鳥羽伏見の戦い 幕府の命運を決した四日間
野口武彦(著)
/中公新書
作品情報
「歴史にイフはない」なんて誰が言ったのか-幕府の命運を決した慶応四年(一八六八)一月三日から六日にかけての四日間の戦いは、さまざまな偶然に満ちている。なぜ幕府歩兵隊の銃は装弾していなかったか、吹きつける北風は幕府軍にどう影響したのか、そして慶喜の判断はなぜ揺れ動いたのか-。誰もがその名を知っているけれど、詳しくは知らないこの戦いをドキュメンタリータッチでたどる。
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商品情報
- シリーズ
- 鳥羽伏見の戦い 幕府の命運を決した四日間
- 著者
- 野口武彦
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2010.01.25
- Reader Store発売日
- 2014.12.21
- ファイルサイズ
- 1.7MB
- ページ数
- 328ページ
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この作品のレビュー
平均 3.5 (13件のレビュー)
-
「歴史にイフはない」なんて誰が言ったのか――幕府の命運を決した慶応四年(一八六八)一月三日から六日にかけての四日間の戦いは、さまざまな偶然に満ちている。なぜ幕府歩兵隊の銃は装弾していなかったか、吹きつ…ける北風は幕府軍にどう影響したのか、そして慶喜の判断はなぜ揺れ動いたのか――誰もがその名を知っているけれど、詳しくは知らないこの戦いをドキュメンタリータッチでたどる。(2010年刊)
プロローグ 鳥羽伏見の墓碑銘
第一章 開戦前夜
第二章 伝習歩兵隊とシャスポー銃
第三章 鳥羽街道の開戦 戦闘第一日目
第四章 俵陣地と酒樽陣地 戦闘第二日目
第五章 千両松の激戦 戦闘第三日目
第六章 藤堂家の裏切り 戦闘第四日目
第七章 徳川慶喜逃亡
エピローグ 江戸の落日
日本史上でも有名な鳥羽伏見の戦いですが、その実態は知りませんでした。今年の大河ドラマ「八重の桜」でも取り上げられていたので、興味が湧き実態はどうだったのかということで読んでみました。
大政奉還後、復権をめざして徳川慶喜は朝廷側と駆け引きをします。思惑通り進めば、新政府の中でしかるべき地位につく見込みがありました。計画が狂ったのは江戸の出来事でした。庄内藩らが薩摩藩邸を焼き打ちしたのです。事件をきっかけに両軍の緊張が増します。
そんな中、旧幕府側は大軍を持って上洛しますが、鳥羽伏見の地で入京を拒まれ戦争が始まります。
本書を読むと、旧幕府側が戦争を始める覚悟が無かった事がわかります。ゆえに作戦は稚拙で、銃に玉も込めておらず、死傷者を出し退くこととなります。ただし、一方的に負けたわけではありません。1日目こそ混乱したものの2日目は元込銃を装備した伝習隊の活躍や工兵隊が的確に陣地を構築したことにより、一進一退の攻防を続けますが、旧幕軍は体制を立て直すため淀まで退くこととなります。3日目に淀藩が裏切り入城を拒んだためさらに退くことに。旧幕軍は最後の防衛線として山崎地峡の橋本関門で戦いますが、新政府軍の渡河を阻止すべき的確な軍事行動を行わなかったことや、藤堂藩の裏切りにより大坂城へ敗走することとなります。ここの件について、藤堂藩が単に節操無く裏切ったという訳では無く、旧幕側にも手落ちがあった事が解ります。
面白いのは、1日目の時点では、大勢がこの戦いは徳川家(会津・桑名)と薩摩藩、長州藩の私闘と見なしていることです。旧幕側としても諸外国にはその様に説明しています。ところが初日の勝利で朝廷側の空気が変わります。日和見を決め込んでいた諸藩は決心を固めます。特に土佐藩の暗躍が面白いです。
