誘拐作戦
都筑道夫(著)
/徳間文庫 トクマの特選!
作品情報
その女は、小雨に洗われた京葉道路に横たわっていた──
ひき逃げ現場に出くわしたチンピラ四人と医者ひとり。世を拗ねた五人の悪党たちは、死んだ女そっくりの身代わりを用意し偽誘拐を演出。
一方、身代金を惜しむ金満家族に、駆け出しの知性派探偵が加勢。
アドリブ任せに見えた事件は、次第に黒い罠を露呈させ始める。
鬼才都筑道夫がミステリの枠の極限に挑んだ超トリッキーな逸品。
史上初の〈文庫連載小説〉、都筑道夫の幻の雑誌連載長篇「ジェイムズ・ボンドはアメリカ人」併録。
トクマの特選!
イラスト 光嶋フーパイ
〈目次〉
誘拐作戦第一歩は盗難車で
第二歩は外科医の腕で
第三歩は被害者の家で
第四歩は前哨基地で
第五歩はハンドバッグで
第六歩はボーリング・ボールで
第七歩は東京駅で
第八歩はポラロイド写真で
第九歩は長曾禰虎徹で
最後の一歩は意外なほうへ
アダムと七人のイヴ 第3話 ジェイムズ・ボンドはアメリカ人
解説 法月綸太郎
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商品情報
- シリーズ
- 誘拐作戦
- 著者
- 都筑道夫
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 徳間書店
- 掲載誌・レーベル
- 徳間文庫 トクマの特選!
- 書籍発売日
- 2022.08.09
- Reader Store発売日
- 2022.08.09
- ファイルサイズ
- 3.3MB
- ページ数
- 322ページ
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この作品のレビュー
平均 3.0 (1件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
● 感想・評価
レビューの続きを読む
二人の人物が、誘拐について交互に書いた手記を、都筑道夫が発表しているというスタイルの作品。「あんまり、ありのままに書くと、迷惑する人がいる。だから、適当に嘘を交えて、交替で書くことにする。」として、いわゆる「信頼できない語り手」の作品であることを示している。
かつて、女を襲い、自殺させたこともあるチンピラ三人組に、顔見知り程度の中だったが、麻雀をして意気投合した栗野。この4人が、道路で倒れている女性を見つけているところに、栗野の知人である桑山が現れ、その女性に似た人物を利用した誘拐をでっち上げようという計画。この計画が、実は、栗野による3人のチンピラへの復讐劇と、桑山=茜一郎と千寿子の結婚と家族から金を引き出すための計画が合わさったものだったというのは、意外性こそ、それなりにある。
しかし、信頼できない語り手の手記なので、字の文に嘘があってもいいのだが、千寿子は死んだと書いてあるし、千寿子は妙子と書いてある。桑山が茜一郎であると思わせるような伏線もなく、桑山が玉木刑事ではないかと思わせるミスディレクションはあるものの、あまり効果的でない。
「やられた」という思いがあまりしないのだ。伏線はあるにはあるが、上手い伏線と感じない。千寿子は生きてました。桑山は茜一郎でした、と言われても、そうですかとしか言いようがない。
二人の書き手のうち、一人が千寿子だったという点は意外性はある。ここは素直に驚いた。しかし、それが作品全体に活かされていない。千寿子しか知りようがないことをさらっと書いていたら、「やられた」と感じただろうけど、そういう小技がない。
文体もしっくりこない。場面転換が下手というか、場面が代わったときに、文章に入り込めない。文章のつなぎが下手というか、今、何が起こっているのか分かりにくいことがある。誰が喋っているのかとか、誰と誰があっているのかとかが分かりにくい。説明が過ぎると、それはそれで面白くないが、説明不足。これは、翻訳が多かったという都筑道夫のスタイルなのかもしれない。
サスペンス的な誘拐モノかと思えば、実は、家族を騙すための偽装誘拐と、復讐。関係者二人が交互に手記を書いているスタイル等、大きな構成だけ見ると、もっと面白くなりそうなのに、小技が効いておらず、説明不足で文章に入り込めない。軸となるプロットだけ見れば、もっと面白くなりそうな作品だったと思うが、そこまで面白くないというのが素直な感想。★3で。
● 設定
このミステリは、2人の人物が交互に、実際にあったことをアレンジして書いているという設定となっている。
● 第一歩は盗難車で
二人の人物が、交替で「スリラー」めかした原稿を書くという設定。「あんまり、ありのままに書くと、迷惑する人がいる。だから、適当に嘘を交えて、交替で書くことにする。」と宣言。いわゆる、信頼のできない語り手であるという宣言である。
