国際貿易法入門 ──WTOとFTAの共存へ
関根豪政(著)
/ちくま新書
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戦後すぐの「関税と貿易に関する一般協定(GATT)」で国際貿易法は確立し、世界貿易機関(WTO)が1995年に発足したが、近年ではWTOは弱体化し、自由貿易協定(FTA)が増加している。そのことを踏まえて、日本が関与している主だったFTAとして、TPPや日EU・EPA、RCEP、日米貿易協定を詳しく解説。最後にWTOとFTAが共存する新時代の国際貿易体制を提示し、日本を取り巻く国際環境の変化を見すえつつ解説する。ビジネスにも役立つ国際貿易法入門。
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この作品のレビュー
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貿易の研究者による、国際貿易管理についてまとめたもの。国際貿易はGATTやWTOという国際機関を中心に管理されてきたが、近年はFTAやTPPなどの別の枠組みによっても規律され、管理体制が複雑化している…。そのような状況を、学術的にわかりやすく、丁寧にまとめている。国や地域による考え方の違いや、体制の問題点を的確に指摘しており、実態を理解することができた。勉強になった一冊。
「保護主義は、効率の悪い産業を延命させる、あるいは、外国との信頼関係を悪化させるなどの弊害をもたらす」p9
「(GATT(WTO)の理念)「最恵国待遇」という原則が明記され、関税など貿易に影響を与える措置は、すべての協定参加国に対して平等に適用されることが目指された。これは戦間期に各国が、貿易相手国に応じて異なる関税を差別的に適用することでブロック経済化を引き起こしたことへの反省に基づく」p10
「最恵国待遇が形骸化する流れが強まっているのも事実である。日米貿易協定、日EU経済連携協定(日EU・EPA)、環太平洋パートナーシップ(TPP)、地域的な包括的経済連携(RCEP)などの様々な貿易協定は、参加国に対してのみ特恵的な待遇を認めることになるため、最恵国待遇と衝突することになる(ただし、理論的には例外として認められる)。加えて、多くの協定が多層的に締結されていることから、国際貿易関係を難解なものとする要因となっている」p11
「なぜ、WTO協定というルールが存在するにもかかわらず、次々と貿易協定が締結されるのだろうか。その最大の理由は、WTOそれ自体が「停滞」していることにある。(その2つの側面)1つ目が、WTOでのルール・メイキングの鈍化である。国際的な貿易は急速に変化しているにもかかわらず、それを統括する国際貿易ルールの大半は1990年代から進化しておらず、現実の進歩に対応しきれていない。2つ目は、WTO紛争処理制度の機能停止である。WTOの紛争処理制度は、WTOの最大の存在意義と言えるが、2016年頃から、この機能に障害が生ずるようになり、紛争処理制度のあり方をめぐって紛糾するという嘆かわしい事態が生まれてしまっているのである」p11
「(WTOの目的)貿易の自由化を通じた世界経済の繁栄」p16
「相対的に技術力に優れた国は、技術力を発揮できる産品のの製造に集中し、労働力を要する産品についてはそれが得意な国に任せれば、全体の生産量が増え、両国にとって利益となる。このような各国の強みは「比較優位」と呼ばれ、自由に貿易ができれば、この比較優位が活かされることになる。だからこそ、貿易の自由化が目指されるのであり、WTOはそのために組成されている」p17
「関税の引き上げを望む加盟国は、加盟国間のバランスを保つために代償の提供(他の産品の関税の引き下げ)か、利害関係国などによる他の産品の関税の引き上げを甘受しなければならない」p27
「(WTOのルール・メイキング(一括受諾方式))一括受諾方式には、合意が形成できるものについても採択できないという欠点がある。1つでもボトルネックになる交渉テーマがあると、他の合意できている分野も保留となるため、一括受諾方式は、交渉の停滞感を一層強くする」p68
「(部分合意の推進)「合意しやすいところから合意する」部分合意の方式は、困難な問題は先送りするということでもあり、長期的な観点からの功罪はまだ判断できない段階にある」p68 「WTO上級委員会が機能不全に陥ってしまった直接の契機は、2016年5月に米国が、韓国出身の張勝和委員の再任を拒絶したことにある。米国が再任の承認を拒否したことから、上級委員の再任についてのコンセンサスが形成できなくなり、後任を選定する必要が生じた。加えて米国は、2017年8月から、任期満了に伴う新しい上級委員の任命も拒絶する姿勢を示すようになった結果、新しい委員が補充されず、上級委員が徐々に減少する状況が生じた。ついに、2019年12月11日以降は上級委員の数が紛争の審議に必要な最低人数(3名)を下回り、その日以降は新規の上訴を審議できないという状況に追い込まれたのである(これに関し米国は、細かい理由を数多く挙げている)」p115
「(FTAの締結数が増加しているものの)WTOの存在意義が失われたわけでもない。FTAはWTOを根拠に正当化されるのであり、その内容の多くはWTO協定と親和的である。このことから、今後、国際貿易法を把握するためには、WTOとFTAとを相互補完的に学んでいく必要がある」p139
「韓国はFTAの締結に積極的であり、締結件数自体では日本を上回る。韓国のFTA政策は2003年の「FTAロードマップ」に始まり、大統領直轄の下、「同時多発的」にFTAを推進してきたところに特徴がある。米国、EU、中国といった主要貿易相手国とは協定をすでに締結しており、急ピッチでFTAを拡充させてきた。そのため、FTAカバー率は70%ほどにまで上る。このような韓国の積極姿勢は、日本の産業界にとっても輸出機会を失うことへの焦燥感を生み、日本のFTA政策にも大きな影響を与えてきた」p169
「TPP消滅の危機からCPTPP発効において日本が発揮したリーダーシップは、国内外から高い評価を受けることとなった」p185
「米国は、この常設投資裁判所構想については基本的に懐疑的な立場と思われる。米国はWTOの上級委員会が強力な組織になることさえも警戒しているのである。さらに言うと、トランプ政権は投資仲裁についても否定的になっていた。投資仲裁が米国の主権を侵害するという警戒感や、国外での投資環境が良くなると自国への投資が減少してしまうとうい発想からである」p215
「RCEP協定の国際貿易ルール発展への貢献は大きくはないと言わざるを得ない。いくつか重要な規定が欠落しており、かつ、規定が設けられていても、その内容が十分とは言えない点も少なくない。もちろん、関税などの貿易障壁が軽減することによる経済的利益は大きいと言え、また、保護主義に傾倒している米国に対する政治的なメッセージという意味でも重要な協定であることは間違いない。RCEP協定においては、協定の発効後5年から、5年ごとに協定内容の見直しを行うことが決められたため、その過程でどのようにルールが発展していくのかが重要となろう」p224
「日本からEUへの投資先の三分の一程度は英国」p238
「本書では、1995年に発足したWTOが、発足から20年経過した頃から特に困難に直面している様子を描いてきた。また、WTOの停滞と並行して、各国はFTA政策を強化しており、近年は重要な協定が出現してきていることも示した。まさに現在は、WTOとFTAが共存している時代に突入しているのである」p244
「多極的なルール形成の下では、「法の支配」よりも「力の支配」が強まりかねない」p251続きを読む投稿日:2021.09.15
【琉大OPACリンク】
https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC08354876投稿日:2023.03.31
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