近未来戦の核心サイバー戦-情報大国ロシアの全貌
佐々木孝博(著者)
/扶桑社
作品情報
知らないうちに多大な被害を受け、攻撃国に大きな利益をもたらす「サイバー戦」の根本思想と実践法とは?
大国ロシアをベースに「サイバー戦」の全貌を元在ロシア防衛駐在官がひもとく!
2014年のウクライナ危機で、ロシアはわずかな抵抗を受けたのみで、簡単にクリミア半島を併合してしまったことを覚えているだろうか? 「サイバー戦」の例のひとつである。
2007年にロシアによるエストニアへの大規模なサイバー攻撃事案が起き、2008年にはグルジア紛争が生起するなどの情勢を受け、日露防衛当局間の関係は厳しい状態を迎えることとなった。必然的にロシアとの安全保障問題の最前線で勤務していた筆者にとっては、これらの問題でのロシアの真意がどこにあるのかとの疑問が生じ、ロシア研究を本格的に実施するきっかけとなった。そして、本書執筆に至ったということである。本書では、情報空間(サイバー空間)におけるロシアの安全保障問題(とくにサイバー戦)について、西側の標準的な考え方や慣習に左右されず、ロシアの為政者がどのように考えているのかに軸足を置き考察してきた。……あとがきより
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この作品のレビュー
平均 3.5 (3件のレビュー)
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ロシアの公開・公式情報とオープンな勉強会等で得られた情報をもとに、ロシアのサイバー戦に関する考え・方針等をわかりやすく解き明かしている。
個人的に一番驚きだったのは、サイバー戦に関するロシアの認識。…
サイバー戦というと、クラッキングして情報を盗んだり、ウィルス等でシステムに対して攻撃を仕掛けたりすることを想像してしまうが、(もちろんそれらも含まれるものの)、ロシアのサイバー戦に関する認識は、どちらかというと情報戦そのものに近いと感じた。
アラブの春を米国によるサイバー戦と捉え、力学的な武力を必ずしも用いずに、SNS等を利用して偽情報を流し、民衆を扇動し、敵性国家の政権を転覆し、自らにとって望ましい状況を作り出すことをサイバー戦であると認識している。
この考えに従うと、通常の力学的手段を用いた”戦争”に合わせて行われるサイバー戦は、協定等の形で開戦と終戦が明確になるものの、通常の”戦争”を伴わないサイバー戦には開戦と終戦は明確に存在せず、平時、グレー時、有事といった区別もなく、常時サイバー戦という”戦争”状態になる。
サイバー戦についてまさに目から鱗の捉え方であり、サイバー戦を前提に考えなければならない21世紀の安全保障には、従来の抑止や対処といった概念とは異なる、新たな考え方が必要になるのではないかと感じた。
サイバー戦以外のことについても、ロシアについての基本的な知識がない自分にとっては、ロシアの、安全保障に関する、欧米とは異なる固有の考え方の情報が非常に参考になった。
以下、参考になったロシア情報
・安全保障観(安全という言葉はなく危険でないことが安全を意味する)
・中国の超限戦を研究
・CNAは軍、CNE(諜報)は連邦保安庁、CNDは各組織で行うとデマケ
・通信法で通信傍受が認められている
・軍事ドクトリンにおける紛争・戦争のレベルの区分(武力紛争~大規模戦争)
・固有の領土という概念はなく、領土は戦争によって変化するという考え方。続きを読む投稿日:2022.04.23
元自衛官で在ロシア日本大使館勤務経験のある筆者がロシアのサイバー戦略について解説した書。
理論面の解説が中心であり、サイバー戦や情報戦の具体的な事例の解説は、それほど詳しくないことが少し残念だった。
…
これを読むと、ロシアが西側の情報戦に段々と追い込まれているという危機意識が今回のウクライナ侵攻に結びついたことが分かる。
しかし、あれほど威力を発揮していたロシアのサイバー攻撃がウクライナにほとんどダメージを与えていないことが不思議で仕方がない。ウクライナに協力する西側のサイバー防御能力が高いのか、何か別の理由があるのだろうか。
また、ICTの軍事利用により、核戦争の誘発が容易に起こり得ること、つまり、サイバー攻撃による争いが核戦争にエスカレートする可能性をロシアが指摘していることに驚いた。
今回の戦争も、核兵器の使用に繋がらないとよいが、その可能性がないとは言えない。続きを読む投稿日:2022.03.23
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