翔太と猫のインサイトの夏休み 哲学的諸問題へのいざない
永井均(著)
/ちくま学芸文庫
この作品のレビュー
平均 4.2 (52件のレビュー)
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真夏の自由研究シリーズのつもりでほんの出来心で読み始めたところ、とんでもない思考と思索のなかへ飛び込んでしまっていました。
読んでは考え、読んでは戻り、しばしば居眠りこきつつもどうにかこうにか読了。気…付けば10月に。これが’永井哲学’か…。
「予備知識のいらない、『子ども』のための哲学入門。」という紹介と本秀康氏のほのぼののんびりした装画が醸すシニカル。これらを額面通りに受け取るのは早計、いや、確かにこれは哲学に関しては何にも知らない、ナチュラルな「子ども」の状態のうちに読んでおきたい一冊でありました。〈はじめに〉に曰く「この本の語っていることが、たとえ専門家には理解されなくても、中学生・高校生には理解される可能性を、私は信じています。」(p9)とある通り、妙に中途半端な知識を持たずに触れるべきであろう。
以下、私なりに得た事を書き出す。
・「ぼくらが知ることができないような事実によって正しい主張であることはできないんだよ。」(p36)…感情論や感覚論でほんとうは/実は〇〇に違いない!と正しく主張することは出来ない。「その『正しさ』がどういう観点からのものか」(p37)を認められるか否かが重要。
懐疑論的アプローチ。デカルトのはなし。
・自分という、《ぼく》が存在することの「奇跡性」(p126)、超越論的観念論、カントのはなし。超越論的とは「ぼくらが経験できる世界を超えて、あたかもその外に立ったかのような立場から、ぼくらが経験できる世界の成り立ちとしくみを調べる、そういう哲学者の立場」(p136)のこと。
・「自分の気に入った考えしか自分のものとして持てない人は、思想は持つことはできても、哲学をすることはできないんだよ。」(p155)「ぼくらの側に絶対的な正しさがあるという事実と、それはぼくらの側がたまたま多数派だったからだという事実とは、いわば次元が違うんだよ。」(p156)…「哲学が人々に受け入れられるっていうのはね、みんながその主張に賛成するようになることじゃないんだよ。むしろね、その主張に反対する人でさえも、その哲学が設定した空間の中でしか反対できないようになるってことなんだ。」(p207)「前提されることになる空間こそが哲学なんだ。」(p208)’正しい’ということの不確実さと心もとなさ。ちょっとまだ腑に落ちていない章。
・人生の意味とは。「死ぬのが嫌なのは、死んでるって状態じゃなくて、もう生きられないってことが嫌なんだよ。」(p244)「存在と無は、生と死は、究極的にはね、話じゃないんだよ。それは、現実なんだよ。ただ、受け入れるべき現実なんだよ。」(p249)「人生の全体を、つまりそれが存在したってことを、まるごと外から意味づけるものなんて、ありえないさ。そんなものがありえないってことこそが、それをほんものの奇跡にしているんだ」(p251)。ハイデガーのはなし。存在論的差異。
目が覚めるような読書ではあったが、まだまだ自分の言葉に落とし込めるまでには至らず。その意味でまだ星は付けられないと判断した。クタクタになるまで探究を続け、考えなければ。
13刷
2023.10.14続きを読む投稿日:2023.10.14
たまに読み返すが、一回目に読んだときより数倍面白い読書体験ができる。スルメ本や。
著者の言っている「哲学」が本当の哲学ならば、勘違いしている人が多い気がする。
私は哲学も好きだが、それ以上に思想が好…きだったのかな
著者の言う「哲学」というのは、問いに対して正しく考えていく作業のことだと解釈した。
実在論 懐疑論 可能世界 余人
p37二重スリット問題
「彼女がほんとうは怒りっぽいとか、この部屋は見られてないときには存在しないとか、ぼくたちが培養脳の中の脳だとか、そういうことが主張できるためには、ぼくたちが実際に手に入れられるような根拠がなくちゃいけないってことなんだね!」悪魔の証明、無知に訴える論証
p41「ふつうのひとは誰でも実在論的真理観を持っているね。つまり、人はこっち側に主観的な『考え』があって向こう側に客観的な『事実』がある。その二つが一致すれば、その考えは真理だった、ていうわけだ。」
p88「……最後に生じる味ってものが生じなくても、物理化学的には何の問題もないところだな。味蕾から脳までインパルスが伝達されて、脳に何か物理的な変化が起こるってことは、『味がする』ってこととは別のことだね?」
