ただいま神様当番
青山美智子(著)
/宝島社
作品情報
ある朝、目を覚ますと手首から腕にかけて「神様当番」と太くて大きな文字が書かれていた!突如目の前に現れた「神様」を名乗るおじいさんのお願いを叶えないと、その文字は消えないようで……?「お当番さん、わしを楽しませて?」幸せになる順番を待つのに疲れている印刷所の事務員、理解不能な弟にうんざりしている小学生の女の子、SNSでつながった女子にリア充と思われたい男子高校生、大学生の崩れた日本語に悩まされる外国語教師、部下が気入らないワンマン社長。奇想天外な神様に振り回されていたはずが、いつのまにか主人公たちの悩みも解決していて……。笑えて泣けるエンタメ小説です。大人気ミニチュアアーティスト・田中達也さんがカバー写真を制作。第1回宮崎本大賞を『木曜日にはココアを』で受賞した、青山美智子さんの最新作です。
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商品情報
- シリーズ
- ただいま神様当番
- 著者
- 青山美智子
- 出版社
- 宝島社
- 書籍発売日
- 2020.07.08
- Reader Store発売日
- 2020.07.08
- ファイルサイズ
- 2.8MB
- ページ数
- 304ページ
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この作品のレビュー
平均 4.3 (234件のレビュー)
-
“神様、どうか私の願いを叶えてください”、その対象は異なれど、私たちは、そんな風に手を合わせて『神様』にお祈りすることがあると思います。あなたはそんな時、どんなことをお祈りするでしょうか?
人間が…集団生活を営む生き物である以上、普段ともにする人たちとの間には、何かしら不満が溜まりがちです。誰かが満足している一方で、誰かが不満に思って我慢をしている、そして、そんなバランスが崩れた時にケンカとなり、その関係は崩れてしまいます。一方で、ケンカという決着を見るわけにはいかない関係性も存在します。代表的なのは会社での人間関係でしょう。いくら無理難題を押し付けられても我慢する他ない日々。ここから逃げ出したいと思っても、誰もが宝くじの一等を引きあてられるわけではありません。転職だって家庭環境や年齢によっては躊躇せざるを得ないでしょう。そんな中で不満だけが募っていく日々というのは、なんとも苦しいものです。しかし、”神様、なんとかしてください”と漠然とお祈りを続けても残念ながら誰も助けてくれないのも現実です。そして、人は現実にただ耐える日々を送ります。雲が流れて雨が止むのを待ちます。ある意味でそれも人生と言えるのかも知れません。でも、
もし、『神様』がいるのなら。
もし、『神様』が私たちの前に現れたなら。
そんなファンタジー世界を描いた作品がここにあります。しかし、この作品に登場する『神様』はあなたが思うような『神様』ではないかも知れません。せっかく現れてくださった『神様』に早く自分の元を去っていただかないと、と願うことになるかも知れません。でも、そんな『神様』は、やはり『神様』です。この作品を読んだあなたは、きっとそこに明日を生きるための何かヒントを得ることができると思います。そこに何かきっかけを得ることができると思います。
「ただいま神様当番」、少しでも幸せな未来が訪れることを願う全ての人たちのための、そう、あなたのための物語です。
『私の順番はいつ回ってくるのだろうと、テーブルの隅で考え』ているのは主人公の水原咲良。『久しぶりに誘われた合コンが、頭数合わせだと気づくのが遅すぎた』と後悔する咲良。『誰からも連絡先を聞かれ』ず、『私を誘ってくれた梨恵でさえ、解散後の挨拶もなく』男子と去ってしまったという結末。『…なんか、楽しいことないかなぁ』と『いつのまにか口癖になっている気がする』咲良は、通勤で毎朝七時二十三分のバスに乗ります。『この発車時刻に合わせて、いつも決まった顔ぶれの五人が集まる』というバス停『坂下』。『ちょっと地味な男子高校生と、暗い色のスーツを着たおじさんと、どこの国かわからないけど飴色の髪の外国人男性、それに小学生の女の子』がこの後並んでいく『今日もいつもとそう代わり映えのない朝がきた』と感じる咲良。