「わかる」とはどういうことか ――認識の脳科学
山鳥重(著)
/ちくま新書
この作品のレビュー
平均 3.6 (62件のレビュー)
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本書は、「わかる」ということ、認識の仕組みをやさしくまとめたものです。
「わかりました」って、本当にわかったのか。どこまでをどうわかったかという、いつもながらの疑問に応えるヒントの書です。
脳科学…から、「わかる」へのアプローチです。
気になったのは、以下です。
・わからないことがあるからこそ、わかったがある。わからないのがわかったというのは考えたからです。考えなければわからないままです。
・こころの動きには2つあります。ひとつは感情で、もう一つは思考です。
感情はこころの全体の動きである傾向を示します。なんとなく好き、なんとなく嫌い、なのであって、理由ははっきりしません
思考は心像という心理的な単位を、縦にならべたり、横にならべたりそれらの間に関係を作りだす働きです。
・知覚を介して新しい経験を受け入れます。視覚、聴覚、臭覚、味覚、体性感覚などがあります。心像の獲得は知覚からはじまります。
・知覚のもっとも重要な働きは、対象を区別することです、違いがわかることです。
・知覚を十分に発揮するためには、注意という仕掛けが必要です。注意をかき立てるのは感情です。好奇心です。心は、好奇心⇒注意⇒知覚の流れで働きます。何事も好きになることが大事です。「好きこそものの上手なれ」です。
・視覚系の機能は、対象を区別し同定することです。
・心像には、現在まわりで起こっていることを知覚し続けている知覚心像と、すでに心に溜め込まれている記憶心像の2種類があります。
・知覚心像のままでは、意味をもちません。記憶心像という裏付けがあってこそ、意味を持ちます
・名前を付けるというは、記憶心像に音声記号を張り付けるということです。
・記号とは、なにかを表すためのしるしです。そのしるし自体には、もともと意味がありません。しるしはかくかくしかじかというモノを表しますという取り決めです。
・記号の中でもっとも重要なモノが言語です。単語を区別するための記憶心像を音韻といいます。
・正確な通信手段が集団としての行動を可能とし、危険を未然に防ぎ、種族を生き延びさせるのに大いに役立ったはずです。
・石原慎太郎の「「NO」といえる日本」。日本語にNOにあたる言葉がないので、わざわざNOを使っています。使う必要のない言葉は、生まれないのです。
・外来文化が大量に入ってくるときには、異なる概念である言葉が大量に入ってきます。これを自分の国の言葉に消化するのに時間がかかります。その時間がとれないと、消化不良の言葉が社会に溢れることになります。明治時代がそうでした。
・新しい概念は、解説付きの新しい言葉としてしか受け入れることができません。
・わかる、分かったという経験の第一歩は、なんといっても言語体験です。相手と同じ心像を喚起するためには、その手段である言葉とことばの意味を正しく覚えておく必要があります。記憶になりことはわからないのです。
・分からない言葉はきちんと辞書を引くか、その都度正しく覚えておかなければなりません。
・「IT」などという記号をなんとなく雰囲気や脈絡だけでつかうのはもっとも危険です。なんとなくわかったような気分になりますが、わかっているのは文脈から立ち上がる輪郭だけで、中身がありません。しっかりした記憶心像はきちんと記憶しておかない限り作れません。
・音だけを気分で使っていると頭の方がそれに馴れてきて、聞きなれない言葉を聞いても、「それ何?」と問いかけなくなります。
・わかるの原点は後にも先にもまず、言葉の正確な意味理解です。ここをおろそかにしてはいけません。
・単語の意味がわかるためには、その記号を自分が蓄積させている記憶心像と照合させる必要があります。その都度、辞書を引いて「あゝ、わかった」ではなかなか先へ進めません。自分でちゃんと記憶しておく必要があります。
・いろんな記憶
① 情動反応 悲しくなるとなけてくる、うれしくなると笑えてきます。この情動反応も記憶の1つです。
② 出来事の記憶 身の回りに起こる1回1回の出来事の記憶 出来事、場所、時間、感情、その時の考えなどさまざまな情報の複合体で、シーンの連続として記録されます
