とにかく社長が出てきてくれないことにはなあ……おれたち社員はどうなるんだ?北野勇作(『かめくん』で第22回日本SF大賞受賞)のペーソスあふれるショートショート。SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「社員たち」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。【作品冒頭】 敵の攻撃によって地中深く沈んでしまった会社を残された同僚たちといっしょに掘りはじめてもう半年近くになるのだが、あてにしていた失業保険がなかなか出・・・
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わずか2年の作家期間にもかかわらず、日本SFに巨大な足跡を遺した伊藤計劃(没後、『ハーモニー』で第30回日本SF大賞受賞)、圧巻の絶筆。書き下ろし長編作品の冒頭に相当する。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「屍者の帝国」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
まず、わたしの仕事から説明せねばなるまい。
必要なのは、何をおいてもまず、屍体だ。
薄暗い講堂に入ると、微かに異臭が感ぜられた。思わずウェストコートのポケットからハンカチーフを取り出し鼻を覆う。見当はすぐにつく。これは校舎の臭いではない。ほぼ確実に骸の臭い、屍体の臭いだ。八角形の講堂の中心に置かれているのは解剖台で、その傍らには教授と瓦斯灯、何やら台に乗せた複雑怪奇な機械が付き添っている。わたしは友人のウェイクフィールドと共に講堂へと入ると、教授と解剖台との周囲を八角形に取り巻く席のひとつにつき、続く聴講生全員が講堂に入ってくるのを待った。
「あれがそうかな」
解剖台の上に横たわるものを指さしながら、ウェイクフィールドが耳許でささやく。 -
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飛浩隆(『象られた力』で第26回日本SF大賞受賞)が贈る、現代SFの最先端。本作で第41回星雲賞日本短編部門を受賞。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「自生の夢」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
1 〈わたし〉は映画を観ている。
さむざむしい異国の田舎道。
未舗装の道を一台のトラックが通って、スペイン、カスティリア地方の山村へ入っていく。一九四〇年代。画面右に掲げられた標識はHOYUELOS と読め、これがその村の名前であるらしい。村の子供が駆けつけ大騒ぎをはじめる。帽子をかむった男たちが荷台の扉を開けると、子供たちは「映画の缶詰めだ!」と歓声を上げる。フィルム缶。男たちは巡回上映を商売にしているのだ。
「どんな映画?」「カウボーイ?」
男たちが答える。
「凄い映画だ」
「今までで一番凄い映画だ」
子供たちの目がひるみ、そして輝く。 -
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円城塔(『烏有此譚』で第32回野間文芸新人賞受賞)流のスペースオペラか? 壮大にしてリリカルな宇宙(?)SF短編。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「Beaver Weaver」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
千年後に目覚めたという夢から覚めて百年後にいる。
こんなことは海狸(ビーバー)の仕業に決まっているので慌てない。
百年前と何も変わらぬ様子の部屋を横切り、冷蔵庫の扉を開けて、内部が円筒形の物体に満たされているのを観察する。ビールの缶と、ビタミンらしきアルファベットの記された缶。ビタミン from A to Z。ビタミンA0からビタミンZωまで。ビールの缶はのっぺら坊に銀色に光り、ビタミンの缶はそれぞれ伊派手に塗られている。多分間違えて呑まないように。
ビールの缶がただの銀色の円柱ならば、何故それがビールだなんてわかるのか。ビールだからに決まっている。伊派手っていうのは何処の言葉か。ここの言葉だ。 -
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テキストによる現実改変が炸裂し、スプラッタテイスト満点の戦闘が展開される本格SF短編。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「黎明コンビニ血祭り実話SP」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
夜明けが近い。
カワタは子供の死を看取るかのような表情で、棚に商品を並べていた。憂鬱だった。深夜のコンビニバイト歴が長い彼は、経験としてこの時間帯に来る客がろくでもない人間ばかりであることを知っていた。
店内にいる客をそれとなく観察する。本来この時間帯は客などほとんどいないのだ。客がいなければ、店長もいないこの時間、休憩し放題だ。普通夜勤には防犯の意味もあって、二人で勤務させる店が多い。だがこの店のオーナーは、どうせ暇なのだからと夜勤は一人に定めていた。カワタが夜勤のバイトを続けているのは、一人で気楽に仕事が出来る、いや、休憩が出来るからだ。だが客が一人でもいれば休憩など出来ない。だからこの時間に来て長居する客を、カワタは本気で呪う。この時間に長時間立ち読みなどをされると、発作的に後ろから絞め殺してしまいそうになる。 -
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日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞の斉藤直子が贈る、奇想天外なバカSF。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「ゴルコンダ」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