『きっと代わり映えのない仕事をして、代わり映えなく一日が終わっていくんだ』とも考える咲良。『ふう、とため息をついて下を向くと』、『バス停の台にCDジャケットらしきものが立てかけてあ』りました。『思わずしゃがみこむ』と、それは『キュービックのニューアルバム、初回限定盤』という驚き。『どこ探しても完売してたやつ。もうあきらめていた貴重な一枚だ』と『心拍数が上がった』咲良。『あたりを見回す。誰もいない』、『見るだけ…。ちょっと、さわるだけ』と手を伸ばす咲良。『…ラッキー』、『そんな言葉が口をついて出る』咲良は『私に回ってきたツキのように思』い、『さっとCDをバッグの中に押し込』みました。一方で『会社は相変わらず退屈で不満しかなく』、『帰りの電車でも座れなかった』という一日を過ごし帰宅した咲良。でも『バッグの中に「お楽しみ」が入っている』と気を取り直します。しかし、CDを取り出し『初回限定盤に』ついていた『ミュージックビデオを堪能』するも『不意に、ちりっと胸の奥が痛んだ』という咲良。『明日、同じ場所に戻しておこうか。でも開封しちゃったし…』と思いながら風呂に入り眠った咲良。そして、また『いつもと変わらない朝』が訪れたはずが『腕の内側に何か黒いものが見えた気が』して『パジャマの七分袖を肘まで上げ』ると、そこには『腕からはみ出さんばかりの大きな文字』で、『神様当番』と書かれていました。『…なに、これ⁉︎ いやーっ!』と焦る咲良。その時でした。『お当番さん、みーつけた!』という声。『振り返ると、ニヤニヤした見知らぬお爺さんが床にちょこんと正座している』という衝撃。『キャーッ!』と『悲鳴を上げてとっさに枕を投げつけた』咲良。『ど、泥棒!』と叫ぶ咲良を指差す老人。『…そうだ。泥棒は私だ』と思う咲良に『わし、神様』と言うその老人は『お願いごと、きいて。わしのこと、楽しませて』、さらに『楽しませてくれないと、お当番が終わらないよぉ。お当番が終わらないと、消えないよぉ』と続けます。そして、その日から勾玉の形になって左手の中に収まった神様の当番をする咲良の毎日が始まりました。
五つの短編から構成されるこの作品。青山さんお得意の連作短編として緩やかに繋がりを見せながら五人の主人公が順に登場します。そんな物語の共通点が、『坂下』というバス停から毎朝乗り合わせる五人の主人公の元に訪れる『神様』です。『神様』という言葉から連想するイメージは人によって多種多様だと思いますがこの作品に登場する『神様』は、『神様』の概念がもっと厳格な国に行けば発禁本になるかもしれないというくらいに俗世間の人間っぽさに満ち溢れています。『お爺さんは小柄で痩せていて、額からてっぺんに向かってつるつるで、頭の両脇に白い毛がもわもわと生えていた』というのが最初の短編の主人公・咲良の印象。それは他の主人公でも変わりません。一方で、人間でないことの証明をするかのように『ぱっと小さくなって勾玉みたいな形になった。私の左手のひらに、勾玉がしゅうっと入り込んでいく』と左手の中に収まる『神様』。この『勾玉』という形の比喩の表現が五人五様に異なります。小学生の千帆には『おたまじゃくしみたいな形』に、高校生の直樹には『マップアプリのピンマーク』に、そして英語教師のリチャードには『クエスチョンマークのような形』とそれぞれ違って見えます。これらはいずれも各短編の主題とも結びついていくもの。同じものを違う表現で、というよりは、それぞれの主人公に合った、それぞれの心に見えるものの形に変化したということなのだと思います。とても細かいですが、こういった表現の工夫の積み重ねが作品への没入感を格段にあげているようにも感じました。
