核と日本人 ヒロシマ・ゴジラ・フクシマ
山本昭宏(著)
/中公新書
作品情報
唯一の戦争被爆国である日本。戦後、米国の「核の傘」の下にありながら、一貫して「軍事利用」には批判的だ。だが原子力発電を始めとする「平和利用」についてはイデオロギーと関わりなく広範な支持を得てきた。東日本大震災後もなお支持は強い。それはなぜか――。本書は、報道、世論、知識人、さらにはマンガ、映画などのポピュラー文化に注目、戦後日本人の核エネルギーへの嫌悪と歓迎に揺れる複雑な意識と、その軌跡を追う。
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商品情報
- シリーズ
- 核と日本人 ヒロシマ・ゴジラ・フクシマ
- 著者
- 山本昭宏
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2015.01.25
- Reader Store発売日
- 2016.07.30
- ファイルサイズ
- 8.9MB
- ページ数
- 288ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (5件のレビュー)
-
神戸市外国語大学専任講師の山本昭宏(1984-)による、映像・漫画を中心とした原子力をめぐるイメージ像の戦後史。
【構成】
第1章被爆から「平和利用」へ 占領下~1950年代
第2章核の現実とディス…トピア世界 1960年代
第3章原発の推進・定着と会議 1970年代
第4章消費される核と反核 1980年代
第5章安定した対立構造へ 1990年代から3.11後
「3.11」後、戦後日本の原爆・原発をめぐる受容・反発の過程を論じた出版は多い。その中で、本書の特色は、主として映画、漫画を中心とした大衆文化への投射のされ方を基軸にしてそれを論じているところにあるだろう。
視角、内容を見ると山本も執筆者に名前を連ねている福間ら編『複数のヒロシマ』(青弓社)が本書の下敷きになっているように思えるが、本書は広島原爆に限らず原発も含めた原子力のイメージを論じている。吉見俊哉は『夢の原子力』(ちくま新書)で本書と近似した問題意識に基づいて、日米関係の中での原子力イメージの輸出入を論じているが、本書は日本国内でのメディア分析が主体となっている。
内容に移ろう。
出版物がGHQ-SCAPの統制下にあった占領期の実にあっけらかんとした「原爆受容」が描かれる。すでに先行研究で種々指摘されている内容であるが、改めて今日の非核・反核意識との断層を感じる。
1960年代に入り、キューバ危機に代表される核戦争への恐怖が共有されるようになったわけだが、この時期に運転開始した原発に対する強い反発はまだ起こっていない。ただ、原爆に対するイメージの分裂が現れてくるのもこの時期である。1950年代のような原子力に対する素朴な期待を寄せられる(ex鉄腕アトム、8マン)一方で、被爆者の怨み・怒りの表出がストーリーに組み込まれる漫画(ex中沢啓治作品)も出てきた。
1970年代は、公害と原発があわせて論じられるようになったものの、まだ本格的な原発に対する疑義が生じていたわけではなかった。1970年代前半の特撮全盛期の中で原発破壊のプロットはSF的に消費されていたことは、裏を返せば現実には起こらないという安心感から来ていたと言えなくもないだろう。
評者にとっては、1980年代に関する分析が、本書で最も面白く感じた。79年のスリーマイルの事故では揺らがなかった原発の安全性への信頼が、81年の敦賀での事故、そして86年のチェルノブイリによって根底から揺さぶられる。平和利用である原発と軍事利用である核兵器についての態度は、進歩的知識人の中でも80年代の前半までは区別されていたそうだが、チェルノブイリ以降は平和利用に対する疑義が反原発ニューウェーブにつながっていく。しかし、興味深いことに、そのニューウェーブもファッションのように消費されてしまい、下火になった。『Akira』も『北斗の拳』も核戦争後の世界を舞台にしているが、リセットされた世界を創出するスイッチ以上の意味は持たされなかった。
90年代以降は残念ながら各論の点描であり、ストーリーとして語られているものはない。ただ、冷戦という核戦争を惹起すると思われていた最大の要因が取り除かれ、核軍縮の緊急性が下がった時代の「反核」論という視点はうなずける。
巻末に著者の主張は盛り込まれているものの、全体を通じて感情的、政治的な偏りはほとんどなく、社会学のメディア分析として量と質は一定程度担保されている。漫画が中心とはいえ多くの資料に目を通した上で、執筆されたことがうかがえる。
一方で、出版された絵を額面通り受け取っている印象もぬぐえない。つまり、ウルトラセブン第12話の問題が端的に示す通り、出版物の表現には社会的・政治的な規制・圧力が大なり小なり生じており、出版する側の自主規制・編集方針が介在する。本書ではこれについての言及が全くされておらず、それが著者の主張を平板なものにしてしまっているように思える。
中公新書の著者の中では最も若い層に入る著者であるが、まずはこの大きなテーマを一書にまとめたことに対して賛辞を送りたい。しかし、原子力の受容・反発という政治的問題と切り離せないテーマを、そこと切り離してメディア分析だけで論じることに限界がある。今後はぜひ複眼的な視点で立体的・構造的に本テーマを論じてもらいたい。続きを読む投稿日:2015.01.25
このレビューはネタバレを含みます
「恐れながら愉しむという精神のあり方」というのが、本書の論述のキーワードであり、論理構造の骨子である。
レビューの続きを読む
1980年代までは、単なる楽観論だけで過ぎてきたのだということを知らされる。
それにしても…、身近なメディアの中から取り出される言説史のなんと豊かなことよ。
続きを読む投稿日:2021.03.28
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