誰から取り、誰に与えるか
井堀利宏(著)
/東洋経済新報社
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近年、格差論は経済論壇の1つのテーマとして定着している感がある。本書は、格差とは何か、格差を是正するための再分配政策はなぜ必要なのか、といった基本的な問題から説き起こして、海外の再分配政策も概観し、日本の再分配政策の現状と課題を論じる。現実の再分配政策の問題は、「真に与えられるべき弱者に与えられていない」ということにある。その解決のために必要な改革案も提示する。
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この作品のレビュー
平均 2.8 (4件のレビュー)
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再配分政策のメリット、デメリットを整理し、公平性、効率性の両面から今後の再分配政策の在り方を論じた本書。極端過ぎるかなと思う部分もありますが概ね同意。総論賛成、各論微妙です。世代間の再配分で裕福な高齢…者への再配分を疑問視している点、民間との役割分担の再検討の必要性を訴えている点には納得。高齢者を十把一絡げに捉えるべきではない。続きを読む
投稿日:2011.01.09
本書の主題である『再分配』とは、いわゆる格差社会を是正する行政の持つ本質的機能であり、貧富の差を緩和、階層の固定化と社会の硬直化を阻止し、社会的公平性と経済活力をもたらすための政策を指す。世代間再分配…(高齢者と若年者の格差是正)、地域間再分配(都市と地方の格差・他の先進国と日本と発展途上国の格差是正)、個人間再分配(貧富の格差・男性と女性の格差・正規雇用者と非正規雇用者の格差是正)などに分類される。
政府が所得や資産を再分配するとき、受給者と負担者が生じる。負担と受益のリンクが乏しい場合、例えば、農業政策を行うことによって、農家の利益よりもはるかに大きな損失を一般消費者が被るというようなケースでは、再分配政策はマクロ的に非効率となる。全員が一致できる公平性の基準などないことは自明であり、負担者と受益者とを分断する線をどこに線を引くか高度な政治的判断が求められる。
財源は広く薄く確保されることが望ましいのに対して、給付は選択と集中が望ましいとされる。自前(住民の税負担で住民の行政サービスを調達する)で効率的な行政サービスを供給するには、基礎自治体の人口規模でほぼ30万人が目安となるといわれている。国家・自治体レベルで財政状況の厳しいわが国では、既存の補助金の削減なしに、新しい補助金を生み出すことは困難であり、すでにおおかたの国民は消費税率の引き上げが長期的にはやむを得ないことと理解しているが、その財源が特殊法人などに流れ有益な再分配政策に使われないことへの危惧からくる抵抗感は根強い。給付面では、再分配3原則(①対象を特定する、②期間を特定する、③経済的制約を考慮する)が重要とされる。例えば、期間が特定されることによって、近い将来に受給が打ち切られるかもしれないと受給者が心配すればそれが受給者の自助努力を引き出す効果に結び付く。給付の効果を押しのけるような作用(クラウディングアウト:たとえばより少ない労働時間、より少ない教育投資、より多くの自分の子孫への遺産など)を考慮したシミュレーションが必要である。
「再分配」の概念は、会社や家計のバランスシートと同じであって私達の日常生活にとても身近なものであるとともに、常に意識下に置いておくと有益であろうことが直感される。本書を読んでいて、所得(ある期間に稼ぐおカネの大きさ)と資産(ある時点で持っているおカネの残高)の関係は、薬剤反復投与時の血漿中薬物濃度推移(トラフとCmaxの関係)に似ていると感じた。実際に経済状態の豊かさや貧しさは、所得の面から判断するより消費行動など支出の面で判断するのが適当であるという点も、クリアランスが重要とされる薬物動態の本質と類似している。
「人は長期的に理性重視であっても、短期的には感情重視で行動しがちである。長期的視点で考えると、短期の視点とは逆の結論になりやすい」
筆者の井堀教授は、具体的には誰から取り誰に与えよと提言しているのだろうか?本書第三章「再配分のすすめ」に示されている『公的年金の個人勘定賦課方式』を紹介したい。要約すると次のような年金制度だ。
勤労世代の保険料がすべて同時点の老年世代への一般的な給付に回る制度を改め、保険料を収める人ごとに、その報酬比例部分(いわゆる2階部分)については自分自身の親だけに限定した給付とする。
自分の親や配偶者の親が生存する限り、子が収めた保険料の報酬比例部分は自分の親へと均等に配分される。親が死亡すれば子は2階部分の保険料支払いを免除され、また、子のいない親はこの勘定からの給付はなく基礎年金のみの給付となる。自分の親に給付される財源に回ることで、勤労世代の子の自主的な納付意識が向上することが期待される上、親は自分に子供がいてその数が多ければ、将来の自身への給付額が増加することから、多く子どもを産み育て、熱心に教育する誘因となる(子の賃金が増加すれば親の給付額も増加する)ことから、中長期的には小子化対策や教育水準の向上にも有効な制度と考えられる。
子どもがリストラされてこの勘定の給付がゼロとなるようなリスクヘッジをどうするかなどの課題も残るが、勤労世代の保険料を同時点の老年世代の給付に充てるという現行の賦課方式を基本的に維持しつつ、受益と負担の関係が明白することで無駄を削減し社会的公平性を醸成し、かつ、少子化対策にもなるという名案といえよう。続きを読む投稿日:2018.12.22
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