生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて
山岡淳一郎(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 4.0 (7件のレビュー)
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マンションの終わり方って考えたことなかった!また、修繕積立金をむしり取ろうとする業者たちのことも知らなかった。分譲マンションに抱いた憧れは粉々です。
投稿日:2022.12.01
このレビューはネタバレを含みます
レビュー済みの商品 · 2020年9月20日
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生きのびるマンション <二つの老い>をこえて
山岡淳一郎氏による著作。
2019年8月22日 第1刷発行。
著者は1959年愛媛県生まれ。ノンフィクシ…ョン作家。
愛媛県立松山東高等学校卒業、早稲田大学中退。
雑誌編集者をへて、ライター集団「S&Bプランニング」で政治、社会、経済、スポーツなどについて執筆
「人と時代」「公と私」を共通テーマに政治・経済・医療・近現代史、建築など分野をこえて執筆。
時事番組の司会、コメンテーターも務める。
一般社団法人デモクラシータイムス同人。
著者の過去の執筆を見ていると、確かに幅広い。
分譲マンションだけというわけでも無い。
分譲マンションに住んでいる人も日本でかなりの数にのぼるはずだ。
非常に身近でかつ重要な問題であるけれど、その維持管理に無関心な人が多い。
だから本の数も他の分野に比べると少なめなのではないかと思った。
修繕積立金が不足しがちで、無関心、放置を続けると分譲マンションはあっという間にスラム化していく。
逆に関心を持ち、維持発展、住民の意思疎通の豊かな分譲マンションは100年住宅として続いていく。
選択の余地は無い。
どういった事に注意し、模索していけば良いのか本書を読む事で方向性を大きく踏み外す事は無くなると思う。
また広告チラシを見ているとついキラキラしたタワーマンションに憧れたりするものだけれども、維持管理という観点から言うと一般的なマンションよりも優れているとも言い難いのだなと学びになる事は多かった。
行政もマンションの維持管理をしやすいように法改正なり規制をしていくべきであろう。
行政代執行で廃墟マンションの解体をしても解体費用を結局自治体側で負担しなくてはならないケースが出ている。
とは言えどもその数が増えれば、今のような対応は不可能になる。
本書に登場した維持管理に成功したマンションは100年住宅を目指し安定した生活を送ることが出来ていて何よりだ。
鎌倉小町マンション、労住まきのハイツ、ルミエール西京極
不動産広告のチラシや冊子だけからは見えてこないものが分譲マンションでは多い。
NPO法人京滋マンション管理対策協議会のHPもかなり勉強になる。
印象の残った部分
2018年末現在、全国のマンション戸数は約655万戸、約1525万人が暮らしています。
その内、築後30年超が約198万戸で3割を突破。築40年超は約81万戸です。
国土交通省が5年に一度行う「マンション総合調査(2018年度)によれば
計画よりも修繕積立金が不足するマンションが34.8%を占めています。
マンション居住者の62.8%が「永住」を希望しており、世帯主の半数は60歳以上です。70代、80代の世帯主も増えており、数多の管理組合が理事ポストの継承につまづき、活動を停滞させています。
多数の住民は管理組合の活動や維持管理に関心がありません。
管理会社に任せておけばいい、と等閑視しています。
そのまま無関心のベールがマンションを覆えばどうなるか。
スラム化を呼び込みます。管理不能で住環境が荒れ、空室が増えてスラムへと転落するのです。
スラム化が進んで廃墟状態になったマンションの末路は、一般的には所有者の全員合意、耐震性不足の物件なら5分の4以上の賛成で建物の解体、敷地売却。区分所有権の解消です。
もしくは自治体が危険な「特定空き家」に認定し、所有者に除去命令が出されます。
応じない場合は「行政代執行」。
費用は所有者に請求されます。
他人にお任せの管理組合は、大規模修繕に際して悪質な建築コンサルタントや管理会社の主導で、「談合・リベート」の餌食にされ蓄えた修繕積立金をごっそり巻き上げられます。
購入者の大半は入居してから管理組合の役割に気づきます。
これで維持管理に関心を持てというほうが無理です。
