老いるということ
黒井千次(著)
/講談社現代新書
作品情報
これまでにない長い老後を生きる時代が到来した現代、人は老いとどのように向き合えばいいのか。さりげない表現の中に現代日本人の老いを描く幸田文。島崎藤村が綴る老後の豊富さと老いることの難しさ。伊藤整が光を当てた老いの欲望と快楽。伊藤信吉が記す90代の老年詩集……。文学作品・映画・演劇に描かれたさまざまな老いの形をとおして、現代に生きる者にとっての<老い>の意味と可能性を追究する。
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商品情報
- シリーズ
- 老いるということ
- 著者
- 黒井千次
- 出版社
- 講談社
- 掲載誌・レーベル
- 講談社現代新書
- 書籍発売日
- 2006.11.20
- Reader Store発売日
- 2017.11.24
- ファイルサイズ
- 1MB
- ページ数
- 240ページ
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この作品のレビュー
平均 3.0 (5件のレビュー)
-
黒井千次(1932年~)氏は、東大経済学部卒、富士重工業に入社し、会社員生活のかたわら執筆活動を行い、1968年に芥川賞候補、1970年に芸術選奨新人賞受賞。その後、富士重工業を辞めて作家活動に専念す…るようになり、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞等を受賞。日本文芸家協会理事長、日本芸術院長も務めた。文化功労者。旭日中綬章。
本書は、NHKラジオ第二放送で2006年4~6月に放送された「老いるということ」の13回分をベースに、一冊の本にまとめたものである。著者は現在90歳であるが、本書の後も、中公新書、河出書房新社から、『老いのかたち』、『老いのつぶやき』、『老いの味わい』、『老いへの歩み』、『老いのゆくえ』等を数年おきに発表している。
私はアラ還になり、近年、五木寛之、斎藤孝、佐藤優、出口治明等による、人生後半の指南書的な本を読むようになったが、上記の通り、著者は「老い」について多数の本を書いており、一冊読んでみようと思って本書を手に取った。(一冊目の本書を選んだのは、続篇は前に書かれたものの焼き直しが多く、結局一冊目が最も優れていた、ということがしばしばあるためである)
内容は、キケロー『老年について』、E・M・フォースター『老年について』、深沢七郎『楢山節考』、映画/戯曲『ドライビング・ミス・デイジー』、マルコム・カウリー『八十路から眺めれば』、幸田文の随筆、映画『八月の鯨』、耕治人の小説、芥川龍之介『老年』と太宰治『晩年』、島崎藤村の短文、伊藤整『変容』、萩原朔太郎のエッセイと伊藤信吉の老年詩集、を材料に、老いるとはどういうことか、その中にいかなる意味が隠されているか、を探ったものである。そういう意味では、ノウハウが中心の一般の指南書的な本とは一線を画する。
印象に残った記述をいくつか挙げると以下である。
◆老いるとは生き続けることであり、現在進行形の時間である。老いはその人にとって精神の最後の運動場であり、日の傾いたグラウンドに何もせずにぽつんと立っているのではなく、その精神のフィールドを可能な限り駆け廻らなくてはならない。
◆老年期だけを取り上げて老いを考えることはできない。老いとは過去と切断された時間ではなく、そこまで生きてきた結果として出現するのであり、突然訪れるものではない。よって、老年に達してから慌てて老年のことを考えようとしても間に合わない。
◆老いは過去と深く繋がっているが故に、老いの一般論は容易に成り立たない。一般論などないと断念するところから、自分自身の固有の老いへの模索が始まる。
◆現代は、かつては存在した、老年とはこのようなものであり、このように年をとっていけばいいのだという規範のようなものがなくなってしまった。しかし、老いの理想としては、元気な老人や生涯青春ではなく、「まことの老年」や「きれいな年寄り」が目指されるべき。
◆老人が持つ力は、長く生きて来た経験を糧とする質の力。人の経験は単なる時間そのものではなく、その中で自分が何をどのようにしたかによって篩にかけられ、蓄積されていくもの。その意味で、老いの力は量よりも質に依拠する。
◆季節は常に先へ先へと変わって行き、新しいものへと姿を変える。季節は老いを見せることがない。季節と共に生きていれば自分も自然に前向きになり、過去に沈没せずに生きていられる。(幸田文)
老年期をどう生きるかというハウツー本とは異なる、「老い」のそもそもの意味を考えさせてくれるエッセイ集である。
(2022年10月了)続きを読む投稿日:2022.10.19
このレビューはネタバレを含みます
老いることの意味、肉体的に、精神的にあると思いますが、86歳で没した幸田文さんが70歳の時のエッセイに次のようなくだりがあります。「自らの限界を認め、今迄より一歩も二歩もさがったところでものを考えよ…うとしなければならない」と。彼女は「きりりと絞りあげた意志」と表現してますが、心に響いた一節でした。黒井千次 著「老いるということ」、2006.11発行。
レビューの続きを読む
寿命が延びるとは、老後が長期化すること。平均寿命が70歳を超えたのは、男性1971年、女性1960年。自分は年を取ったと自覚して、初めて老いの視野も展望も開けてくる。 黒井千次「老いるということ」、2006.11発行。私は65歳では、体に老いも違和感も感じませんでした。70歳も同じでした。今年74歳になる手前から、ぎっくり腰を契機に腰や背中の痛み、腹部の違和感など、これが老いなのかと感じました。体の様子を見ながら、運動・体操や養生に励みたいと思います。続きを読む投稿日:2020.01.28
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