ライフロング・キンダーガーテン 創造的思考力を育む4つの原則
ミッチェル・レズニック(著)
,村井裕実子(著)
,阿部和広(著)
,酒匂 寛(訳)
,伊藤 穰一(ほか著)
,ケン・ロビンソン(ほか著)
/日経BP
作品情報
子どもたちを真のデジタルネイティブである「クリエイティブ・シンカー」(創造的思考力・発想力を身に付けた人)に育てるにはどうしたらよいのか――。そのために、大人たちはどのように振る舞えばよいのか――。プログラミング言語「Scratch(スクラッチ)」の開発者が世に問う、人生100年時代の新しい教育論。世界が、子供だけでなくすべての人にとっての創造的な思考と学びの大切さについて理解し始めるにつれ、メディアラボにおけるミッチの役割とライフロング・キンダーガーテン・グループの取り組みは、ますます重要になっています(中略)ミッチが掲げる4つのPの原則(Projects, Passion, Peers, Play)は、メディアラボの大学院生の教育プログラムはもとより、世界中で数百万の子供たちが利用しているプログラミング環境(言語でありコミュニティでもある)スクラッチ(Scratch)の基盤となる考え方です。(中略)私の願いは、この本が「急速に変貌する世界で生き残るためのコンパス」としての役割を果たすことです。――日本語版序文よりこの本は、子供、学び、創造性を気にかける人たち、子供たちのために玩具やアクティビティを選ぼうとしている保護者たち、生徒が学ぶ新しい方法を探している教育者たち、新しい教育体制を取り込もうとしている学校管理者たち、子供のための新しい製品やアクティビティを生み出そうとしている開発者たち、あるいは単純に子供、学び、そして創造性に興味を持つ人たちに向けて書かれています。――第1章 創造的な学びより
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この作品のレビュー
平均 3.8 (7件のレビュー)
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今の教育とゴール含めて違う、創造性を育むための「新しい教育」
既存の教育とは違うゴールを目指す、「新しい教育」について書いた本。
僕個人のこの本での最大の気づきは、「書かれている新しい教育は既存の教育…の上位互換じゃなくて、ゴールそのものが違う」ということだ。
本全体のテーマはこれだ。
「優秀な成績Aを取るA学生に対して、新しい何かを作るのがX学生。このX学生を生むにはどうするか」
そして、そうしたX学生を生む新しい教育は、Project,Passion,Peers,Playの4原則からなる。
著者のレズニックは、MITのライフロングキンダガーデンプロジェクトの発起人で、同プロジェクトはレゴマインドストームやスクラッチなどの広く使われているツールを生んでいる。大御所の本なのでもっと古い本だと思ってた。2018年なのでびっくり。
この本はそのレズニックを中心に、「創造的なX学生を生むには単にツールを使うのではなく、教育に関する考え方やアプローチ、ゴール、つまりは社会ごと変えないとならない」として、ライフロングキンダガーデンプロジェクトの背景や思想が書いてある。
もちろん、思想がわからなくてもツールは使える。ジョブズやゴードンムーアが誰だか知らなくてもスマホは使えるし、オープンソースソフトの開発者でストールマンの本読んだ人は半分もいないだろう。
とはいえ、STEMがバズワードになってる今、僕はそうした取り組みの一環としてこの本を読んだのだけど、大変にビックリした。本書は科学、技術、工学、数学のどれについても語っていない。つまりSTEMとはまったく関係ない。
本書の主張はもっと過激で、「押しつけでテスト勉強になる既存の教育はダメだ、新しい創造的な教育に変えよう」というもの。
紹介される「創造性を生み出す考え方やアプローチ」は違和感ないし、実際にマインドストームもスクラッチも素晴らしいツールだと思う。
・人間は自発的に行動したときにいちばん多くを学ぶ、大人も子供も関係ない
・そのために低い床と高い天井、無用な苦労なく始められる敷居の低さと、やればどこまででも高度化できる高い天井が必要。
・また、「広い壁」として、特定の目的でしか使えないようなツールでなくて、どういうこともできる方向性の広さが望ましい
・成果物が他人のアイデアの土台になるような、シェアができることが望ましい。
・おぼえることが少ないのが望ましい。成果物を見たら使い方がわかり、それを土台に作り始められるようなものが望ましい
・それはツールだけで解決するものではなく、ワークショップの運営ほか様々なことに及ぶ
・究極的には社会ごと創造的になるのがよい
などはいずれも「言うのは簡単で、やるのは難しい」ことだが、レズニックたちが作り出したレゴ・マインドストームやスクラッチはどちらも成功している。また、こうした考え方はメイカー関係では常識になりつつあるが、レズニック達がいわば「本家」なのも間違いない。