だいじな問題にふたをしたままマンションは売買されているのです。
目を海外に転じれば、米国にはパブリックレポートの発行制度があり行政が共同住宅の購入希望者に、あらかじめ管理規約や長期修繕計画、管理委託契約などのレクチャーをします。
消費者は住宅の購入を思いついた段階で維持管理の知識や共同の務めを把握できるのです。
賃借人の多いマンションほど無関心層が多く、管理組合の理事のなり手が少ない。マンションに「永住」したい住民と、
投資で儲けたい区分所有者の維持管理への向き合い方が違うのは当然でしょう。
日本の全住宅流通量に占める既存住宅のシェアは約14.7%と、欧米諸国のわずか6分の1程度です。欧米とは建築文化や大地震の有無、
消費者の嗜好に違いがあるとはいえ、なぜ日本では住宅が余っているのに毎年、100万戸近くも新築が市場に投入されるのでしょうか。
空室が全戸の20%を超える危機的なマンションの比率は、築後30~39年で2.1%、築後40年超では4.4%に上昇します。
築後40年が空室問題の深刻化する境目のようです。
マンションの空室問題は、一戸建てとは異なる難しさをはらんでいます。
相続人が遠方で暮らしていて、相続したマンションの立地が悪いと住戸のリニューアルや売却、賃貸が困難になります。
設定できる賃貸料や売値が安くて採算に合わず、住戸は不良資産へ。
余計な出費はしたくない、と管理費や修繕積立金の滞納が始まり、管理組合に累が及ぶのです。
単身世帯で「天涯孤独」を貫いた人が遺した住戸の処分は大変です。
管理組合団体の幹部は次のように言います。
「一般人では調べ尽くせない来歴の故人もいます。本当に誰1人、連絡が取れない人は役所に頼むしか無い。結局は警察ですね。
警察は独自の情報網で係累を探し出してくるけど、遠い地方や外国に住んでいて、そっちで処分してくれ、という縁者が多い。最後は競売ですけど管理組合にかかる負担は大きいですよ」
本来、鉄筋コンクリート(RC)造の建物は、40年や50年で寿命が尽きるものではありません。
国税庁はRC造の耐用年数を47年としていますが、これは会計上の減価償却の対象となる期間であり、物理的寿命とは別物です。
RC造は47年経過すると会計上の建物の価値は0になります。
しかし建築の専門家の間では「RC造は通常60~70年、補修して良い状態を保てば100年は大丈夫」といわれています。
管理不能に陥らなければ、建物は1世紀の風雪に耐えられます。
デリケートなのは、設備、とくに上下水道や電気・ガスの配管です。
配管の寿命は30年程度ともいわれています。
古いマンションでは給排水管がコンクリートの柱や床に埋め込まれていて交換に大掛かりな工事が必要なケースもあります。
管理組合の使命は、一言で表すと「みんなで話し合って決めて実行する」こと民主的な意思決定に尽きます。
理事長は毎年少なくとも1回の通常総会を開かねばなりません。
決議の内容によっては臨時総会も招集できます。
議案は、普通1住戸1票を持ち、多数決で議決されます。
総会が成立すれば、収支報告や管理費の決定、管理会社の変更などを決める
「普通決議」は区分所有者および議決権の過半数で、管理規約の設定や共用部分の変更などに関する「特別決議」は同じく4分の3以上、
建物の建て替えは5分の4以上の賛成で可決します。
人口減少と超高齢化の重圧がかかる日本。
マンションを含む住宅の制作を、根本から見直す時期にきています。
「新築・売り抜け」から「いい建物を修繕、改修しながら長く使う」方向への転換です。
大規模修繕・・ほぼ15年周期で外壁や防水の補修、鉄部塗装などを行う大規模修繕は、物理的に建物を長く、良好に保つ手段です。
とともに外部の専門家の協力を得て、建物を調査・診断し、計画を立てて施工業者を選び、工事の進み具合を監理し、竣工、アフター点検へと至るプロセスは、住民の意思決定によって支えられています。話し合いと合意が欠かせません。
大規模修繕は、単なる建物の化粧直しではなく、マンションという共同体を維持する試金石となります。
「自分たちの未来を自分たちで決める」自治的な事業なのです。
もちろん限られた修繕積立金は無駄なく、有効に使いたい、と住民誰しもが願っています。積立金が不足がちで困難な状況であればあるほど何をどう選ぶかが重要です。
築後30年、40年で廃墟と化すマンションがある一方、築後50年が折り返し点、100年持つ楽園も存在します。
スラムと楽園の格差は開いています。
自治体もスラム化を防ぎ、マンションの格差を縮めようと動き出しました。
