この作品のレビュー
平均 4.2 (153件のレビュー)
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笑えて、考えさせられて、絶望的に楽しい。
血のにじむような、パンクで愉快でダークで知的なドタバタ物語。
「動物農場」ジョージ・オーウェルさん。
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アメリカ大統領に就任したトランプさんへの不安?…の御蔭で、ジョージ・オーウェルさんの「1984年」が全世界的に売れているそうです。
その「1984年」と並ぶ、オーウェルさん不滅の代表作が「動物農場」だそうで。
なんだけど、ここまで「いつか読もう」で未読でした。
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オモシロイ。
「1984年」よりも、風刺物語な分だけ、楽しく読めます。
(「1984年」は、終盤はもう、胃が重くつぶされるような悲しい感じが...)
つまりは、人間社会を動物たちで戯画化した、「鳥獣戯画」の世界。
そして、あまりにも有名なことですが、ロシア革命(1917)からスターリン独裁粛清の時代(1930年代)を経て、第二次世界大戦開戦(1941)に至る、ソヴィエト連邦がモデル。
もっと言うと、スターリン批判のようなことになっています。
それは、「ああ、この豚がスターリンなんだな」という具合に、なんとなくそのあたりの歴史の流れを知っている人はすぐに分かります。
特段に知らない人でも、ウィキペディアレベルの知識で読めば分かります。
なんですけれど。
この本がすごいなあ、と思うのは。
そういうソヴィエト史を全く知らなくても、楽しめる、っていうことですね。
(僕はそう思います)
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とある農場。
動物たちは、日々、人間に搾取されてばかり。
人望のある指導者、勇敢な戦闘者などが集まる。
(それは豚だったり、ロバだったりする)
そして、革命。
動物たちが経営する「動物農場」が発足する。
まず当然、外部から「そんなことを許してはいけない」という人間たちの攻撃がある。
戦い。一致団結。祖国防衛戦争。勝利。
勝利のあとに、政治がはじまります。
リーダーが必要になる。リーダーは競合相手を批判し、破滅させる。
そして、「メディアの操作」が始まる。
「まだまだ、外敵が怖い。強い力、一致団結が必要だ」
「我々は危機にある。リーダーのもとに結集しよう。非常時だ」
徐々にリーダーの権力が強くなる。
反対派は弾圧される。
「それでも、祖国を守るためだから、仕方ないだろう?」
そしていつの間にか、歴史が書きかえられる。
「そもそもリーダーは昔からこうだった」
「あいつは昔からいやな奴だった」
「我々は残酷な事はしていない。あいつらがデマを言っている」
そしていつの間にか。
搾取しているのが人間ではなくて、豚のリーダーに変わっていた...。
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というお話が、実に生き生きと、様々な動物たちの個性豊かに、面白おかしく語られています。
これは、現実のパロディだったり、風刺だったりするのだけれど、パロディとか風刺を超えた力を持つ寓話、という高みに達した素敵な小説でした。
笑えて、考えさせられて、絶望的に楽しい。
そして、長編というより中編クラスの長さ。読みやすい。
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ジョージ・オーウェルさんというのはとっても興味深い作家さんです。
1903年に、イギリス植民地インドで生まれたそうです。お父さんは公務員だったそう。
イギリス人さんです。資産持ち、ではなかったようですね。現代風にいえばサラリーマン的な階級の育ち。
恐らく、ずっと物書き志望だったんだろうなあ、と思いますが、それなりの名門校を出た後に、「就職」として、植民地ビルマのやっぱり役人になります。警察官。
なんだけど、20代のうちに退職して物書きを目指してパリ、ロンドンの底辺社会に身を投じます。
