昭和天皇の終戦史
吉田裕(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 4.5 (12件のレビュー)
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天皇と軍部の戦争責任を検証する好著。国体護持を模索する宮中エリートの暗躍、反共の中でのGHQの思惑の中で、「昭和天皇独白録」がなぜ歯切れの悪い展開になってしまったのかを考察する。昭和天皇の人間臭さが描…かれ、興味深い。続きを読む
投稿日:2010.05.31
誰しも責任を人に押し付けたがる傾向は多少なりとも持っている。中には明らかに責任逃れをしている大人達を見ると殴り倒してやりたい気持ちよりも憐れみを覚えることさえある。斯くいう私だって、仕事の不手際(自分…ならまだしも部下の大きな失敗など)について、言い訳をしたい気持ちになる事は多い。後からその様な気持ちを抱いた事にまた自己嫌悪にも陥るのだが。
ご存知の様にポーツマス条約により中国に権益を得たのち、日本が中国侵攻を見据えて仕掛けた満州事変、そして太平洋戦争の敗戦へと続く時代を振り返りながら、戦争責任がどこに存在するかを追いかけていく無い様となっている。
確かに当初は陸軍の暴走の様にも映るが実際にはそれを止める事が出来なかった政治体制、そして陸海軍の統帥権を含む最高度の権限を有していた昭和天皇と、実際の責任が誰にあるか特定する事は出来ない。強いて言うなら、陸軍の進撃に酔った国民も、礼賛した経済界も含めて全員であると感じる。それこそ一億総懺悔が相応しく思う。
戦後行われた極東軍事裁判の記録や裁いた側のアメリカの公文書が期限切れにより次々と明らかになっていく中、つまりは「共産主義の防波堤」として日本を利用したかったアメリカと「国体護持」が絶対であった日本との間に奇妙な共通利益が生まれた事で状況は決定してしまったと言える。
戦後の占領軍が来るまでに時間的に余裕があった軍部は国内の公文書を徹底的に焼却処分してしまった。だから裁判自体はアメリカの先入観に始まり、国内は聞き取り調査が主になったことから、軍部、政治家、天皇すらも参加した責任なすりつけ合いの様相を呈する。軍部に至っては承知の通り陸軍と海軍の間には元々ライバル心、敵対心があるから当然のごとく醜いなすりつけ合いとなる。結論は知英米派に属する海軍の勝利は、A級戦犯処刑者が海軍からは誰も出ていない結果からも明らかだ。だが本当にそうだったのだろうか。
人は強い信念を持っていても、環境や周囲との関係性、本人の性格(優しさもその一つ)で空気に飲まれてしまい、例えば反対出来ない様な経験は誰しも持っているのではないか。あまりに強い意見に出くわすと、反論する事自体を諦めてしまい、尚且つ「俺は言ったんだけど、知らん」という態度で逃げようとする。心の内ではもうその時点で責任逃れに陥ってしまってるのは言うまでもない。実際はその様なケースの方が多いだろう。既に責任放棄してるそのくせ、後から後から反対だったという立場を誇示する人は見るに耐えない。
太平洋戦争時も結局は時期的に反対の立場をとった者や、喜んで推進した者、喜ばずとも何か目的があって推進せざるを得なかった者、終始反対の立場をとりながら地位を守り切った者。いったい誰が一番悪いかという議論はしても無駄だ。
本書はあくまで歴史的事実を元に背景から各自がどの様な立場にあったと考えられるか、そこから始まっていく。特定の誰が悪いか、そうで無いかを判断するのはあくまで読者側に委ねられる。
しかしながら、読んでいると誰もが情けなく感じると同時に、その立場・状況に完全に身を置く事などあり得ない傍観者として見ている自分が、勝手にそれら当事者を批判する事は出来ないという焦ったさが付き纏う。
天皇も東條も病没した松岡でさえも、大きな歴史の渦に飲み込まれ、なるべくしてその様な結果になってしまったとしか言えない。唯一期待したいのは彼らが書籍に残すと残さないとに関わらず、その瞬間にどこまで平和を望み、何をしたか言ったかだと感じる。松岡でさえ国益が国民を幸せに出来ると考えていただろうし、最終的に天皇を守るために全責任を背負った東條も安堵の中で最後の仕事を終えた充実感の中で逝ったかもしれない。
結局人間一人、一国家だけではどうにもならない大きな渦の中に人は飲み込まれていく。せめて、生き残った人々はそれを背負いながら生きて欲しいものだ。
明日も会社で誰かの言い訳を聞く。誰かが言い訳を言うなら、その様な心を改善できない自分の責任と逆らえない会社方針などの状況がそうしたものを生み出しているのだと、優しく接してあげたい。続きを読む投稿日:2023.05.30
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