この作品のレビュー
平均 3.7 (8件のレビュー)
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新聞に載ったインタビューにひかれて手に取った、著者初の自伝的小説。いやあ藤野千夜さんがかの麻布学園の出身だったとは。「ずっとフェリスって言い張ってきた」そうだが、「やっと覚悟のようなものができ」三十五…年前のことをありのままに書こうと思ったそうだ。
描かれる状況はかなり特殊だ。中高一貫男子校の漫研メンバー(中二から高二まで)十三人がD菩薩峠(言うまでもないがこれは大菩薩峠)で一週間夏合宿をする。OBが顔を見せたり、日帰りハイキングに行ったりしつつ、基本的にはずっとマンガを読んで議論する。まあ、ここまではそんなに変わっていると言うほどのこともないが、問題は、誰もが合宿でどんなカップルができるか、誰のとなりで寝るか、それを一番に気にしていることだ。
おや、これってBL小説?と危ぶみながら読んでいったが(私はBLがちょっと苦手)、そういう場面も少しはあるものの至極あっさりした感じで、主に描かれるのは著者自身と思われる少年の揺れ動く心だ。これがねえ、実に覚えのある痛さ、恥ずかしさなのだった。男同士だからどうとか、そんなことあまり関係なく、多くの人が思い当たるであろうあの年代独特の、繊細で、時にひどく鈍感な心情が書き込まれている。
主人公小笹は、特に誰が好きというわけではないけれど、合宿で何かが起きることを期待している。同時に、何も起きないこと、自分が誰からも求められないのではないかということをひどく恐れている。その描写が実に巧みだ。こういう思いをほとんどしたことがないという人もあろうが、そういう人はあまり小説など読まないだろうし、これなんか読んだら「だから何?」とイライラするに違いないが。
現在の視点から書かれるエピローグが切ない。長い時間がたって、それぞれの人生にも転変があり、過去の出来事はおぼろな記憶の中に沈んでいる。それを著者がまるで昨日のことのようにすくい取っていることに感嘆した。
・この表紙はちょっとどうだろうか。あまりにもそれっぽくて敬遠しちゃう人もいるのでは?
・漫研合宿だから当然あれこれのマンガが登場する。私は著者とほぼ同年代なので、それらがとても懐かしい。各章のタイトルも名作マンガからとられていて、エピローグの「夏の終わりのト短調」なんか、ほんとぴったり。
・「大菩薩峠」と聞いて何を思い出すか。これは年齢や趣味関心によって違うと思われ、結構面白い質問かもしれない。「セキグンハ?」と聞き返す当時の著者はまったく何も知らなかったようだが(大菩薩峠は赤軍派が武装蜂起を目指す軍事訓練を行った所)、舞台がここであることが小説全体に響かせている意味は軽くないと思う。
この合宿は1979年のことと思われる。著者は高二。中学校入学は1975年になる。その頃の麻布は、いろいろな形で70年前後の学生運動の余波がまだあったようだ(ほとんど校則らしきものがない自由な校風や、運動会がないことなど)。しかしそれは作中では完全に「背景」であって、直接的には語られない。
この感じはとてもよくわかる。自分の出身校も田舎なりに運動の盛んな高校だったそうで、75年入学の私にもその残り香のようなものが感じられた。でも、それは自分のこととして切実に考えることではなかった。ちょうど小笹が大菩薩峠で赤軍派のことなど何も知らず、手紙をくれた「おにいさま」は誰かということばかり考えていたように。情けなかろうがなんだろうが、それが私たちの「リアル」だったのだ。続きを読む投稿日:2016.02.10
図書館のレビューでは低評価だったが、おもしろそうな表紙に惹かれて読んでみた。
"おにいさま“が誰なのかワクワクしながら進めた。色々目ぼしい人はいたが、結末は意外な人物だった。
『ずっと誰からも愛されな…いかもしれないと怯えていた十五歳のわたし』周りにカップルが増え始める頃になると勝手に悲観してしまう気持ち。分かる。
作中に数々の漫画作品の名前が出てきたので全部記録してしまった。GEO行ったときにちまちま探そうかな…。続きを読む投稿日:2024.02.27
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