夏月の海に囁く呪文
雨宮諒(著)
/電撃文庫
作品情報
修一は、夢久島という長閑な島に暮らす高校2年生。 学校生活にどこか馴染めない自分を自覚しつつ “能面” を被って、友達とも “普通” に過ごしていた。 夏休みに入った日、修一は、港で海を見ながら泣いている一人の女性と出会う。 夢久島には、「海で “呪文” を唱えると本当の自分の居場所に連れて行ってくれる」 という噂がある。 その話を確かめるために彼女はこの島に来たというのだが・・・・・・。 彼女との出逢いにより、修一の “能面” の日常に変化が訪れる。 はたしてその “呪文” とは――? 島に伝わる噂をめぐり、心に傷を抱えた人々が織り成す、心ビタミン短編連作ストーリー。
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商品情報
- シリーズ
- 夏月の海に囁く呪文
- 著者
- 雨宮諒
- 出版社
- KADOKAWA
- 掲載誌・レーベル
- 電撃文庫
- 書籍発売日
- 2005.11.01
- Reader Store発売日
- 2013.07.12
- ファイルサイズ
- 1.5MB
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この作品のレビュー
平均 3.9 (7件のレビュー)
-
電撃っぽくない。イラストがないのも良い。切ないけど優しい話でした。ラノベ苦手な人にもオススメできる作品だと思います♪
投稿日:2011.04.17
“僕は長嘆すると、諦めて口を開いた。
「いやその、僕は自分に対して梟っていうよりも――能面ってイメージを持ってるんですけど」
こんなこと、誰かに話したのは初めてだ。
だがまあ、こんな断片的な言葉で僕が…ずっと抱いていたモノが伝わるはずもないし、特にどうということはないだろう。
「能面?」
赤城さんは案の定、怪訝な顔をして小首を傾げた。が、それも数瞬のことだ。彼女は霧が晴れていくような顔を見せたあと、アハッと笑う。
「なるほど、能面ね!確かに梟よりよっぽど言い得て妙だし、息苦しそうな気味のイメージにぴったりね!」
赤城さんはよほど面白かったのか、お腹を抱えて開けっぴろげにアハハと笑った。その笑いは他者を蔑んだり小馬鹿にしたりとか、そういった余計な意図が一切ない純粋なものだった。こんなふうに楽しげに笑う人に初めて出会った僕は、正直なところ面食らう。
「能面だって。アハッ、やだ。可笑しい。でもさ、皆が立ってるのは言わば現代劇の舞台よ?君だけ能面つけて、いったい誰を演じる気?どんな役割を選んでも同じ。君は立つ舞台を間違えてるのよ。息苦しくだってなるわよ。――ああでもホント、能面は傑作だね。ウフフ」
彼女の言葉は、僕の全てを見透かそうとしているようで恐い。
彼女の言葉は、僕の全てを理解してくれているようで暖かい。
でも、そんな感情や感慨がどうでもよくなるほど、彼女のクスクスと笑う声が耳に心地よくて。
僕はどこか夢心地で、彼女が楽しげに笑うその姿を眺めていた――。”
夢久島に住まう人と、そこを訪れた人と。
章ごとに少しずつ話が重なって。
「海で“呪文”を唱えると本当の自分の居場所に連れて行ってくれる」という噂は、本当か否か。
“呪文”を唱えた人々に訪れた奇跡とは。
“……本当は、わかっていたのです。
ええ、わかっていたのです。
ぼくは楽園を目指したかったのではありません。この島から逃げ出したかったのです。ぼくに優しくないこの島から、とにかく逃げ出してしまいたかったのです。そこには勇気など欠片もなく、ただ、臆病なぼくがいただけだったのです。
夕日を浴びる天尽岩が、「どうするの?」と問いかけてくるようでした。
ぼくは自分の足元に視線を落とし、しばらく考え込みます。寄せては返す波の音が、ぼくの出す答えを待ち続けていました。
やがてぼくは顔を上げ、真っ直ぐに前を向きます。
――決めました。
ぼくはここで生きていきます。
あるがままに生きていきます。
ここから逃げ出した時点で、ぼくはどこへ行こうとも、再び追いやられる恐怖に怯え続けることになるのですから……。
それがあなたの答え?と、天尽岩が訊いてきます。
ええそうです。と、ぼくは答えます。
逃げ出すための呪文は、ぼくには必要ありません。
でも。”続きを読む投稿日:2010.08.13
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