女が道路に横たわっていた。小島金一(小きん)、大沢虎雄(大虎)、安藤稔(ブタ)と、栗野治郎の4人がその女を見つける。その女は、錦糸町の映画館通りにあるガン・ルームで会った女だった。
反対路線から桑山という男がやってくる。ハンドバックに入っていたものから、「財田千寿子」という名前の女だと分かる。
● 第二歩は外科医の腕で
もう一人の私が書いているという設定。倒れていた女の声を録音する。倒れていた女は死ぬかもしれないが、「お妙」という似ている女に身代わりをさせて、誘拐をしようという計画を立てる。
桑山は千寿子の死体を5つに切ったと言い、「お妙」という女を、千寿子の家に行かせたという。
● 第三歩は被害者の家で
書き手は、一人目に戻る。女が千寿子の家に行ったのは、テストの意味と、誘拐があった日を遅らせるだけでなく、筆跡のあるものの入手と指紋を付けるため。
子きんが、誘拐があったことを千寿子の父、財田徳太郎に伝える。この段階では身代金は500万円
徳太郎は警察に伝え、捜査一課の福本、勿来部長刑事、荒垣刑事、玉木刑事等が来る。
徳太郎の両親は、得造と兼。祖父は徳右衛門。財田家でのお決まりの誘拐事件対策をしている描写の後、犯人から毎朝新聞の社会部に犯行の電話があり、身代金を1000万円にするとの宣言。最後に、あと、しろうと探偵が出てくるとにおわせる。
● 第4歩は前哨基地で
二人目の原稿。毎朝新聞へ犯人から電話があった翌日、財田家に赤西一郎太というしろうと探偵役が登場。自分の車が盗まれ、誘拐に利用されたという。
誘拐犯の前哨基地は栗野の家。この家で栗野が昔、描いた絵が、大虎、小きん、ブタの3人が手を出して自殺をした女に似ていることが分かる。5つにばらした女の死体を入れたという袋を、ばらまきにいく。猟奇殺人の記事で、誘拐をやりやすくしようとする作戦。しかし、小キンが帰ってこない。
● 第五歩はハンドバックで
一人目に戻る。探偵役扱いが気に入らない、赤西一郎太ではなく、茜一郎とする。子どもを利用して、千寿子のハンドバックが届けられる。茜一郎の捜査。玉木刑事は茜一郎を疑うが、玉木刑事もどこか怪しい動きをしている。
● 第六歩はボーリングボールで
小きんは、死体の女の顔が入っているというボーリングバッグを捨てに行き、失敗して交通事故で死ぬ。
二人目は探偵の名を赤西一郎太にこだわる。犯人は、東京駅の待合室に一人で1000万円を持ってくるように指示。しろうと探偵の推理と刑事の捜査。玉木刑事は赤西をうたがい、邪見にする。
● 第七歩は東京駅で
東京駅には多数の刑事が潜む。財田家に犯人から電話。身代金を2000万円に値上げ。警察の捜査。玉木刑事は怪しい動きをしている。
● 第八歩はポラロイド写真で
ハンドバックを財田家近くまで持って行ったのはブタ。財田家に電話したのは大虎。千寿子が無事な証拠をでっち上げる。目立つ壁紙を新聞紙で隠して撮影。ブタが出かけたきり、帰ってこない、
ガン・ルームで大虎、小きん、ブタのことを事務員が目撃していたという。
警察は、小きんが交通事故で死んだことを知る。玉木刑事は赤西を疑うが、同僚の荒垣からは玉木の行動も疑われる。財田家は、警察を信頼せず、赤西を信頼している。事務所に犯人から写真が届けられる。
● 第九歩は中曾禰虎徹で
財田徳右衛門は、愛剣の「中曾禰虎徹」を持って、犯人との取引へ。犯人から再度電話があり、お金の受け取り場所を変えたいとのこと。警察がどっと動く。更に電話。赤西一郎太が出て、対応。赤西は、犯人のアジトに行くという。
徳右衛門も戻り、警察も入り、財田家に結集。赤西は、写真を見て、新聞社に電話をして、輪転機の番号から、犯人のアジトを突き止めたようだが?
● 最後の一歩は意外な方へ
栗野が誘拐計画の全貌を大虎に語る。財田千寿子は死んでいない。栗野が、大虎、小きんに復讐するために、桑野と、ケチな一家から金を引き出そうとした財田千寿子と組んで、、この誘拐計画を立てたのだという。
茜一郎から財田家に電話があり、警察が向かう。ダイナマイトで、栗野、大虎と玉田刑事が死んでいた。茜と千寿子は生還
● 最後
奇数章を書いたのは、赤西一郎太=茜一郎=桑山。偶数章を書いたのは、財田千寿子。赤西は、事情を説明。
もともとは茜と千寿子が結婚と家族から金を引き出すために立てた計画。それに栗野の大虎、小きん、ブタへの復讐を絡めた計画とした。
これを、推理作家に頼んで、その人が創作したものとして発表してもらう。タイトルは誘拐作戦。誘拐をでっち上げ、ふたりの結婚を可能にした作戦という意味
著者による注と茜一郎による注がある。玉木刑事は、たまたま捜査の担当になったから事件に関われたわけであり、栗野が共犯者とするのは論理的ではない、だから玉木刑事は共犯ではあり得ないという考え。論理的な矛盾だが、証拠に裏付けられたものでもない。投稿日:2022.09.13
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