災害ドクター、世界を行く! : 国境を越えた「緊急医療援助」17年間の奮闘記
金田正樹(著)
/東京新聞
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アフガン内戦、湾岸戦争、メキシコ・インド大地震-日本における「国際緊急援助隊」の第一号となった医師が、大災害に見舞われた世界各地の人びとと向かい合い、その救助活動に尽力した十七年間の汗と涙の体験記。
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商品情報
- 著者
- 金田正樹
- ジャンル
- 教養 - ノンフィクション・ドキュメンタリー
- 出版社
- 東京新聞
- 書籍発売日
- 2002.06.29
- Reader Store発売日
- 2015.05.16
- ファイルサイズ
- 25.4MB
- ページ数
- 238ページ
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この作品のレビュー
平均 5.0 (1件のレビュー)
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2〜3年で部署が変わる役人からは人道援助の専門家は生まれない。
発刊されてから10年以上立つのだがこの本に書かれてる状態からあまり変わっていないように思えるのが日本の災害医療だ。92年のPKO法の成立により自然災害には国際緊急援助隊が紛争地帯への難民救援は自衛隊が…派遣されることになったがこのため国際緊急援助隊による難民支援はできなくなってしまう。例えば94年のルワンダで200万人の難民が発生したが自衛隊の派遣はまとまらず現地入りした際には既に難民発生から6ヶ月が経っていた。「難民への医療ニーズが最も高い時期とは流入時であり、緊急援助としてはあまりにも時期を失していた。人道援助には何よりすばやい対応が望まれるが、派遣決定をする政府の方がたにはそれがわかっているのだろうか?」「自衛隊が現地に出発するときにテレビで映る家族との涙の別れのシーンは、われわれにとって奇異に感じる。ボランティアで行くわれわれは、行けるうれしさで涙などなく喜んでいく。任務とボランティアの違いが、涙に現れるのだろう。」2ヶ月遅れでもできることは有るだろうとPKO法の枠内で文民からなる人道医療援助組織HUREXという計画を作り上げたが、コソボ紛争では国家公務員の医師5名に続き、自衛隊の医務官5名を送り出しこれをHUREXとして位置づけるとされ計画は骨抜きにされてしまった。「2〜3年で部署が変わる役人からは人道援助の専門家は生まれない。」
大学時代山登りに熱中した金田氏はいつかヒマラヤに登りたいと夢を見ていたが、当時はまだネパールは鎖国状態であり、初めての海外登山がアフガニスタンのヒンズークシュ山脈だった。チベットのカシュガルとパキスタンのペシャワールを結ぶワハーン回廊もこの山脈の一部である。5人のメンバーが登山後バーミヤン遺跡を訪れた際には石仏の顔はまだ削られておらず、他に観光客もいない。1973年のロッククライミングクラブのエベレスト秋期南西嶺の医療計画作成に参加しており後に金田氏は凍傷治療の日本の第一人者になり、「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」では第4章で真夏でも起こる低体温症の解説を書いている。
エベレストから帰った金田氏が次の目標としたのが国際緊急救助隊への参加。第一期生として登録され、1985年のメキシコシティの大地震の救助隊として出発した。ただ当時は一度依頼された出動が、メキシコ政府より各国救助隊が既に入ってるとの理由で地震発生3日後に一旦キャンセルされたものの、さらに二日後には物資は欲しいということで緊急医療セット運搬のためだけに派遣されることになったのだった。被害は市街地に集中しており郊外では被害は小さく負傷者も少ない。そこでこのチームの目的は災害医療調査、医療物資の供与と邦人向けの予防接種と衛生教育となったのだが、このとき得られた貴重な災害現場の混乱の様子はおおきな収穫だったのだが95年の阪神・淡路大震災に生かされることなく繰り返されてしまう。金田氏が後に神戸で見た光景は、メキシコのそれと全く同じだったという。金田氏は一、災害医療体制を作ること 二、トリアージをすること 三、訓練をすることなどをまとめ学会発表や論文提出もしたが注目されなかったという。そして2011年にも経験は生かされなかったように見える。
金田氏が参加した様子からいろいろな問題点が浮かび上がっている。エベレスト以来となる90年のアフガン紛争(ペシャワール)で3ヶ月で700例の手術をこなし、湾岸戦争終結後のテヘランではクルド難民では下痢と脱水で次々に亡くなる赤ちゃんを助ける鍵がおむつと沐浴で体温を保つことだということを学ぶ。ノウハウを得ていく現場に対して、派遣を決める政府側の要点は対外的なパフォーマンスであったり、現地を訪問する国会議員も同じく支持者向けのパフォーマンスのことしか考えていなかったりで、一番大事な即応性のある意思決定機関はなく、ロジスティックの専門家は生まれない。各国は軍隊がロジを担い軍用機で物資を運び後方支援をし輸送、通信、情報収集、調整、交渉を行うのに対しクルドのケースではたった一人のJICA職員が全てこなそうとしている。医療方針のスタンダード化もなく患者からのデーター屋集計が不十分で生かされなかった、各チームをまとめる医療コーディネーターが必要である。医療機材や薬品の生理に思わぬ時間を費やした、これなんかはあらゆる現場での非常時対応の基本だと言える。一方で別の章では現地駐在の日本人や青年海外協力隊が通訳や現地でのコーディネートに非常に有効に機能している姿も見て取れる。
この本を読んでいると国際緊急援助隊のノウハウは本来国内に蓄積され、日本ではできない実地の訓練と経験をつむことが結局は日本での災害発生時に生かされるはずなのだが、いくら現場ががんばっても指揮系統が機能しなければ役に立たない。続きを読む投稿日:2015.09.19
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