この作品のレビュー
平均 4.2 (5件のレビュー)
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先日読了した宮沢賢治詩集の、自分なりの答え合わせがしたくて本書を手に取ったが、
直ぐに考えを改めさせられる文章に出会う。
「賢治作品は私たちに"わからなさ"を提示しながらいろいろなことを問いかける文学…であると言えます。」
とあったのだ。
なんだかホッとする。
私のような読み方でもいいのかもしれないと思えたからだ。
本書は「本当の幸いを生きるとは?」をテーマに進められてゆく。
著者は日本大学芸術学部教授、山下聖美さん。
宮沢賢治研究を続けてこられた方だ。
学生以来、突然詩集を手にした私は、宮沢賢治について何も知らなかったので、本書を手にとってとても良かった。
裕福な家に生まれ育ったこと。
実家は、貧しい農民たちへ古着を売る家業をしていたこと。
そんな実家、特に父親に反抗する思いを抱き始めたこと。
「父よ父よなどて舎監の前にてかのとき銀の時計を捲きし」
賢治には父親が、高価な銀の時計をワザと舎監の前でいじっているように見えたらしい。
でも、父は父なりに賢治を思っていたことが、本書からは読み取れる。
「あれは、若いうちから、手のつけられないような自由奔放で、早熟なところがあり、いつ、どんな風に、天空へ飛び去ってしまうか、はかりしることができないようなものでした。私は、この天馬を、地上につなぎとめておくために、生まれてきたようなもので、地面に打ちこんだ棒と、綱との役目をしなければならないと思い、ひたすらそれを実行してきたのであります」
と述べたと言われているらしい。
考え方は違えど親子なのだ。
述べたことが事実なら、父親はよく賢治を見ていたのだと思う。
ただ、賢治が賢治であるために、父親への反抗心、母性を慕う心、妹トシへの強い愛情と失った悲しみは、大きな影響を及ぼしているのだろうけれど。
夢中になっていた鉱石採集。
高等農林学校での専門は地質学。
同人誌「アザリア」の刊行。(カムパネルラのモデルの1人とされる親友・保坂嘉内と出会うが、のちに信仰の相違から決裂)
のめりこんだ法華経。
キリスト教にも関心を持ち、神とは?宗教とは?との問いに向かい合っていたこと。
臭覚に敏感。
聴覚にも敏感。
食もストイック。
視覚における感性も独特だった。
五感に敏感だからこそ生まれる、あの不思議な世界。
読み進めると"共感覚"の文字が。
その感覚の持ち主は、例えば音が形や色をもって感じられたりすると聞いたことがある。
本書の著者である山下さんも、
「何か大きなエネルギーをキャッチすることのできる、特異な受容体としての姿」
「まるで自然の何かが賢治に憑依して創作を行っているかのよう」
と表現している。
「例えば、川の中にリンゴをボチャンと落とし、きれいだと呟きながらその行為を繰り返したり、急に麦畑に飛び込んで走り回ったり、月夜の晩にレコードを聞きながら、空に向かって両手を挙げて踊り回ったりと、……」
詩集を読んだ時にも思ったことだが、やはり賢治は私たちとは違う風景を見ていたんだなぁ。
そして賢治は37歳でこの世を去る。
本書は賢治の数々の童話を部分的に取り上げながら、"ほんとうの幸い"を求める賢治の思想を追ってゆく。
そして「生きている限りは仕方がないという視点にたち、どのような欲望でもおおらかに包み込み、肯定し、そして欲望に身をまかせて命を落としていく哀しい人間の存在さえをも肯定する、これが賢治の文学である」という。
少し宗教色が強いかな?と感じていた私だったが、
「"人間"や"私"のその先にあるもっと大きなものにまなざしを向けていた」、「賢治のスケールの大きさだ」との言葉に納得。
だが冒頭でも述べた通り、
"賢治作品は私たちに"わからなさ"を提示しながらいろいろなことを問いかける文学であると言え"る。
宮沢賢治が世を去った今、明確な正解は無いに等しい。
山下さんの考えと同じように自分も感じるのか、賢治の童話をとても読みたくなった。
また、改めて詩集も読み返したくなった。
本書のラスト、賢治の言葉を借りて、このように述べている。
「永久の未完成これ完成である」。続きを読む投稿日:2023.10.11
賢治の生涯について改めて読み返してやっぱり好きだなぁ。TV、本何度も見たけどそれだけ魅力ある。もう、読んで頂戴っていうだけ。
投稿日:2023.01.01
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