第8監房
柴田錬三郎(著者)
,日下三蔵(著者)
/ちくま文庫
作品情報
剣豪小説の大家として知られる著者は、現代もののミステリも多数残した。本書は表題作「第8監房」を筆頭に、主に1950年代に発表され現在は入手困難な短篇を集めたオリジナル作品集。東京の裏社会、スパイ工作、連続猟奇殺人、禁断の愛――巧みなストーリーテリングと衝撃の結末で贈る“狂気”ほとばしる作品群。幻の『盲目殺人事件』を完全収録し、日下三蔵氏による詳細な解説も併録。
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商品情報
- シリーズ
- 第8監房
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 筑摩書房
- 掲載誌・レーベル
- ちくま文庫
- 書籍発売日
- 2022.01.08
- Reader Store発売日
- 2022.04.08
- ファイルサイズ
- 1.8MB
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この作品のレビュー
平均 3.5 (3件のレビュー)
-
オビの「剣豪小説の大家が残した〈狂気〉のミステリ短篇」という文言と、編集に日下三蔵氏が携わっていらっしゃるだけで、もう興味津々。
柴田錬三郎先生の作品はまだ集英社文庫『御家人斬九郎』(9784087…453300)の1作品しか読んでいないが、たしかにミステリー要素はひしひしと感ぜられた。が、あちらはあくまで粋な剣豪による活劇。よもや「狂気」なんて纏っていたっけな?
という事でワクワクしながら読み始める。
8篇収録。
〈平家部落の亡霊〉…飛騨山中で悪天候に見舞われバスが立ち往生。乗員乗客らは一宿を求めて「平家館」に退避するのだが、逃げ込んだ先には「幽霊」が…という伝承怪談×ミステリー。乗客の誰も彼もがちょっとずつ怪しくて、いい感じにホラーっぽさも醸した作品。鐘三つ。
〈盲目殺人事件〉…タイトルの時点で仕掛けの予想がついてしまったのが惜しい。ただ狂気の度合いで言えばかなり上位か。
〈銀座ジャングル〉…銀幕スター女優を手に掛けたのは誰か?どんでん返しミステリー。
〈第8監房〉…高森の謎めいた行動。ツケと落とし前。任侠譚。
〈三行広告〉…これまた趣を異にした、今風で言うマッチングサービスを介した夫婦の諍い。ミステリーというかなんというか…男女の仲はミステリアス。
〈日露戦争を起した女〉…個人的に一番好みだったけど、あんまりといえばあんまりな、ifの歴史掌編。本作に登場する「青木大佐」は青木宣純か。史実において彼が従えたという特別任務班に関する’こんな事があったんじゃないか’の話。一組の若夫婦に課せられた国家の重責。昔なにかで読んだけど、歴史が動く時には常に女性の影が在る、というのはこういう事なのかもしれない。
〈生首と芸術〉…突然ボードレールとか出てきて面食らったけど、史実と照らし合わせて読むとまた乙な物語。一体の胸像を巡る美術ミステリー。
〈神の悪戯〉…野口男三郎の度重なる供述により話はもつれにもつれるが、ラストの自白で全てがひっくり返る感じが面白い。とはいえスッキリ爽快という訳にはいかず、やるせなさと寂寥が後引く話。
…と、かなりあれこれバラエティに富んだ作品群。シバレンの奥深さ・語り口をたっぷり堪能出来る一冊でした。
1刷
2022.7.15続きを読む投稿日:2022.07.15
・私は柴田錬三郎を知らない。いつもかういふことを書いてゐるのだが、実際に知らないのでかうとしか書けない。私は好き嫌ひが多い。 読む物も片寄つてゐる。作家も同様である。かつて私の眼中にシバレンはなかつた…。ところが最近はいろいろな文庫が出る。海外の読みたいものがないので、今は昔の日本の作家でも読まうと思つた。さうしてたまたま買つたのが柴田錬三郎「第8監房」(ちくま文庫)であつた。本書所収の短編は昭和30年頃の作品である。同じ頃に例の「眠狂四郎」も始まつた。本書はそれとは全く違ふ作品集で、「昭和二十年代以前には、時代小説は数あるレパートリーのうちのひとつで、純文学から大衆小説、随筆、評論、少年少女向けの作品まで、柴田錬三郎は才気にまかせて多種多様なジャンルを手がけていた」(日下三蔵「編者解説」361頁)らし い。実際、本書にはフランスを舞台にした作品もある。時代小説の大家がこんなものをと思つてしまふ作品である。 他は大体時代が分かる作品、つまり、戦後が舞台になつている。本書はアンソロジーではあつても他を流用した「あとがき」を持ち、そこには、「小説ばかり書いていると、たまには、別の読物を書いてみたくなる衝動が起る。本書に収めた各篇は、折々に読みちらした材料をもとにして、私の勝手な潤色を加えたものばかりである。」(359 頁)とある。本書にこれがそのまま当たるのかどうか私には分からないが、編者がさう判断して本書の「あとがき」としたのである。たぶんそんな作品なのであらう。
・そんな中で最も出来の良いのが表題作「第8監房」であらう。ごくかいつまんで言へば、場末のキャバレーの男女の因縁話とでもならうか。男は女の夫をルソン島で殺したのである。事情はあつても殺人は殺人といふことで、男は復員後、上官の妻を捜して遂に見つける。それがキャバレーの女であつた。ただし、男は何もできず、ただ遠くから見守るのみであつた。ある時、女にまとわりつく男が殺された。男は女の罪をかぶるが、その時、女は肺病で死の間際であつた。そこで第8監房から……といふ物語である。前半の罪をかぶるまではありさうな話なのだが、後半にな ると本当かと思つてしまひさうである。最後は「走れメロス」風でさへある。このやうな看守がゐるのも都合よすぎ る。これを「考えてみればシバレンの作品は、異常なシチュエーションや異常な心理を描くものばかり」(「編者解 説」367頁)だといふ一例にすぎないと考へればそれまでであらう。小説といふもの、大体が極めて都合よくできてゐる。都合よくないと物語にならない。これも男と女は良いとしても、看守がゐないとお話にならない。物語はそこで終はつてしまふ。そこでいささかの〈人情味〉をといふことでこの作品ができてゐる。他の作品とは違ふところである。これが表題作になれる所以であらう。巻頭の「平家部落の亡霊」はその題名からしてクレームがつきさうで ある。部落はいけない集落にせよと今なら言はれるはずである。大雨の中、バス故障により平家部落に避難した人達の物語である。ポイントは亡霊とは何かである。それは「現世にふたつとは存在しない凄惨な形相の怪物」(54 頁)と形容される。それ以前に「二十歳になった孫息子が、ある嵐の晩に云々」(29頁)とある。ただ、物語はこれだけに関はることはなく、といふよりこれは添へ物で、いくつかの小さなエピソードが集まつてをり、亡霊はその一つに過ぎない。タイトルに偽りありの如くで、何か中途半端な感じである。そんなわけで、時代や風俗が分かつて 面白いのだが、肝心の物語が今一つといふのが私の読後感であつた。続きを読む投稿日:2022.04.03
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