かつて自治体はマンションを私有財産とみなし、かかわろうとしませんでした。
しかし、社会的影響力が高まったマンションを「新築・売り抜け」のレッセフェール(自由放任)に委ねていてはスラム化を止められず、地域が崩れます。
そもそも日本の都市計画が欧州のように機能していれば、野放図な住宅供給は続かなかったはずです。
欧州では「計画なくして開発なし」の原則が貫かれ、都市づくりの基本理念と
目標を示した「マスタープラン(総合計画)」のもと、
「地区詳細計画」で細かな土地利用が決められます。
支払う側の施工業者、工事業者はリベートを負担に感じていないのでしょうか。
山田さんは「業界の一般論」として、こう証言します。
「支払う側も、もぎ取られている感覚はないのです。特に小さな工事業者は営業マンを雇うゆとりがありません。営業活動をしなくてもコンスタントに仕事がもらえるなら、コンサルや管理会社にリベートを払ったほうが楽です。
だから、談合もリベートも「共存共栄の必要悪」と容認する空気が業界には蔓延しています」
概して投資色の濃いタワーマンションは、常に多数の賃貸を抱え、上層階の億ション組と、下層階の住宅ローン組では価値観が違います。
共同体の育み方次第で、先々、タワーマンションも持続可能な楽園とスラムに二極化するといわれます。
二極化の分かれ目は、管理組合の維持管理です。
超高層の建築構造や、設備は極めて特殊で、物理的にも一般のマンションとは違った難しさが横たわっています。
超高層マンションのそれは一般的な大規模修繕とはまったく別物です。
そそり立つ外壁や屋上の防水でこと足れりではないのです。
超高層は、工法、材料、システムすべて斬新で同じものはありません。
究極の一品生産です。一つずつ対応が異なります。
とくに「設備」のすそ野が広く、メンテナンスに莫大な費用がかかります。
外壁よりも設備の更新にかかる費用のほうが、よほど「大規模」なのです。
このタワーマンションでは、共用部分の空調の更新に四億円、
セキュリティインターホンが2億円、照明のLEDへの交換で1億円、
さらにヒーツと呼ばれるガス熱源による住棟セントラル給湯・壇冷房システムは20億円の費用を要します。
(中略)
これらの設備は、外壁の経年劣化と同時並行で傷み、陳腐化します。
外壁修繕よりも設備の更新を優先しなくてはならない場合もあります。
つまりタワーマンションの維持管理は、多元方程式を解くようにいくつもの解を導かなくてはなりません。
従来の呼び方を止め、「多元改修」とでも称したほうが実態に合っています。
元のレベルに戻す修繕ではなく、設備を新たにして機能を高める改良を含む考え方への転換です。
地震が少なく、石造りと木造が地域特性に応じて受け継がれてきた欧州では建物に手を入れて長く使う文化が根付いています。
以前、団地再生の取材で訪ねた北欧では、「初代が家を建て、二代目が家具をそろえ、三代目が食器を整える」と教えられました。
三代、100年かけて住まいも成熟するという哲学が浸透しているのです。
一方、地震が多く「木と紙」で家を建ててきた日本は、戦後、急ごしらえの劣悪な住宅が大量供給されたために短期間でのスクラップ&ビルトが推奨されます。
国交省が2006年に発表した「滅失住宅の平均築後経過年数」は、
日本30年、米国55年、英国77年。
建ててから壊すまでにこれだけの差があるのです。
さらに2016年の国交省データでは、「住宅投資に占めるリフォーム投資の割合」が、
日本28.5%に対し、英国55.7%、フランス53%、ドイツ73.8%。
日本は新築に偏り、建物の改修・改築に極めて消極的です。
中古住宅の流通シェアの低さと合わせて、日本の不動産・建築業界がいかに
「新築・売り抜け」に依存しているかおわかりいただけるでしょう。
しかしながら、戦後、70数年が経ち、住宅の質はかなり向上しました。
鉄筋コンクリート造のマンションは地震に強く、給排水管など設備のメンテナンスを怠らなければ長持ちします。
給料が右肩上がりの高度成長期には、賃貸アパートを振り出しに所帯を持ったら賃貸マンションに移り、しばらくして分譲マンションを買う。
さらに戸建てに住み替えるという「住宅すごろく」が機能していましたが、それは過去の話。
マンション居住者の永住意識は年々高まっています。
もはや、長く住み続ける工夫なくしてマンションの未来はないのです。
スクラップ&ビルトから、三代・100年への転換が求められています。
続きを読む投稿日:2021.12.10
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