リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで
田中拓道(著)
/中公新書
作品情報
現代のリベラルは「すべての個人が自由に生き方を選択できるよう、国家が一定の再分配を行うべきだ」と考える。リベラルは17世紀ヨーロッパの自由主義から思想的刷新を重ね、第二次世界大戦後は先進諸国に共通する政治的立場となった。しかし20世紀後半の新自由主義や近年のポピュリズムなどの挑戦を受け、あり方の模索が続く。本書は理念の変遷と現実政治の展開を丁寧にたどり、日本でリベラルが確立しない要因にも迫る。
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商品情報
- 著者
- 田中拓道
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2020.12.25
- Reader Store発売日
- 2021.03.12
- ファイルサイズ
- 3.1MB
- ページ数
- 224ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (20件のレビュー)
-
田中拓道(1971年~)氏は、国際基督教大学教養学部卒、北海道大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学、新潟大学法学部准教授などを経て、現在一橋大学大学院社会学研究科教授。専門は比較政治経済学、福祉国…家論、政治理論。
本書は、「リベラル」と呼ばれる政治的思想について、その歴史を踏まえて、今後どのような可能性を持つのかを検討したものである。
私は、今般米国の大統領選挙で民主党のバイデン氏が勝利したことにより、米国(人)がギリギリのところで良識を示したと思っているが、過去10年程の世界に見る「リベラル」の退潮には大きな危機感を抱いており、その可能性を探るべく本書を手に取った。(最近では、萱野稔人『リベラリズムの終わり』なども読んだ)
本書のポイントは概ね以下である。
◆現代のリベラルとは、「価値の多元性を前提として、すべての個人が自分の生き方を自由に選択でき、人生の目標を自由に追求できる機会を保障するために、国家が一定の再配分を行うべきだと考える政治的思想を立場」を指す。
◆リベラルは歴史的に、①19世紀末から20世紀初めにかけて、経済的自由主義(古典的自由主義)を修正し、個人の能力の発展と自由な生き方を保障するために、国家が幅広い分配を行うべきだとする思想(リベラル)が登場した、②1970年代、経済成長と産業構造の変化によって都市部に中産階級が増大すると、価値の多様性を重視する、文化的価値観に基づくリベラルが登場した、③1990年代以降、文化的価値観に加えて、グローバル化の進展に伴い、個々人の抱える多様なリスク(新しい社会的リスク)に合わせたきめ細かな財とサービスの分配を国家に求めるように、リベラルが変容した、という凡そ三段階を経て今日の形になった。
◆「現代リベラル」は「リベラル(個人重視)+国家中心」という価値観を持ち、「保守(共同体重視)+市場中心」の「ワークフェア競争国家」、「保守(共同体重視)+国家中心」の「排外主義ポピュリズム」と対抗関係にある。(この説明では、ノーランチャートに似たマトリクスが使われている)
◆現代リベラルが政治的な力を持つためには、リベラルな価値観を持つインサイダー(安定した正規労働者)と、「新しい社会的リスク」に晒されたアウトサイダー(不安定な非正規労働者)の間に、政治的な連携を作る必要がある。
◆今後も、産業構造の変化、働き方の多様化、家族の多様化、(日本に住む人の)民族や宗教の多様化が続いていく中で、価値観が多様化し、個々人の抱えるリスクが益々個別化していくことは間違いない。そして、そのときに大切になるのは、排外的な民族意識や復古的なナショナリズムではなく、国家が、あらゆる個人の価値観やライフスタイルの自由な選択を保障する環境・制度を整備することでしかありえない。リベラルは今も模索の途上にあるが、その可能性が見出せるのではないか。
「自由」と「平等」はある意味相反する概念と言えるが、人間にとって最も大切な「個人が尊厳を持っている」というのは、その二つがバランスをとって実現されている状態にほかならない。ある著名な某大学学長は、「保守」とは、人間はこれ以上賢くなることはできず、よって現状のままでよいとする考え方で、「革新」とは、人間は更に賢くなることができ、よって現状よりも改善をめざす考え方であると言うが、それに基づくなら、人間はもっと賢くなれるし、「自由と平等」がより良く両立した世界が実現できるはずである。
リベラルの可能性について、考えさせてくれる一冊と思う。
(2021年1月了)続きを読む投稿日:2021.01.23
田中拓道『リベラルとは何か』中公新書 読了。現代においてもその可能性はあるのか。思想的内容や歴史的変遷をコンパクトにまとめた上で、どんな政策を掲げるか、どんな立場の人々から支持されるかを結びつけて検証…していく。印象的だったのは、積極的差別是正措置が排外主義を生みやすいという指摘。続きを読む
投稿日:2023.09.30
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