この作品のレビュー
平均 4.0 (5件のレビュー)
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自分と他者との関係を、感覚的に詩的に捉えた表現が卓越している。それでいて哲学的といってよいほど深く突きつめられてもいる。
例えば、『石を愛でる人』の一節。手のひらの中で石ころをころがす場面。 …
「石とわたしは、どこまでも混ざりあわない。あくまでも石は石。わたしはわたしである。石の中へわたしは入れず、石もわたしに、侵入してこない。その無機質で冷たい関係が、かえってわたしに、不思議な安らぎをあたえてくれる」
ここに収められた15本の短編小説は、15通りの「人との関わり」を描いている。
主人公は全て「こいけさん」だが、不躾に入り込もうとして「こいけさん」に拒絶される迷惑な隣人。知らぬ間に入り込んできて「こいけさん」を発情させてしまうが、期待に反して通り過ぎてしまう男。絶対にこちらから入いりこめないにもかかわらず、新たな何ものかを触発させる子ども達。思い出として「中に」刻み込まれているのに、形としては消え去ってしまったものへの郷愁。
入ってこようとして拒絶されたり、入ってきて欲しいのにすり抜けられる。あるいは、既に中にあるのに失われてしまったり、産み落としたつもりはないがなぜか通じたり。すべては、自己と他者との関係について突きつめた思いの詩的な表現である。また、常に「こいけさん」は受身である側からさらりと表現している。
この連休中に読もうと小説ばかり四冊購入した。その中で読みやすいという点ではこの本が群を抜いていた。他は川端康成の名作、藤沢周平の短編集、小川洋子のベストセラーである。同時に何冊か読み進み、読みやすくて面白くて「読めてしまう」ものから読んでいくのが私流だ。2位以下を大きく引き離してゴールしたのが小池昌代のこの本だった。
いつも「なぜだかわからないが」読みやすい。といい続けてきたが、秋以降矢継ぎ早に読んだ小池さんの小説本も3冊目である。いいかげん「わからない」ままではと思い、今回大真面目に分析してみた。その結果だから理屈っぽくて難しい話になってしまった。
まあ、わかりやすくいっちゃえば、女のエロスでしょう。だからといって今回の15編には肉体的に「入って」こられた話はない。そういう意味で官能ではありえなくて、あくまで「感光」であって、「入って」きたのは外界から射し込んできた光である。
『感光生活』とは、光になる経験です。光となって事物を照らす、その目がつくる経験の世界です。と著者自ら説明してくれています。
ですが私は、全く逆じゃないかと感じます。あたかもピンホールカメラの針穴から射す光に、フィルムが「感光」して画像を刻むかのように、その時々様々な他者との関係という光に「コイケさん」が感応して、その時々の色に自由自在に染まって像を定着させている。その自在さ軽やかさこそが著者ご自身もお気づきじゃない「読ませる」魅力なのではないかと思う。
何事も言い切らぬ軽やかさ、なんの解釈も強要してこない気安さ。何の引っ掛かりも感じず読み始め、読み終わってもなにか物足りないにもかかわらず、常に爽やかな読後感。すべては小池さん自体が「感光材」だからでしょ。
ただし、15編のうち唯一『蜂蜜びんの重み』だけは例外とみた。
この1編だけは軽やかな感光材としてではなく、追いつめられながらも作家として生きていく「決意」が、『重み』として込められた物語だと私は見抜いた(あくまでつもり)。
当たってるかどうか、小池さんに聞いてみたいものだ。続きを読む投稿日:2011.02.27
感想
他者との境界。超えたと思っても実際には何も変わっていない。何を考えているかわからない。それなら外面に表れた行動を基に判断するしかない。投稿日:2023.01.26
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