津波災害 増補版-減災社会を築く
河田惠昭(著)
/岩波新書
作品情報
「必ず,来る!」.東日本大震災の直前にそう警鐘を鳴らし,震災発生後に大きな反響を呼んだ本書.その後の調査研究と最新の知見データをふまえ,311大津波の実相と,南海トラフ巨大地震で想定される被害の様相について増補する.さきの大震災の優に十倍を超える,決して避けられない「国難災害」.その減災・縮災対策の緊急性を訴える.
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商品情報
- シリーズ
- 津波災害 増補版-減災社会を築く
- 著者
- 河田惠昭
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 環境・エネルギー
- 出版社
- 岩波書店
- 掲載誌・レーベル
- 岩波新書
- 書籍発売日
- 2018.02.20
- Reader Store発売日
- 2018.05.17
- ファイルサイズ
- 12.4MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (5件のレビュー)
-
私が生まれた大阪市大正区は、江戸期の新田開発目的の干拓を発端にして海に向かって低い土地が広がるエリアだ。そのため、他の地域では見られないような巨大な防潮水門が河川に設置されている。小さい時からそれを見…て育ったので、ずっとこう思っていた-「これがあれば、たいていの津波が来ても安心じゃないの?」
正直に言うとこの考えは2011年のあの震災の津波を見ても変わらなかった。「大阪湾は奥まっているし、これだけ頑丈な水門や堤防があれば津波も多少は弱められるし」という理屈で。でもこの本を読んで考えは変わった。全くの間違いだと。
この本は当初、南海トラフ巨大地震が確率的に必ず来ることを再三警告する内容で刊行されたが、東北地方太平洋沖地震による津波大被害が発生してしまい、東日本大震災に関する考察を含めた増補版として改めて刊行されたものだ。
東日本大震災を経験した目によって増補版を読んでいくと、その前に書かれた旧版の記述がいかに“予言的”な内容だったかが痛切にわかる。そして自分自身に返って考えてみると、巨大地震による津波が明日にでも起こるかもしれないというのはわかった、でも今の自分はその時どうしたらよいのかが全くイメージできない、という思いに突き当たってしまった。
この本によると、東日本大震災の際に、住民の約30%の人が、津波が来ているにもかかわらず避難しなかったらしい。三陸沖はさかのぼっても多くの地震や津波の被害に遭っており、津波の危険性に関しては他の地域よりも敏感なはず。なのに30%、つまり3分の1弱の人は、テレビで大津波警報を頻繁にアラーム音で放送しても、役所がサイレンを流しても、その他津波のさまざまな情報が行き交っても、避難行動に結びつかない何らかの要因があったということだ。
たぶん、避難しなかった人には、私が冒頭に書いたように一種の自己判断により避難する必要なしと(勝手に)決め込んだ者もいただろう。
そういう一般社会の雰囲気を河田先生も十分すぎるほど感じてして、津波被害を減らすためには、私たちが津波を正しく理解し、正しく行動することであると何回も力説している。つまり、ここで「正しく」と書いたように、この本では私たちが津波をいかに「誤解」し、「間違った行動」を取ろうとしているかが多くの角度から論証されている。
しかし結局のところ、冒頭の私の例のようにインフラ面の整備とか、地震発生後にどうしたらいいのか教えてくれるとかに期待するのでなく、究極は自分の判断ですぐに、そして一直線に逃げるというのがこの本で得られる“最終結論”である。(だから今はスマホでの個々の情報のやり取りの時代だから…とかいうのは根本的な発想の誤り。)
この本の中で私が特にマーキングして頭の中に残しておきたいと思った箇所は次のとおり。
①津波は引き波(潮が沖の方にいったん引いて海の底が見えるくらいの状態になる)から起こるというのは間違い。押し波から起こる場合もあるし、微弱な引き波であればその発生は気づかないまま押し波が来ることもある。
②「事前に被災後のまちづくりの青写真を作っておくことの大切さを理解すべき…被災してから防災集落をつくっても、肝心の住む人が減少したのでは災害に負けたのと同じ」(P44)
③「いかに情報システムや警報発令の精度が上がろうとも(内容的にはより正確、迅速、詳細になるということである)、結局は早期避難に勝るものはない」(P49)
④「津波は長時間にわたって変化する危険性をもっている。せっかく避難所に素早く避難しても、1、2時間後に素人判断して「もう大丈夫」と考え帰宅すると危険な場合がある」(P74)
⑤(2003年午前4時台に発生した十勝沖地震の翌日、著者が震度6弱だった豊頃町の子どもに話を聞くと、父親からこんな地震で津波は来ないと言われて初めは避難しなかったと言われ)「自分に都合の悪いことは屁理屈をつけて自分で納得してしまう『正常化の偏見』が見られた」(P100)
⑥「津波による被害は、深さ(津波の高さ)よりも流れ(速さ)によって発生する場合が多いことを考えないといけない」(P128)
そして最後のこれにつきる。
⑦「2011年東日本大震災では、小・中・高校生のおよそ1700人が親を失った。残された彼らは一生、悲しみから逃れることはできない。だから、命を亡くしてはいけないのである。命を落とさないためには、逃げればよいのである。」(P203)続きを読む投稿日:2019.04.28
東日本大震災以来、津波に関する情報はテレビや新聞でかなり伝えられるようになりましたが、玉石混交でどれが信頼できる情報か、却って分かりにくくなった面もあります。私自身、大学で土木工学を専攻し、一般の人よ…りは知識はあると思っていましたが、一旦知識を整理しようと思い「何か良い書籍はないかな」と探していました。そこで辿り着いたのが、私も学生時代に在籍した防災研究所の所長も務められ、現在も巨大災害への提言をされている河田先生の執筆で、しかも出版は岩波新書という組み合わせの本書です。
専門的になり過ぎず、かつ重要な部分は割愛せず内容充実の印象でした。津波のメカニズム、特に「津波・高潮・高波」の違いの説明は、分かったようでわかっていなかった部分を明確に説明されていてすっきりしました。しかしそういった「津波」の科学的解説は全体のボリュームの半分以下です。後半の大部分を占めるのは「いかに被害を軽減するか。津波情報を避難につなげるか」という点に力点が置かれています。
「津波は防ぎきれないから、まず逃げる」これが鉄則です。「この程度の揺れなら津波は来ない」「ここは今まで津波が押し寄せなかった」「暗いから避難は朝になってから」「夜に警報を発令したら混乱するから」等々、人間の”思い込み”や行政の”自分の都合”で避難しない理由を作ってしまう私達。そういう判断が命を落とす原因になることを本書は丁寧に指摘しています。
本書は「増補版」となっていますが、初版は2010年12月に出版されています。東日本大震災のわずか4ヵ月前というタイミングです。本書前半部、津波災害の事例を紹介する部分で「東海・東南海・南海地震連動の津波災害の被害者数予測9100人」という政府中央防災会議の数字に対し、明治三陸大津波での被害者数22000人の事例を引き合いに「9100人にとどまらない可能性がある」との記述、この本がもしももう少し早く多くの人が手に取っていたら、と思わずにはいられませんでした。続きを読む投稿日:2024.05.15
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