に、珍しい言葉もあるのだ。
『たまか』(119頁) 初めて見知った。
調べれば東京方言でいう「ケチ」のことらしい。「吝嗇」「しわい」「倹約家」。
揶揄する意味をふくむのか、どこに強音があるかはわからない。
今でもつかう言葉なのだろうか。
『ずんずら短い』(159頁)は、しかし調べてもわからなかった。
「ずらりと短いものが並ぶ様子」でよいのだろうか? どなたか教えていただきたい。
新幹線開通は1964年、よって出版当時それは存在しない。
東京大阪間は、在来線特急で7時間半という時代だ。
人の行き来が難儀だと、人の交わりが少なく、土地土地の言葉が残りやすい。
書き記された知らない言葉に遭遇するのも面白かった。
『世界怪奇実話集 屍衣の花嫁』は、読んで怖がるだけではない。
読む人によって、それぞれの面白さのみつかる本だ。
あなた独自の愉しみのために、この独特の一冊を、強くお薦めする次第である。
『お熱いのがお好き』(1959)より マリリン・モンローの歌う「愛されたいの」
https://www.youtube.com/watch?v=5eDHlgnRuaM続きを読む投稿日:2020.11.24
怪奇実話集。って、本当に? 本当に実話? 嫌すぎる!!!
実話ってので、ぼんやりゆったりとしたものを想像していました。実際第一部はそうなのですよね。いろいろと怪異は起こる。その場に居合わせたらたしかに…怖いだろうと思う。けれどその理由が明かされるでもなく、まあたいしたことは起こらないじゃん、と思っていたのですが。
第二部、かなり怖いものが多いです。相変わらずはっきりとした解決はないけれど、だからこそ怖い。「首のない女」のラスト一文怖すぎ! 「呪われたルドルフ」もありがちな展開を予想して読んでいたら、ラストにやられました。本当にぞっとさせられます。「実話」なんていう冠があるだけに、怖さもひとしお。こんな体験はしたくないなあ。続きを読む投稿日:2021.09.28
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