③ 意味の記憶 出来事のうちの変わらない部分です。生活に必要な概念や約束事の記憶です
ことがらの記憶 あるまとまりを形成していることがらがそのまま記憶されていて、それを呼び出せばその記憶の働きが終了するタイプの記憶 何度も繰り返し経験することで少しずつ作り上げている記憶
関係の意味 ことがらとことがらの関係 たとえば親子関係
変化の概念 動詞のイメージ 隠れる、移るなどの概念
④ 手順の記憶
・すべて最初は出来事として記憶される
・いろいろな「わかる」
① 全体像で「わかる」 地図をイメージ、大局観、俯瞰、 「木を見ず、森を見よ」
② 整理すると「わかる」 分類できるとすっきりする
③ 筋が通ると「わかる」 説明がうまくつながれば「わかった」と感じられる。
④ 空間関係で「わかる」 2次元、3次元イメージでわかる。立体の理解、回転、移動、変型できるとわかる
⑤ 仕組みで「わかる」 物体の相互の動きを理解することでわかる 動きの背後・理由を知ることでわかる
⑥ 規則で「わかる」 原理原則を理解する 手順を進めてわかる わかったというのは感情なのでです。約束の手順を進めるにあたって何かを感じることはありません。
・どんなときに「わかる」
① 直観的に「わかる」 納得する、合点がいく、腑に落ちる
② まとまることで「わかる」 本を読み終えてわかる。ドラマを見終えてわかる。友人と会話をしてわかる
③ ルールを発見することで「わかる」 仮説検証してわかる
④ 置き換えることで「わかる」 比喩や、たとえ話をみてわかる
・「わかる」ためには何が必要か
意味が分からないとわかりたいと感じる。わかるというのは秩序を生む心の動き。秩序が生まれると、心はわかったと感じてくれる、心に快感、落ち着きが生まれる
わかるためには、記憶と知識の意味の網み目が必要、そのためには、何千語という言葉の知識の蓄積が必要
知識の網の目にひっかかってくれるのが、「わからない」。わかること、知識がないと「わからない」は引っかからない
そのためには、網の目を長い時間をかけて作る必要がある。近道はない
わかるためには、「これはわからない」「ここまではわかった」ということに気がつく必要がある。「わからない」とは、新しい問題に直面したときに、これは自分の頭いんはおさまらないぞという、「心の異物感」である
わかるとは自分でわかる必要があります。自分でわからないこと路を見つけ、自分でわかるようにならなくてはならない
・本当にわかったか
図にしてみる わからなければ、図にかけない
自分でやってみる 運動化できなければ本当にわかっていない
自分のことばで説明し直してみる わからなければ、自分の言葉で表現はできない
そうしてみれば本当にわかったのか、それとも、分かった気になっているが全然わかっていないのかがわかる
・全体のつながりを理解することが大きな意味、言葉や出来事、細かいことを理解するのが小さな意味。大きな意味を理解する必要がある。
【結論】
生きることは、自分の足で立ち、自分の足で歩くことです。世界に立ち向かうためには、自分が使えるしっかりした海図を自分で作っていく必要があります。そうやってはじめて、大きい意味や深い意味を発見することができるようになります。
目次
はじめに わかる・わからない・でもわかる
第1章 「わかる」ための素材
第2章 「わかる」ための手がかり
第3章 「わかる」ための土台
第4章 「わかる」にもいろいろある
第5章 どんな時に「わかった」と思うのか
第6章 「わかる」ためには何が必要か
終章 より大きく深く「わかる」ために
ISBN:9784480059390
出版社:筑摩書房
判型:新書
ページ数:240ページ
定価:800円(本体)
発行年月日:2021年12月10日第25刷続きを読む投稿日:2023.05.07
脳機能障害の臨床医による、わかるという認識の仕組みについて
非常にとっつきにくく哲学的であり脳科学的な主題を様々なエピソードを交えてわかりやすく説明しようと試みていて興味深い。
投稿日:2024.04.12
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