母親ウエスタン
原田ひ香(著者)
/光文社文庫
この作品のレビュー
平均 3.6 (32件のレビュー)
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あるときはバブル景気の真っ只中の東北、
あるときはバブルがはじけた時期の北海道帯広に
北海道えりも町、
あるときは宮城県のとある町。
各地を転々としながら
定食屋「いろは」の店員、
スナック「卑弥呼」…で働くホステス、
スーパーの洋品店の店員など職を変え、
男やもめで母親のいない家庭にふらりと現れ、愛情に飢えた子供たちに愛を与え去っていく広美。
身体一つで、家族から次の家族へ、全国をさすらう女。
果たして彼女は一体誰なのか?
何が目的なのか?
『東京ロンダリング』で一躍注目を浴びた著者の長編第二作であり、
ちょっと変わった家族小説。
初めての原田ひ香作品だったけど、
木皿泉の解説にあるようにタイトルの秀逸さと
主人公広美のワケの分からなさが面白くて(笑)
一気読み。
(映画ファンであればタイトルから往年の西部劇の傑作「シェーン」を思い浮かべるだろうし、その発想は正解です)
伊丹十三の傑作映画「たんぽぽ」がラーメン屋版「シェーン」だったのに対して、
こちらは母親版「シェーン」。
悪者たちがはびこる荒廃した西部の町に流れ者がふらりとやってきて
父親のいない母子と知り合い
ひととき共に暮らし、
悪者たちを成敗して
またふらりと去っていく。
(勿論、一緒に暮らし懐いた子供は、「シェーン、カムバック!」と別れを惜しむわけです)
これを現代の母親に置き換えたわけだけど
もうその斬新な発想からして
心躍るし、
主人公広美の過去パートと
幼少期に広美に育てられた青年が広美を捜す現代パートを交互に描いた巧みな構成、
リズム感のいい文体と
胸を打つ借り物でないセリフ。
そして、無理のないその土地土地の方言が
いいアクセントになって飽きさせません。
色白で小柄。透明感のある赤い唇と笑うとえくぼのできる愛嬌のある顔。
「申し訳ございません。おそれいりましてございます。」
というなんとも奇異な挨拶が口癖の(笑)
ミステリアスでなんとも魅力のある謎の女、広美にどんどん惹かれていく不思議。
広美の行動はホンマ無茶苦茶なんやけど、
なぜか憎めない。
子供に食べさせるために魚の小骨を丁寧に取ってあげたり、
風呂に一緒に入ったり、
保育園に毎日一緒に行き一緒に遊んだり、
謝ることの大切さ、挨拶の仕方、ご飯食べるときのマナー、花の名前、折り紙の遊び方、ホットケーキの作り方、勉強のやり方を教えたり、
夜明けにヴァン・ヘイレンの「Jump」をみんなで歌ったり、
ひととき広美と時を過ごした子供たちも
感謝こそすれ、誰も彼女を恨んでなんかいない。
人が人として甦るためには
何も特別な儀式なんて必要ないのだろう。
なんでもない日々の暮らしを積み重ねることこそが
胸に巣くう悲しみや怒りや孤独を浄化し、
穏やかな日々の暮らしでのかけがえのない記憶が心の核となり
どんなときも人を救ってくれるのだと、
自分も母親に捨てられ施設で育った経験から
身に沁みて解っている。
誰かのためにではなく、
あくまでも自分のために行動した広美だからこそ、
関わったすべての家族の心に消えない記憶を残したのだと思う。
今は朽ちないことや老いないことをよしとする風潮が主流だけど、
歳をとったり、朽ちていったり、変わっていくことを怖れず書いている小説が僕は好きだ。
この小説も、
家族から家族へ
母親を必要とする家族を渡り歩き、
崩壊した家族を立て直すと
またどこかへ消えていく広美という女の20年に及ぶ一代記だ。
そう、映画「グロリア」のように
戦うおばさんはカッコいいのだ!続きを読む投稿日:2015.07.12
母親を失った機能不全家庭にどこからともなく潜り込んで最高の母親役をしてはまたどこかへと去る女の物語。
母の務めを果たしては立ち去ることで心を救ったかと思えばかえって残酷な仕打ちをしていたり、恨まれて…いるようで感謝されていたり。「母親」という役割は本当に奥深い。自らも母親になり親と子どちらの立場もわかるようになってから読んだ為より一層ラストが味わい深かった。続きを読む投稿日:2024.04.10
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