最底辺の暮らしのルポルタージュを書く、という色気がはっきりあったようです。
貧乏、乞食、ホームレス...みたいな日々の一方で、
「ビルマで、俺は帝国主義の現場兵として、こんな不条理な体験しちゃったよ」
みたいな文章や、狙い通りの、
「パリ、ロンドンの最底辺どん底生活でこんなことを考えた」
的な文章で、物書きとして売れてきます。
一方で、普通の小説?も書きます。
そして、1930年代、スペイン内戦。
ナチ的な独裁政権、フランコ政府に対して、ソ連の支援などを受けた「人民戦線」などボランティア的な人も含むゲリラ的な反対勢力が戦いました。
ヘミングウェイ、キャパ、なども参加した訳ですが、ここにオーウェルさんも一兵卒として現場に入ります。
ここでどうやらオーウェルさんは
「フランコもひどいんだけど、一方でソヴィエトも酷い...スターリン独裁政権、酷い...」
という状況を嘗めたようです。
※確かに、後年分かるところでは、スターリンさんは、レーニン亡きあとに、政敵のトロツキーさんらを追放して、社会主義労働者の政権どころか、自分の独裁を強化。1930年代に、政敵やインテリや反対者やなんでもない人も含めて、未曾有の数十万人とかそういうレベルの粛清をしていたそうなんですね。当然、言論の自由なんてなかった。
それで銃創を受けて帰国したオーウェルさんは、「動物農場」を1944年に書き上げます。
ところが。
1944年にはまだ、ヒットラー相手の戦争が続行中で。
ソ連=スターリンは、アメリカイギリスの同盟国だったんですね。
どう見ても「スターリン批判」であるこの本は、出版して貰えなかった。
ところが。
1945年4月30日、ヒトラー死す。
原爆が8月6日、9日。日本の無条件降伏が8月15日。
「動物農場」は8月17日に刊行されたそうです。
今後は「冷戦」の時代になり、米英的にはスターリンは悪者に。
繰り返しますが、「動物農場」は、単なるスターリン批判に留まらない素敵な小説です。
スターリンだけではなく、あらゆる時代の強大な権力への疑問、知的な批判精神に充ち溢れた、何より愉快な小説です。
なんですが、とりあえずは「ソ連は悪者だ」という風潮に乗って、ベストセラーになったそうです。
その後、オーウェルさんは衣食住と名声の心配は無くなって。
1948~49年に「1984年」を執筆。翌50年に46歳の若さで亡くなってしまいます。
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オーウェルさんの文章は、「1984年」「動物農場」に留まらず、ルポやエッセイ的な文章にも文明批評や社会の仕組みへの洞察が溢れていて、読ませるものが多いです。
この角川文庫版の「動物農場」には、表題作以外に
「象を撃つ」=植民地ビルマでの警察官時代。脱走した象を住民に囲まれて見物されながら撃ち殺した話。
「絞首刑」=やはりビルマ時代に、政治犯?の絞首刑に立ち会った話。
「貧しきものの最期」=マルセイユだったか?どこかの最底辺の病院で最底辺の治療を受けた時の話。
の三篇が収録されています。なんだかんだで、やはり有名な「象を撃つ」は白眉。一読の価値。
#
読んで思ったのは、
「広い窓口を持って、愉快でオモシロク、そして読み継がれるべき価値が毛穴から噴き出すような、反体制、権力批判の漲る作品」
という意味では、恐らくオーウェルさんの作品の中で、異次元の完成度を誇る小説だなあ、という感想でした。
血の涙が滲むような、パンクな面白さ。
時代を超えています。
安部政権、日本の僕らにとっては、ひとごとであってほしいのですけれど。
共謀罪とかって...
こわいこわい。続きを読む投稿日:2017.02.20
セリフの一句や一行の文に、読み手がどれだけの関心や知識、歴史の知識があるか次第でこの寓話は感じ方が変わる。私もロシア革命時代の様子は良く知らないが、寓話と読むには心に引っかかるサインが随所にあった。全…くスタイルの違う「象を撃つ」「絞首刑」「貧しい者の最期」も何でだか引き込まれて行った。リアリティがあるのかな?続きを読む
投稿日:2023.07.02
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