官邸から見た原発事故の真実~これから始まる真の危機~
田坂広志(著)
/光文社新書
作品情報
福島原発事故は、本当はどこまで深刻な事態に陥っていたのか? 「冷温停止」の年内達成で、一段落なのか? 「汚染水処理」の順調な進捗で、問題解決なのか? 「原子力の安全性」とは、技術の問題なのか? SPEEDIの活用、環境モニタリングの実施は、なぜ遅れたのか? ――原子力の専門家であり、内閣官房参与として原発事故対策に取り組んだ著者が語る、緊急事態で直面した現実と極限状況での判断。【光文社新書】
もっとみる
商品情報
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 3.9 (28件のレビュー)
-
(2012.03.29読了)(2012.03.22借入)
【東日本大震災関連・その67】
著者の名前を見て、似た名前で経営関係の本を書いている人がいて、昔何冊か読んだことがあるけど、まさか同じ人じゃな…いよな、と思ったのですが。同じ人でした。
経歴を見ると、工学部原子力工学科を卒業して、医学部放射線健康管理学教室研究生を経て、核燃料サイクルの環境安全研究で、工学博士になっています。
その後、青森県六ケ所村核燃料サイクル施設安全審査プロジェクトに参画もしています。
原子力委員会専門部会委員も務めていたということですので、2011年3月11日の東日本大震災に伴う、福島第一原発事故に対応するための内閣官房参与として、2011年3月29日~9月2日の間、関わったということです。
内閣官房参与をやめた後、福島第一原発を含めて、原子力発電所について、今後どのようなことが問題になり、どのようなことを解決していかないといけないのかについて、インタビューに答えたものをまとめたものです。
原子力発電を続けるにしても、止めるにしても、核廃棄物の処理をどうするのかということが残ってくるし、核廃棄物が無害になるまでの時間が10万年とかいうことですので、未来の人類に対する負債となるということです。
まじめに取り組めば、もっと短い期間で解決しそうな、国の財政赤字でさえ、容易に解決策が見いだせない中で、たいへんな問題です。
【目次】
はじめに
第一部 官邸から見た原発事故の真実
第二部 政府が答えるべき「国民の七つの疑問」
第一の疑問 原子力発電所の安全性への疑問
第二の疑問 使用済み燃料の長期保管への疑問
第三の疑問 放射性廃棄物の最終処分への疑問
第四の疑問 核燃料サイクルの実現性への疑問
第五の疑問 環境中放射能の長期的影響への疑問
第六の疑問 社会心理的な影響への疑問
第七の疑問 原子力発電のコストへの疑問
第三部 新たなエネルギー社会と参加型民主主義
謝辞
著者略歴・著書紹介
●避難勧告(27頁)
首都圏に福島原発からの放射能プルーム(雲)が飛来したと言われる3月15日。
あちこちに、何組もの外国人の家族連れが新幹線で西に向かうため、列車を待っていました。
●アメリカが首都圏避難を勧告しなかった理由(30頁)
「首都圏九万人のアメリカ人に避難勧告を出すと、日本人を含めた首都圏全体がパニックになる」
●国民からの信頼の喪失(40頁)
政府に進言する原子力の専門家が「水素爆発は起こらない」との予測をした直後に、その水素爆発が起こったこと、「メルトダウンは、まだ起こっていない」との推測をしたにもかかわらず、一号機では、かなり早期に全面的なメルトダウンが起こっていたことなど、政府の専門家の予測がしばしば裏目に出ている
放射能の拡散を予測するシミュレーション・システム「SPEEDI」の予測結果が迅速に活用されなかったこと、事故直後に適切な環境モニタリングデータが収集・活用されなかったこと
●トイレ無きマンション(54頁)
以下に「安全な原発」が開発されても、必ず、放射性廃棄物は発生します。従って、放射性廃棄物の「安全な最終処分方法」が確立されなければ、その原発もまた、「トイレ無きマンション」の状態になり、操業を続けることができなくなってしまう
●十万年以上(56頁)
高レベル放射性廃棄物は、その中に、プルトニウムやネプツニウム、アメリシウムなどの、極めて長寿命の放射性物質が含まれているため、それらお放射性物質が時間とともに減衰して十分な低レベルになるまでに「十万年以上」かかるのです。
●信頼回復のために政府がすべきこと(65頁)
「原子力行政の徹底的な改革」を行うことと、「原子力事故対策と原子力政策の長期的な展望」を国民に対して示すことです。
●原子力事故の要因(72頁)
これまで世界で起こった原子力事故の大半が、「技術的要因」ではなく、「人的、組織的、制度的、文化的要因」によって起こっているのです。
●SPEEDIの活用(83頁)
SPEEDIでの放射能拡散予測そのものは、原子力安全センターが、事故直後、すぐに行っていました。しかし、事故を起こした原発四基から放出された放射能について正確なデータが無かったため、仮定の数値を入れて予測計算をせざるをえませんでした。