物理化学的な反応の後に精神主観的な「味」というものがなぜでてくるのかの理由は説明できない。
超越論的観念論……カントが考えたもの。心の外から出て、因果性が心の外の外界で客観的に成り立っていることを証明しようとした。そこでカテゴリーという概念を導入した。
さまざまな感覚的経験にカテゴリーが適用されることによって、はじめて、それが客観的な現実として認められることになる。統覚というはたらきを利用してカテゴリーに従って自分が知覚したり経験したりするさまざまなことを秩序付ける。
五覚では視覚が優先される「幻触」はあまり聞かない。
「ぼく」という存在を起点として「ぼく」の存在証明ができる。「ぼく」という存在に因果は通用しない。
仮に私と全く同じ遺伝子を持ち、全く同じ環境で育った人がいたとして、それは私になり得るか?否。私はここにいる私のみ。こういうことかな。自我で操れないものは自分ではない。
「ぼくらはぼくらの言語とぼくらの理解力の外に出ることはできないんだ。可能性というのはその中でしか考えられない」
p78「色盲っていうのはね、ある色が別の色に見えることじゃないんだよ。ふつうの人が識別できる複数の色が識別できないことなんだよ。」
「意味をちゃんと習得したと認められた後になってはじめて、事実に関して常軌を逸した主張をすることが可能になるんだよ。」
p94「人間の表情や動作や発言は、痛みの本質そのものと直接につながっているんだ。意味そのものを定めているんだから、必然的な関係って言ったっていい。それに対して、中枢神経や脳の状態は、そもそも痛みとは何であるかってことを決めているんじゃなくて、痛みの概念が確定した後で、それがどういう状況と関連しているかってことを言っているにすぎないんだよ」
微笑みうつ病はどうなるのか?
「嘘とはなんであるか、という嘘の意味を考えるときに、嘘発見器を使おうとするようなもの」
夢の本質は眠っている時に見る、ということにある。
恋はその人の持つ性質に向けられたものだが、愛はその人そのものに向けられるもの。p105
存在を定義づけているもの、存在の本質は何であるか?
時空的に連続していること。時空的に連続して生きた人間でありさえすれば、ほかの何が変わってもその人はその人。(自己に限る?)
補足 時空間をテレポートしたとしても、そういうことが現実に起こっていない、ということがぼくらの同一性の概念に影響を与えており、テレポートが起こったように見えても信用しないという前提で人の同一性は考えられている。
勝ったという事実すら消える。現実においては当然のものとなった。人権概念は勝利した。それが「勝てば官軍」の本当の意味
「自分の側からは決して到達できない、相手の固有の価値みたいなものがあることを、どうしても信じたい」……相対主義p183
正義原理は過去思考的、功利原理は未来志向的p146
オウムやナチスに、倫理的な間違いを証明することはできるか?私達が今いる世界が倫理的に正しいと言えるか?
利便性のために交通事故での死や森林破壊や大気汚染を肯定する私達の世界は正しいと言えるか?
分からない。なぜなら人間の倫理性がたまたまその程度にできているというコト以外考えられないから。
「特に倫理的な問題はね、現に生きている大人の多くが、なぜかそれに納得を感じるっていうことによってしか、究極的には根拠づけることができないんだ」p156
「事実判断から価値判断が導き出せないって主張なんだけど……(略)」p164「ほんとうはよくないんじゃないかって、問題にしていけるってことが、事実から価値が導き出せないってことのポイントなんだよ」p165「価値から価値が導き出せないってことが、問題のすべてなんだよ。」
虚偽意識p163
自覚障害と実践障害p187 「意味が分かる」とは 言葉は理解するものではない。使うもの。実際に使えているかどうかでしか「意味が分かっているか」は分からない。
p199三段論法
意思と欲望は同じ
死は体験ではない。受け容れるべき現実。
理性と理由と根拠はもともとみんな同じ言葉p158
ウィトゲンシュタインのパラドクス
ニヒリズム……全てに意味がない = 全てに意味がある
「道徳の存在を前提としたうえで自分を特別扱いする仕方を考え出す」
利他的な行為は無い。すべての行動は利己的に為されている。
続きを読む投稿日:2023.10.11
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