ただ、僕自身が本を読んでいてビックリしたのは、随所に出てくる「A学生から背を向けないとX学生になれない」という考え方と、既存の教育や計画主導のアプローチに対する粗雑な指摘だ。おそらく知能や発達に対してなにかの誤認があり、普通に間違いなんじゃないかと思う。
たとえば文中にA学生大好き国家のシンガポールがX学生養成に手を広げ、マインドストームでロボットを作り出した話が出てくる。彼は学生に応用的なリクエストを出し、学生が見事に修正した様子をみて、「創造的な学生に育ってる、素晴らしい」と感動したあとに、学生たちが放課後だけロボットを扱って、授業ではきちんとテスト勉強をしてることを「テスト勉強は創造性を阻害する」と嘆く(目の前でそうでない例をみてるはずなのに)
また、たとえば創造的な人としてファインマンが挙げられているが、彼はテストの成績もいいし彼ワナビーも明らかにAの数は「ファインマン・ワナビーじゃない人」より多いだろう。Aの数だけにこだわる考え方に限界があるのはわかるが、「Aを取ろうとする行為がとにかくだめ」となるのがなぜなのかはよくわからない。著者のレズニック、「まったくAが取れない学生」とは、そもそも会話が成立しなさそうだもの。
他にも全般的に「A学生になろうとするとX学生ではなくなる」的な指摘が出てくるが、それらは普通に間違いだと思う。MITメディアラボの人たちを含む多くの研究者はA学生でもあるだろうに。
「自分から興味を示してヤル気にさせて因数分解や公式や掛け算九九をやるのはOK、押しつけるのはNG」というのはわかるのだけど、やってみてから好きになる、嫌いなものの印象が変わることはよくある。それも僕は創造性だと思うし、実はA学生とX学生は、かなり共通点が多いと思うのだ。
そうした、「反復練習は大事で、努力だけが人間を作りますよ」テーマの「非才!」は、本書と共通するところも相反する所もあってオススメ。
もちろん、ガリ勉批判が粗いことは本書の価値をいささかも落とすものではない。スクラッチのソフトやコミュニティの価値を落とすものでもない。AppleのジョブズやGNUのストールマンはメチャメチャなことも言っているがプロダクトは素晴らしい。クリエーターの仕事は正しいことを言うことでなくて良いものを作ることだ。
また、もしもマインドストームやスクラッチが「テストの点を上げるツール」として扱われている誤解が多いなら、それは悲しいことだ。僕はそういう誤解がどれぐらい多いかわからないけど、ゼロでは絶対にないと思う。また、補章で阿部先生が指摘しているように、本質をよく理解せずにマインドストームやスクラッチを使ってカタにハメた教育を行っている事例は多くあるだろう。
また、「A学生を生む行為だけが勉強」と思ってる人は今も多いだろうから、そういう人がレズニックの考え方に触れることは悪くないと思う。
僕自身はこれまで書いてきたとおり、STEMと「新しい教育」の関係についてよくわかっていなかった/誤解していたので、本書はいくつもの「なるほど」をもたらしてくれた。
「なるほど、この人たちは新しい学校について考えてるけど、今ある学校には興味がない」
「なるほど、彼らに評論家的な'いろいろ見て最善を判断する'という視点は期待してはいけない。あくまで自分たちの作品しか考えてない」
「なるほど、ここで提唱する新しい教育は、たとえば英語や数学の成績を上げてくれない」
つまり、本書を読むことで「創造的な教育」が、今の教育とまったく別の(互換性のない)ゴールを目指すものであることがしっかりとわかったわけだ。上位互換ではない。そして、もちろん「創造的な教育」は今求められている大事なものだ。
随所に出てくる「計画を立てるより先に手を動かして修正していくアプローチは有効」については異論ない。
「既存の教育のダメさを見つける」という教育システム研究者みたいなのは、レズニックの仕事としてもこの本としてもメインディッシュではないし、その話をたくさんするのはクソリプだろう。(僕は勝手に期待していたので、そこが一番ビックリしたんだけど。)
クリエーターとしてはそれでいい気がするし、そのぐらい心を固めなければ良いものは作れない。スタートアップの社長は、自分たちの会社が唯一無二だと信じてなければやってられないし、僕もイベント運営や原稿書きなどの創造性を伴う活動をしてるときに、「こんなの他の人もやってるから僕がやらんでもいいのにな...」と考えてたらやってられない。
そういう「創造性と客観性,科学性」みたいなものを考える一つとしてもこの本は面白かったんだけど、本としてはどういう人にオススメなんだろう?
たぶんこの本読むより実際にスクラッチ触るほうが著者たちの意図に沿う気がする。
https://note.com/takasu/n/ne9062e3aa4e2続きを読む投稿日:2020.05.10
子どもの、ひいては人間がつくり生み出すものであるには、仲間と共に、自らの好奇心のままに想像力を持って学び手を動かすことが必要で、要はレゴSUGEEEってこと。
面白いし子育て、教育にめっちゃ参考になる…とは思ったけど、とりあえず2年後くらいに読み直したい。今はまだリアルに迫ってこないな。続きを読む投稿日:2023.07.22
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