●公表の判断(84頁)
放射能放出量や住民被曝線量が不正確な値しか予測できなくとも、風向、風速のデータは分かっていたのではないか。その風向、風速データを使えば、どの方向にどの程度の速度で放射能プルーム(雲)が流れ、どの地域が危険な地域になるかは分かっていたのではないか。そして、それを迅速に公表すれば、北西方向にある村などの住民の無用の被曝は避けられたのではないか。なぜ、行政全体として、その判断ができなかったのか
●環境モニタリング(86頁)
国民の立場からすれば、環境中に放出された放射能、飲料水や食品に含まれている放射能など、すべての放射能情報を収集、分析、評価することを政府に期待している
農地、林野、牧草については農水省、食品や水道については厚労省、環境については文科省と環境省という形で、環境放射能をモニタリングする責任主体が別々になっており、それを統括する主体組織が無かった
●金融工学(117頁)
サブプライムローンという金融商品の背景には「金融工学」と呼ばれる確率論を用いた「リスク最小化の手法」があるのですが「最先端の金融工学を用いてリスクを最小化した商品」という売り文句の商品が、世界全体に最大のリスクを発生させたわけです。
リスクを発生させた原因の一つが「ローンが返済不能になる確率」を過小評価したことです。これなどは「恣意的評価」の典型的なものでしょう。
●「廃炉」へ(158頁)
メルトダウンの事故を起こした原発の場合は、この極めて高放射能のロウソク(核燃料)が、完全に溶けて床と一緒になってしまっているのです。すなわち、核燃料が圧力容器の底部と融合してしまっている状況なのです。
●放射性廃棄物の地層処分計画(170頁)
国際的な枠組みで高レベル放射性廃棄物の地層処分を実現する
モンゴル政府とアメリカ政府との間で検討されてきた「包括的核燃料供給サービス」と呼ばれる、モンゴルでの高レベル放射性廃棄物の地層処分計画です。
●政府の責任(176頁)
原発事故において、政府の責任は、第一に、周辺住民の緊急時被曝を最小にすることであり、第二に、放射能汚染した環境による住民の長期的被曝と健康被害を最小にすることなのです。
☆関連図書(既読)
「私たちにとって原子力は・・・」むつ市奥内小学校二股分校、朔人社、1975.08.03
「原子力戦争」田原総一朗著、筑摩書房、1976.07.25
「日本の原発地帯」鎌田慧著、潮出版社、1982.04.01
「六ケ所村の記録 上」鎌田慧著、岩波書店、1991.03.28
「六ケ所村の記録 下」鎌田慧著、岩波書店、1991.04.26
「食卓にあがった死の灰」高木仁三郎・渡辺美紀子著、講談社現代新書、1990.02.20
「原子力神話からの解放」高木仁三郎著、光文社、2000.08.30
「原発事故はなぜくりかえすのか」高木仁三郎著、岩波新書、2000.12.20
「私のエネルギー論」池内了著、文春新書、2000.11.20
「ぼくとチェルノブイリのこどもたちの5年間」菅谷昭著、ポプラ社、2001.05.
「原発列島を行く」鎌田慧著、集英社新書、2001.11.21
「朽ちていった命」岩本裕著、新潮文庫、2006.10.01
「原発と日本の未来」吉岡斉著、岩波ブックレット、2011.02.08
「緊急解説!福島第一原発事故と放射線」水野倫之・山崎淑行・藤原淳登著、NHK出版新書、2011.06.10
「津波と原発」佐野眞一著、講談社、2011.06.18
「ルポ下北核半島-原発と基地と人々-」鎌田慧・斉藤光政著、岩波書店、2011.08.30
「亡国の宰相-官邸機能停止の180日-」読売新聞政治部、新潮社、2011.09.15
「災害論-安全性工学への疑問-」加藤尚武著、世界思想社、2011.11.10
「見捨てられた命を救え!」星広志著、社会批評社、2012.02.05
☆田坂広志の本(既読)
「イントラネット経営」田坂広志著、経営生産性出版、1996.06.20
「日本型エレクトロニックコマース」田坂広志著、経営生産性出版、1996.11.26
「複雑系の経営」田坂広志著、東洋経済新報社、1997.02.17
「創発型ミドルの時代」田坂広志著、日本経済新聞社、1997.07.14
「なぜ日本企業では情報共有が進まないのか」田坂広志著、東洋経済新報社、1999.02.10
「これから日本市場で何が起こるのか」田坂広志著、東洋経済新報社、1999.12.23
「日本型IT革命新たな戦略」田坂広志・石黒憲彦著、PHP研究所、2000.09.28
(2012年4月3日・記)続きを読む投稿日:2012.04.03
専門家でまさに当事者の話
原発は国民の信頼なくしては成り立たない
もう解決に向かっていると考えるのは甘いと投稿日:2019.10.25
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。