哲学の誕生 ──ソクラテスとは何者か
納富信留(著)
/ちくま学芸文庫
作品情報
哲学はソクラテスとともに始まったと見なされてきた。だが、何も著作を残さなかったソクラテスが、なぜ最初の哲学者とされるのか。それを、彼とその弟子のプラトン、アリストテレスという3人の天才による奇跡的な達成と考える従来の哲学史観では、致命的に見落とされたものがある。ソクラテスが何者だったかをめぐり、同時代の緊張のなかで多士済々の思想家たちが繰り広げた論争から、真に哲学が形成されていく動的なプロセスだ。圧倒的な量の文献を丹念に読み解き、2400年前、古代ギリシアで哲学が生まれるその有り様を浮き彫りにした『哲学者の誕生:ソクラテスをめぐる人々』の増補改訂版。
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商品情報
- シリーズ
- 哲学の誕生 ──ソクラテスとは何者か
- 著者
- 納富信留
- 出版社
- 筑摩書房
- 掲載誌・レーベル
- ちくま学芸文庫
- 書籍発売日
- 2017.04.10
- Reader Store発売日
- 2017.07.21
- ファイルサイズ
- 3.2MB
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この作品のレビュー
平均 3.3 (5件のレビュー)
-
ソクラテスの生きた時代は、ソクラテス・プラトンだけが突出していたのではなく、同時代に生きる思想家たちの大きな潮流の一環として位置付けとして再認識すべきとして、紹介しつつ、後代における主にソクラテス思想…の受容の仕方を紹介した著作。続きを読む
投稿日:2021.03.21
このレビューはネタバレを含みます
納富信留『哲学の誕生』ちくま書房,2019(初出2005)
レビューの続きを読む
だいじな本である。ポイントはソクラテスの「無知の知」というのは誤りだし、問題が多いと論証しているところだろう(第六章)。教員採用試験の用語…集とか、高校の倫理の教科書もそのうち書き換わるんじゃないかな。(もう書きかわっているかも)
(プラトンの)『ソクラテスの弁明』で言っているのは、原文にもとづくと「知らないと思う」(不知の自覚)という透明な自覚で、この意味で『論語』の「知らざるを知らざるとなす」と同じだそうである。それで、「知」を二重化する「無知の知」というような「メタな知」ではないそうだ。そもそもソクラテスは対象をもたない「知」を認めていないのである。日本で標語のようにいわれている「無知の知」は明治以来の哲学の受容のなかで、禅や儒学の下地のうえで言われだした誤解なんだそうだ。要するに、ソクラテスはそんなに難しいことを言っていないのだけれど、実行するのは難しいのである。ついでにいうと「悪法も法なり」は「厳しい法も法である」という意味とのこと。
第一章は、ソクラテスが毒杯をあおいだところを書いている『パイドン』の舞台が、ピタゴラスと関係があると指摘していて、「哲学者」(知を愛し求める人)という言葉をつかったのはヘラクレイトスという人で、ピタゴラス派の「博学」を批判した言葉だったそうだ。プラトンにはピタゴラス派の影響がある。ちなみに哲学のはじまりをタレスとするのはアリストテレスの『形而上学』に書いてある意見で、文献的にはピタゴラス派を指す方が有力なようである。
第二章・第三章は「ソクラテス文学」というジャンルがあったことを書いている。ソクラテスの死後、いろんな人がそれぞれの立場からソクラテスについて書いており、プラトンもその一人だった。それで、クセノフォンとかいろんな断片もみていかないといけないという話で、学問のやり方の話が主となっていると思う。プラトンの『ソクラテスの弁明』も決して歴史的ソクラテスをそのまま書いたものではなく、プラトンの創作として扱わなければいかんそうだ。もちろん、創作だからといってデッチアゲではなく、ソラクテス裁判の「真実」を探究するものである。
第四章は、ソクラテス裁判の背景を書いている。前404年、ペロポネソス戦争でアテナイが負けて、スパルタ王の後援をうけてアテナイにクリティアスらの「三十人政権」ができた。この政権は裁判にかけずに殺された人もふくめて、1500人も市民を弾圧して殺したのだが、一年でこの寡頭制が打倒され、民主制が復活する。ソクラテスの処刑(前399年)の時期には民主派の復讐心が渦巻いていた。ソクラテスの罪状は「瀆神」のほうはあまり問題にならず、「若者を堕落させた」ことが主になるんだが、この「若者」が「三十人政権」を指導したクリティアスだったり、アルキピアデスであったりしたそうだ。なんとなく、プラトンの民主制ぎらいが分かる気がする。
第五章はソクラテスとアルキピアデスの関係を書いている。アルキピアデスは美男で雄弁で金持ちという「アイドル」のような人なんだが、ペロポネソス戦争の和平を邪魔して、シチリアから包囲して全ギリシアを支配しようとする作戦を考えて、アテナイのために戦い、気にくわないことがあって裏切ってスパルタに走り、「そこまでやるか」と思うくらいアテナイ軍の攻略法を教えてたりした。だけど、スパルタでも王妃を誘惑して孕ましてしまい、暗殺指令がでて、ペルシアに逃げてペルシアも手玉にとった。里心がでてアテナイに戻ったときは、なぜか英雄扱いされた。とにかく善にも悪にもふりきれた人だったらしい。この人を教育したかどでソクラテスは断罪されるんだけど、アルキピアデスはソクラテスの魅力が分かっていて、「一生そばにいるしかない」はめになるんで、ソクラテスを避けたそうだ。だから、アルキピアデスについてはソクラテスに政治目的で近づいた「ほんとうの弟子ではない」という弁護は、弁護になっていないんじゃないかという指摘がある。
補遺はソフィストと哲学者をわける発想は「ソクラテス文学」の作品群のなかでも、プラトンに独特な点で、この意味でプラトンの創作だそうだ。ソクラテスの時代はこんな区別はなかったと指摘している。
全体的にソクラテス裁判の歴史的背景がしっかり書いてあって、古典屋の仕事だなと思った。おもしろかった。続きを読む投稿日:2019.08.30
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