この作品のレビュー
平均 4.1 (10件のレビュー)
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近江八幡に所縁が深いウィリアム・メレル・ヴォーリズ…作中では、そう呼ばれる機会が多かったという「メレル」となっていることが多いが…彼の人生を巡る物語である。非常に興味深く、また「考える材料」を多く供し…てくれる作品で、少し夢中になった。
建築に関連する事績は「ヴォーリズ建築」と呼ばれて知られているのだが、そういう活動の経過、更に家庭薬の<メンソレータム>の販売、後に製造も手掛ける経過というのが物語の“緯糸”になって行く。
仕事の展開が“緯糸”だとすれば、“経糸”は「メレルの生涯と思索」ということになるであろう。(確か“朝ドラ”の主人公のモデルになっていたことが在ったと思うが)広岡浅子との出会いが契機になって、伴侶となる一柳満喜子と出逢う。その“マキ”との人生と、時代の移ろいの中でメレルが感じた様々なこと、その変化が描かれているのだ。
メレルは、建築にせよ家庭薬の製造・販売にせよ、大いに成功した反面で「本当の専門家」ということでもない。メレルは、米国のプロテスタント系の価値観の中で育った人間で、それを普及せしめるという活動さえ熱心に続けた他方で、「そこに生まれたのでもないにも拘らず、自ら選んで」ということで日本に帰化した。というように、「揺れ」の中で生涯を送って、その中で色々と考えているということになる。そして晩年に至る境地というものが在る…
大正期や昭和初期に、メレルが感じる「(日本の)違和感」というようなモノが作中に綴られている。これは?或いは現在でも在るのではないか、というようにも思った…その他方に、晩年のメレルが至る境地である。なかなかに考えさせられた。続きを読む投稿日:2019.05.31
アメリカ人が日本に来たとか、実業家が何かを成し遂げたとか、一般化できるような話ではなかった。
この、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏でしか成し得なかったこと、彼にしか駆け抜けられなかった人生というもの…を存分に感じることができた。
まず、ヴォーリズ氏は、若くして非常に弁が立ち、向上心、野心に溢れた男で、この時点で、成功者としての素質を持っているのだった。
ヴォーリズ氏であれば、どの時代でも、どの国でも、成功することができただろう。
20代半ばで日本の近江八幡に来て、英語教師として教鞭をとったのをはじめとして、キリスト教の布教活動、建築活動、そして、メンソレータムの販売と、壮年期まで休むことなくビジネスに邁進し続ける。
賢く(ずる賢いかもしれない)、精力的なヴォーリズ氏は、さまざまな事業を成功させながらも、その人生には紆余曲折があった。
仲間の死、妻との出会い、そして第二次世界大戦…。それぞれの転機で、物語は盛り上がる。その転機も多彩で、それぞれ異なった感動を読者に与えてくれる。
還暦を迎え、老年期のヴォーリズ氏は、精力的な活動から離れ、時代の観測者として、ゆっくりと、終わりに向かって進んでいく。
衰えゆくヴォーリズ氏と反面、妻の満喜子さんは精力的な活動を続ける。ヴォーリズ氏あってこの妻と言えるだろう。似た雰囲気を感じる。
戦争が終わり、ヴォーリズ氏の命のともしびも消えていく。
その描写はあっさりとして、この物語自体も、突然の幕引きというか、カラッとした乾燥感だけを残して終わる。
まさに、外観や装飾より機能性を重視したヴォーリズ氏の建築のように、無駄を省いた最期の描写だったのだろうか、と感じた。
全体を通して、ヴォーリズ氏のエネルギッシュさに勇気づけられた。また、戦時中の雰囲気をリアルに知れる歴史小説としての側面も感じた。そして、ヴォーリズ氏と満喜子さんとの深い愛情。この2人が出会って本当に良かったと思う。
ヴォーリズ氏の人生は、破天荒すぎて真似できないなぁと思いつつ。布教、建築、輸入販売と、多くの面でまさにエヴァンジェリストとして活躍した人物に尊敬の念を抱いた。
ヴォーリズ氏とは離れるが、同じく近江八幡を礎とし、本小説にも登場する、菓子処のたねやとクラブハリエに興味を持った。食べてみようと思う。近江八幡の雰囲気を感じられるかもしれない。続きを読む投稿日:2023.09.18
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