街場のマンガ論
内田樹(著)
/小学館
作品情報
日本マンガと日本人を身びいき目線で論じる。
「これほど好きなジャンルは他にない」と語るマンガびいきの著者が、世界に誇る日本マンガについて熱く語る! 『エースをねらえ!』から、男はいかに生きるべきかを学び、『バガボンド』で教育の本質を見いだす。手塚治虫の圧倒的な倫理的指南力に影響を受けた少年時代、今なお、読み続ける愛すべき少女マンガ・・・。
日本でマンガ文化が突出して発展した理由をユニークな視点で解き明かす。巻末には養老孟司氏との対談を収録。言語としての日本語の特殊性と「マンガ脳」についての理論には瞠目される。マンガは、どれほどビッグビジネスになろうとサブカルチャーに踏みとどまって、その代償として自由を享受してほしい、と願う著者の「愛と敬意」のマンガ論である。
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この作品のレビュー
平均 3.9 (17件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
漫画という文化を至極真面目に論じる。
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作者の内田樹さんのことを知らなかったので、もっと「このマンガのこのくだりが好き!」みたいなミーハー論調なのかと思ったら全然違いました笑
井上雄彦、手塚治虫、萩尾望都、羽海野チカ、鳥山明、赤塚不二夫、、、
数多もの漫画界のビッグネーム作品を取り上げながら、なぜ漫画が日本文化にこれほどまでに強く根付いたのか、日本語の持つ漫画への適応性などを大学の講義でも聞いているかのように学ぶことができました。
読めば読むほど日本人に生まれて良かったなー!と声を大にして叫びたくなります。日本語も日本のマンガも大好き!
養老先生との対談の中で語られる、漫画家の進化の話が印象的でした。
小説家は書けば書くほど文章力は上がって行くかもしれない。でも急激な進化はなかなかみられない。
漫画家は描けば描くほど確実に絵が上達していく。絵が上手くなればそれまで表現出来なかった世界が展開でき、作品に深みが増すようになる。その時が突然進化するタイミング。
掻い摘んで言うとこんな感じ。。
井上雄彦がペンから筆に切り替えたときから圧倒的な画力を存分に発揮しているのが分かりやすい例なのかしら。
元々伝説のスラムダンクですら素晴らしいと思っているけれど、スラムダンク初期の花道とバガボンドの武蔵とでは…迫力が違いすぎる。
そういった感じのことを勉強させてもらいました。
文庫版加筆としてONE PIECEや進撃の巨人、風立ちぬなどがあり楽しめます。投稿日:2014.03.28
もう、だいぶ内田老師の本も残り少なくなってしまった。今回のマンガ論も、ただ漫画を媒介しているだけで、なんのことはないいつも同じことが書いてある。老師は自分自身、先生というものの役割について、卒業生にと…っての北極星、つまり定点であり続けることと、仰っていた。私は卒業をした記憶こそないが、数か月、内田老師の本を読まない間に、また、10年前に呼んだ老師の本を再読した時に、自分自身の変化や成長を感じることができるのは、まさに老師が定点としての役割を発揮しているおかげなのだろう。
• あらゆるマンガの中でも、主人公に成長を要請するシナリオは似ており、人類学的な普遍性すらも帯びている。人間は「こうせよ」という単一の、無矛盾的な命題に従うよりも、それぞれが相互に否認し合うような排他的命題にひきさかれているときのほうが、パフォーマンスを向上させる。つまり、ロールモデルが複数併存し、それが相互に否定し合うゼロサム的な関係にある時、人間は最も成長する。古くは韓非子の矛盾の逸話がそれを示しており、近代では、レヴィストロースの親族の基本構造で、親と叔父の2人の男性モデルが相反している場合に、子供の成長を促すという形で示されている。一般的な、凡庸な教育家であれば、人間が成長するためには、単純で無矛盾的な支持を繰り返し与え続けることが成長につながると考えているが、それは犬のしつけと同じで、洗脳はできても、成熟することはない。成塾するためには、相矛盾するおとなたちの言葉に対して、一旦正否の判断を留保したまま受け入れ、葛藤することが必要である。
• 老いの手柄(宮崎駿論):生まれたときから現在の年齢までのすべての年齢の自分を抱え込んでいて、そのすべてにはっきりとした自己同一性を感じることができるというありようのことをおそらくは老いと呼ぶのである。幼児期の自分も少年期の自分も、青年期の自分も全員が今、自分の中で活発に活きており、適切なタイミングでその中の誰かが人格後退して、支配的な人格として登場する。そのような人格の可動域の広さこそが「老いの手柄」なのであろう。
• 宮崎駿論で唸ったのは、内田老師の「風立ちぬ」評である。単純に言ってしまうと、風立ちぬは、「時間の流れ方」を描いているというものである。作中では、風の描写が必要以上に丹念に描かれていることをきっかけに、宮崎駿が描きたかったものとして、戦前から戦後にかけて日本人が失ってしまった「時間の数え方」、特に「植物的時間」というゆっくりとした時間の流れではないかと挙げている。作中では、風や植物のそよぎの描写に時間がかけられている一方で、飛行機技術に関する主人公の切迫感や、まさに航空テクノロジーの進化によって、人間の時間の流れを速めていく様が描かれている。
• アメコミに見えるアメリカの自画像:これも別の本で読んだ気もするが、アメコミヒーローが描いているのは、当のアメリカ人の自画像であるというものである。そもそも、アメリカの強さは何かと言う話から始まるが、一言でいって「アメリカという国はなんのために存在するのか」という国家の根幹にかかわる問いに、常に答える準備ができているということである。アメリカは、17世紀に「わざわざ」建国された国である。アメリカは人類の理想を体現するために海を渡り、作られた国であるという建国の逸話であり、呪いが彼らにはある。これは非常にストレスフルなことで、普通の国であれば、物心ついたことにはその土地に住み着いていたために、そんな問いを自分に向けることはない。だからこそ、アメリカは、常に「存在意義」について考えさせられている。アメコミの主なプロット、特にスーパーマンもバットマンも、スパイダーマン(さらに最近では、ハンコックや、シャザムもそうかもしれない)は、高い理想を掲げて、世界の平和のために寄与しているのだが、周囲の人間たちはその努力を知らずに、彼らに感謝しようともしない。それどころか、お前のスーパーパワーを発揮することで世界の秩序はかえって乱されていると言う罵倒や無理解に悩まされて、世界を救うことを辞めてしまおうかと思う。しかしながら、彼を信じる少数の理解者のために、彼らはまた立ち上がり、世界を救う仕事に向かう。これはまさにアメリカの、国際社会の自己認識そのものである。
• レヴィナス老師の言葉として、倫理とは「お先のどうぞ」という精神であると言う。あらゆる場面で、お先にどうぞと言えるか、つまり、自分自身が今まで生きてきた人生が明日終わるかもしれないという時に、その覚悟ができており、タイタニックの最後の1隻に対して、お先にどうぞと言いきれるのかということである。これはには日ごろ、人生の有限性に思いを馳せ、今日が最後の1日かもしれないとていねいに毎日を生きることなのである。老いが進むごとにできることは少なくなっていく。しかしながら、その状態に不平不満を言うのではなく、老いと付き合いながら、「ああ今日が人生最高の日だ。明日死んでもいいや」の精神で毎日を楽しく過ごすことが重要である。続きを読む投稿日:2024.05.26
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