ヒトはどこからきたのか――サバンナと森の類人猿から
伊谷原一(著)
,三砂ちづる(著)
/亜紀書房
作品情報
〈七〇〇万年前、共通の祖先からヒトと類人猿は分かれた〉
ヒトと類人猿の差はなんなのか? そして、ヒトとはなにか。
──霊長類学の本質と未来を語るサイエンス対談
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「ヒトはなぜ二足歩行をはじめたのか?」
「ヒトはどこで誕生したのか?」
京都大学から始まった〈霊長類学〉は、ヒトと類人猿との違いを見ることでヒトの本質を明かそうとしてきた。
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今西錦司、伊谷純一郎、河合雅雄など、綺羅星のように現れた霊長類研究者たちの軌跡を、霊長類研究者であり、伊谷純一郎の息子である伊谷原一が語る。
話を聞き出していくのは、人間の出産をテーマとしてきた疫学者の三砂ちづる。
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アフリカでのフィールドワークや日本でのチンパンジーの集団飼育……人類学としての霊長類学を大胆に俯瞰するサイエンス読み物。
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【目次】
■まえがき……三砂ちづる
1.ヒトと類人猿の祖先がきたところ
■ヒトと類人猿の共通の祖先が生まれたところ
■ヒトと類人猿を分けるもの
■食べ物から考える
2.霊長類学から生態人類学へ──動物、その社会学的研究
■霊長類学が始まる
■ボノボフィールドの発見
■社会学としての霊長類学
■家族という社会単位の成立
■生態人類学への道
3.さまざまな施設をつくる
■日本モンキーセンター
■熊本サンクチュアリ
4.研究者になるなんて思ってなかった
■犬山で生まれる
■アフリカに行きたかった少年
■はじめてのアフリカ行き
■ボノボのフィールドワーク
■ワンバに永住?
■ボノボの孤児・ジュディ
■九〇年代のアフリカ
5.チンパンジーの集団を育てる
■女性は一人で子どもを産めるか
■林原類人猿研究センター(GARI)はこうして生まれた
■野生ではできないことを
■博物館は、研究の成果を伝えられる場所
■研究所を大きくしていく
■「私にはこの人がいる」と思える
■ヒトとチンパンジーの関係構築のために
6.霊長類とヒト
■GARIだからこそできた観察
■チンパンジーには短期記憶がある
■生殖行動は見て覚えるもの?
■飼育下という特殊な状況
■見て学ぶ
■授乳と発情の密な関係
■大型類人猿の生理サイクル
■交尾と生殖と寿命のややこしい関係
■チンパンジーの記憶と感情
おわりに
■京大霊長類研究所
■人類はどこで発祥したのか
■家族を基盤とする人間社会
■あとがき……伊谷原一
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商品情報
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 生物・バイオテクノロジー
- 出版社
- 亜紀書房
- 書籍発売日
- 2023.03.23
- Reader Store発売日
- 2023.04.21
- ファイルサイズ
- 11.7MB
- ページ数
- 262ページ
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この作品のレビュー
平均 3.3 (3件のレビュー)
-
サルの社会を通して人間の社会を見る
サルからヒトへの進化は森ではなく乾燥帯で始まった。
チンパンジーやゴリラも、いったんは森から出て、乾燥帯で生活を始めたが、何らかの理由で森に逃げ帰ったのではないか。
同じ共通祖先をもつヒトは逆に、…そのまま乾燥帯に残った。なぜ食糧が豊富な森ではなく、少ない乾燥帯で住み続けることができたか?
それは彼らが肉食を始めていたから。
彼らは森の中で肉を食べるようになり、その肉を得るためだけに乾燥帯に出ていったのだ。
こう仮説を立てると、次の謎も説明がつく。
謎1 なんでアフリカのチンパンジーは、森に棲んでるのに肉食もするのか?
謎2 なんでアフリカの類人猿だけがナックルウォーキングをするのか?
ヒトと類人猿の共通祖先が、森から出て乾燥帯で本格的に肉食や、二足歩行を始めていたからだ。
何らの理由で類人猿が森に戻った時、それまでの肉食の習慣が引き継がれた。
そして森では二足歩行はしにくいため四足歩行に戻ったが、それまでの掌をつく歩き方から、拳をつける歩き方に変わったのだ。
なぜか?