勝てる戦を取りこぼした原因は何か。1番の責任は慶喜にあります。二心殿と言われ肝心なところで胆力に欠けました。かといって徹底して恭順した訳でもありません。激昂した臣下を御するための方便だったのかもしれませんが、何とも殿様らしく無責任な人を最後の将軍にしたものだと、歴史の皮肉を感じざるおえません。
著者は史料を渉猟し4日間の出来事を克明に描いており参考書目録には圧巻される。充実した1冊でありおススメである。続きを読む投稿日:2013.09.15
鳥羽伏見の戦いは幕末期における天下分け目の合戦だったのに、その戦況の推移を詳しく知っている人はそれほどいない。学校でもさらりと流して終わるし、鎖国により兵器の近代化に遅れた保守的な幕府が、いち早く開明…し軍備を近代化した薩長に負けたという図式でいつも語られる。本当にそうなのか?という疑問にこの本は答えてくれてる。
結論を先に言うとNOだ。
幕府もフランス式に軍備を近代化して、伝習隊という精鋭歩兵部隊を組織している。しかも伝習隊の装備していた銃は元込式のシャスポー銃で、先込式のミニエー銃しかなかった薩長よりはるかに威力があるものだった。ミニエー銃が1発撃つ間にシャスポー銃なら3発撃てる。しかも装填も寝そべったまま(頭をあげなくてもいい)できた。ミニエー銃は一度立ち上がらないと装填できないので、その間は無防備になる。
だから幕府が近代化に遅れ、薩長が進んでいたなんてことはない。
では、なぜ四日にわたる戦闘のすべてで幕府は負け続けたのか。
これは偏に将軍慶喜は暗君だったからである(著者はそこまで断定してないが、自分はそうとしか思えない)
まず都に入京するときに武装し大軍で行きながら、銃に装弾していないという失策。薩長が仕掛けてくるとは露ほども思っていない。示威行動で怖気づくとでも思っていたのか、情報収集がなってない。これでは出鼻をくじかれても仕方ない。
二日目には装備を整えた幕府軍だが、強風の風下に布陣したばかりに戦況を不利にする。(風下で発砲すると硝煙や発砲時の火花をもろに顔にうけてやけどするため、火力をいかしきれなかった) これは兵力への過信が招いた敗戦だが、逆にいうと幕府軍のほうが火力では勝っていたのだろう。
三日目以降の戦闘でも、戦況を分析し指揮する指揮官がいなかった幕府軍は正面攻撃に終始したため、薩長に側面攻撃されて押された。そういう意味では用兵の妙は薩長に分があり、先見性があったことは認めざるをえない。しかし、個々の戦場では会津兵の奮闘もあり、押している場所もあった。そして何度か敵の背面に抜け出して挟撃するチャンスがあった。しかし現場の指揮官が形勢逆転の勝機を見抜けず、会津兵の再三の追撃要請にも応じなかったため、ついに勝機をつかめなかった。
兵力は足りていたのに、用兵がまずくて負けたとしか言いようがない。
最悪なのは、大阪城に籠城してからの慶喜の行動だ。城を枕に徹底抗戦をするという決死の表明をしておきながら、舌の根の乾かぬ内に城から逃亡するという総大将にあるまじき行為。天下の堅城で籠城戦をしていれば、戦況はどっちに転ぶかまだまだわからなかったのに。というより、おそらく幕府軍に有利になったはずだ。しかし総大将が逃げてしまっては戦にならない。あろうことか慶喜は逃亡するときに妾を同船させている。保身しか考えていない
維新後、慶喜は自分は戦争したくなかったのに会桑らが勝手にはじめた、などと回想記に記している。大阪城を抜け出した件に関しては、もとから江戸に帰って恭順の意志を示すつもりだった、そのためには味方をも欺く必要があった、と恥じることなく言っている。妾には本当のことを言えるのに、命を懸けている兵には嘘をつくのか。
平気で嘘をつけて人に責任を押し付け、それによって人がどれだけ傷ついても良心の呵責を感じない。こいつはサイコパスの典型じゃないか。
戦後、桑名藩がまとめた史書は慶喜の行動を「天魔の所為」と断じている。
これ以上に慶喜を的確に表現した言葉はない。続きを読む投稿日:2015.11.08
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