『問題は、神様をどうやって楽しませたらいいのかということだ』と、五人の主人公たちはそれぞれに課せられたある意味での難題に真剣に向き合っていきます。それは左手の中に収まっている『神様』が、『ちょっと、無茶すぎませんか。勝手なことばかりしてっ!』というように、主人公の意思を無視して、勝手に手を挙げたり、スマホに意図せぬ言葉を打ち込んで送信したり、と早く『神様』を満足させないと『このままではまともな日常が送れない』と主人公たちを焦りの境地に陥らせるものだったからでした。しかし、主人公たちが考える『まともな日常』とは何なのでしょうか?五人の主人公たちは、それぞれに悩みを抱えていました。『楽しいことはみんな、私の目の前を素通りしていく』と考えるOLの咲良、『リアルにまるで希望が持てない』と考える高校生の直樹、そして『えらくなりたい』と考える社長の武志。全員に共通して言えるのは、自身の心の内には”こうしたい”、”こうなりたい”という漠然とした願いが確かに存在していたことです。しかし、彼らはその願いに向かって自分から足を踏み出そうとはせず、その願いの先にいる自分と、現在の自分を比較して、現在の自分が置かれている立場に不満ばかりが募る、そんな日々を送っていました。『私はただ話しかけられるのを待っていた。楽しいことを、運が回ってくることを、ずっとずっと動かずに待っていた』という彼ら。でもそんな彼らの姿を見て、”馬鹿だなあ”、”意気地なしだなあ”などとは、言えない自分がここにいることに気付きます。人間は常に幸せを願います。しかし、一方で人間は飽きっぽい生き物です。幸せが実現してもすぐそれに慣れてしまい、また不満を抱きます。常により良い生活への思いを募らせる生き物。それが、今の人間社会を作ってきたことは間違いないと思います。しかし、一方で、現状がそれほど酷いものでないと感じた場合には、次の一歩を踏み出すことの方を恐れがちです。しかし、その一歩とは必ずしもハードルが高いものではないのかもしれません。ちょっとした心の持ち方を変えるだけ、ちょっとしたモノの見方を変えるだけ、たったそれだけのことでも随分と人生が前向きになる、そのことを教えてくれたのがこの作品に登場した『神様』でした。『毎日顔合わせる人を全否定しても、自分がつまんなくなるだけ』、人の『表情をイヤミだととらえることは簡単だけど!でも、違う…きっと私がそういう色眼鏡で見ていただけ』、これらは他人がどうこうというよりも、どこまでいっても自分の心の持ちよう次第とも言えます。そう、私たちが幸せになるために必要なこと、それは
『私を楽しませるのは私』
ということ。良いことばかりではない人生を、どのように生きていくか、どのように上向きに変えていくか、それは全て自分次第ということ。あまりに当たり前のことと言えるかもしれません。でも、当たり前すぎてなかなか気づけないことでもあると思います。『神様当番』という一見、突拍子もない設定のこの作品。読み終えてなんだか気持ちがとっても楽になった、そんな自分を感じます。難しいことじゃなくていい”最初の一歩”、そう、そうなのかもしれない、そんな風に思いました。
つまらないと感じる日常、少しの勇気が持てない自分、そして満足できない人生。私たちは何かしら悶々とした不満を抱きつつも毎日を生きています。でも、楽しいと思う日常には、勇気を持てる自分には、そして満足できる人生とするには、”最初の一歩”がまず必要です。人は変化を期待する一方で変化をとても恐れます。現状がほどほどと感じているのであればなおさらです。そんな時、『誰にも頼まれてないけど。誰にも褒められるわけじゃないけど。一円にもならないけど。この世をおもしろがるのって、こんな小さいことからでも充分いいのかもしれない』という、少しの、ほんの少しの”最初の一歩”を踏み出すこと。それこそが、その先に待つ未来へと私たちを導くものなのかもしれません。
「ただいま神様当番」。優しく穏やかに語られる物語の中で、気づきの機会と、”最初の一歩”の大切さを教えてくれた、とても印象深い作品でした。続きを読む投稿日:2020.12.16
連作短編、登場人物が繋がっていてどの話にも出てくるし、同じ人物が他の短編に出てくると嬉しくなる。
表示、背表紙が登場人物を表してるのに読後に気づいた。
リチャードそんなか…?
最近のガジェットとか、フ…ォントを当たり前のように使ってるのが今時で、違和感なく書かれていて良い。
著者の方と同年代で、時代感が合っているだけかも。
文章に癖がなく、女性のかたっぽい感じもなく読みやすい。
悪い方向に話が行かないので、この方の本を固めて読むよりは、たまに読むと良い気がする。続きを読む投稿日:2024.04.20
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