掌をつく方が樹上でも安定するはずなのに。
それは、ナックル姿勢の方が立ち上がりやすいから他ならない。
陸上の短距離走者や相撲取りの立ち会いを思い出せば合点がいく。
つまり、従来の仮説ではヒトの祖先もナックルウォーキングを経て二足歩行に進化したと考えられていたが、そうではなく普通の掌をつける四足歩行から進化して二足歩行になり、その後で四足歩行に戻った者たちがナックルウォーキングになったのだ。
いや四足ですらない。
それぞれ掴めるんだら四本手と言うべきか。
いわゆるミッシングリンクと呼ばれる空白の250万年の間に、われわれの共通祖先は立ち上がった。
しかし立ち上がらなかったのが類人猿系統に進化したのではなく、彼らも一度は立ち上がって二足歩行になっていた。
「共通祖先はすでに立ち上がっていて、人類系統に進化したものは立ち上がったまま行動し始めたけれど、類人猿の系統に進化したものは、迫害や圧力を受けたのか、気候変動、地殻変動が起きたのか、何かヒト系統とは違う要因によって、四足方向に戻らざるを得ない環境に戻された」
その戻った先が森なのだと。
「共通祖先が乾燥帯のサバンナにいて直立歩行をしていたとして、そのままサバンナに残ったものたちが直立歩行を保ったヒトになって、そうでないグループは森林に入ってナックルウォーキングをし、森林環境に適応した」
本書は、2022年の京大霊長類研究所の終焉を一つの区切りとして、日本の霊長類学の始まりから終わりまでを見てきた当事者へのインタビューだ。
日本の霊長類学者たちは、欧米とは方法論が始まりから違っていた。
「先ほどお話ししたように、日本の霊長類学というのは動物行動学や動物生態学と違い、そもそも社会学なんですよ。それはサルの群れの研究からつながっていることですが、もっと細かいこと、群れ内の個体間の関係や交渉など、動物の社会が知りたいわけです」
猿に社会やコミュニケーションなんてないし、文化なんてあるもんかっていう固定観念は、海外だけでなく日本にも根強かった。
ジェーン・グドールでさえ、チンパンジーに集団という枠組みはないし、強いきずながあるのは母親と子どもの間だけと信じていた。
世界中がサルの中に、安定的な集団構造を見、社会や文化の存在を認め始めるのは、幸島のサルのイモ洗い行動からだ。
個が集まるから自動的に社会ができるのではない。むしろ社会があるから、個の存在が認められるのだ。
島中のサルがイモを海水で洗い始めたのは、確かに最初は、若い雌ザルの偶然の出来事から始まったものだが、彼女の行動が周りに広がるためには、そこに社会という枠組みができあがっていないと文化は生まれない。
社会学的にサルを見ようという発想を持ったのは、今西錦司がいたから。
彼の仮説のほとんどはデタラメだったけど、目の付け所が抜群に良かった。
そもそものスタートがヒトの社会を見るためにやり始めたこと。
サルそのもののことを知りたいわけじゃなくて、それを通じて人間のことを知りたかった。
霊長類学というのは人間のことを見るためにやっておりサルの社会を通して人間の社会を見ようとしていた。続きを読む投稿日:2023.09.10
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対談形式にして読みやすくしたのかもしれないけど,学者と学者の,研究の進め方の話になっていって~タイトルの答え乃至仮説はP12「類人猿やヒトの共通祖先は乾燥帯,あるいは森と乾燥帯の境界あたりで生息してい…て,ヒトの祖先はそのまま乾燥帯に残り,類人猿はモリに入り込んだのではないか。私はヒトが乾燥帯にいられたのは,肉食が始まったからだと思います。移動しながら植物を採集し炊いたのが,動物タンパク質に依存できるように進化したからこそ,乾燥帯で住み続けることができたのではないでしょうか。」~まあ,好き勝手なことをやってきて,それを許す環境があって,金を引き出す能力があって,彼の人生が成り立ってきたような気がするな。父親もほぼ同分野の研究者で,父と呼んだり,伊谷さんと呼んだりで分かり難い。この企画を持ちかけた三砂さんは疫学・母子保健の研究者。京大の霊長類研究所は不正経理や論文捏造で解散されたというのは初耳だ。日本モンキーセンターは名鉄が金を出したらしく,そのほかにも資金提供してくれる会社がいるんだ。へぇぇ。ボノボとピグミーチンパンジーが同じものだと確認できて良かった続きを読む
投稿日:2024.02.24
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