先輩が家を建てたというので僕はヤカンを持ってお祝いに行くことにした。なぜヤカンかというと、「家を焼かん」のごろあわせで普請の縁起物やと奈良のおばあちゃんに聞いたから。「焼かない」の意味の「焼かん」より、「焼けない」意味の「焼けん」のほうが防火力が高そうな気がするが、「焼けん」のごろあわせは「野犬」しか思いつかないのが難だ。がるるる言ってる野犬なんて、贈るほうも貰うほうも扱いにくいに違いない。
そんなことを考えているうち先輩の新居に着いたが、これが野犬を連れてきても問題ないような大豪邸で驚いた。風呂あがりには机に置いたメガネまで曇る僕の狭小ワンルームとは大違い。インターホンを押すと、「ハーイ」とかわいい声がした。奥さんの梓さんだ。先輩の前のマンションで何度か会ったが、めちゃめちゃ美人さんである。 -
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恐るべき実力の短編作家・田中哲弥が匂い立つ描写でお届けする不条理ホラー/コメディ。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「隣人」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
豚三頭に驚いてから一週間もしないうちに牛が三頭搬入された。これで笠玉利家では犬、猫、鶏、軍鶏、家鴨、山羊、豚、牛が飼われていることになる。
「ものすごいうんこだったでしょ」あれはあたしではどうしようもないのよごめんねでもわかるでしょと、妻の早苗が困ったような怒ったような、それでいてどこか楽しんでいるかのような勢いで勝手口まで駆けてきた。
「ビール冷えてる?」裏庭の水道で手は洗ったものの、まだ臭う気がして自分の手の甲を嗅ぎながら嘉納純平は早苗に言った。「とりあえず、風呂入る」 -
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脱力しつつ読みすすめると、巨大な感動が押し寄せる、奇跡の名編。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「ガラスの地球を救え!」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
時は今、西暦二一九九年九月九日。
宇宙空間に浮かぶ二枚の巨大な黒い板のあいだを南海電鉄の五百人乗りジャンボ宇宙客船ダンジリ二七一号が通過するとき、船内のスピーカーから「ツァラトゥストラはかく語りき」の荘厳なメロディーが流れた。
「本船は現在、〈SCI-FIランド〉のモノリスゲートをくぐったところです。まもなく本船右手前方に、『スター・トレック』の原寸大エンタープライズ号が皆さまをお出迎えいたします。スコープをお使いいただければ、艦橋の窓からカーク船長やミスター・スポックが手を振っているのがご覧いただけるかと思います」 -
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と学会会長としても有名な本格SF作家・山本弘が贈る、月面を舞台にした本格ミステリ。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「七歩跳んだ男」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
その男は死んでいた。
そりゃあもう完璧なまでに死んでいた。
俺は倒れている男に五メートルまで近づいたが、現場を乱すことを恐れ、慎重に立ち止まった。男は手足を大きく広げて地面に突っ伏しており、ここからでは顔は見えない。見たところ大きな外傷はないようだ。それでも俺は、医師の診断を待つまでもなく、男はすでに死亡していると自信を持って断言できた。
なぜなら、男は宇宙服を着ていなかったからだ。 -
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宇宙の彼方をめざして孤独に飛びつづける無人探査機が活躍する、ハートウォーミングな名短編。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「エンゼルフレンチ」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
授業のあと、いつものようにダイチといっしょに自転車を押して、大学のそばのミスタードーナツまで歩いて行きました。
ダイチは定番のオールドファッション、わたしはチョコレートのかかったエンゼルフレンチ。あとはカフェオレを二つ。トレイに乗ったドーナツと飲み物を、ダイチが窓際のテーブルまで運んでくれます。たいていカフェオレのおかわりをして、本や映画の話題で盛り上がって──それは、ごく当たり前のように思っていた時間──
いつもなら、席につくとすぐにドーナツに手を伸ばすダイチなのに、あの日はわたしの顔をじっと見つめたまま、うれしそうにこう言ったのです。
「すばる。おれ、選ばれたんだ」 -
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小林泰三が贈る、記憶を軸にしたユニークな侵略SF。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「忘却の侵略」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
人類に対する侵略者の攻撃はすでに始まっているんじゃないかな、って僕は思ったんだ。
「なぜって、ネットのニュースを調べてみてわかったんだよ」僕は自分の考えを纏める時にいつもしているように架空の助手に向かって話した。「先月の頭ぐらいから、突然通り魔や事故のニュースが増え始めたんだ」
「それがどうしたと言うんです? 事故や通り魔などいつだってあったでしょう?」 -
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とにかく社長が出てきてくれないことにはなあ……おれたち社員はどうなるんだ?
北野勇作(『かめくん』で第22回日本SF大賞受賞)のペーソスあふれるショートショート。
SF界屈指の翻訳者/書評家・大森望の責任編集でお届けするオリジナル日本SFアンソロジー『NOVA1』(全11編)の分冊版。「社員たち」(解説:大森望)に併せて、「序」(大森望)収録。
【作品冒頭】
敵の攻撃によって地中深く沈んでしまった会社を残された同僚たちといっしょに掘りはじめてもう半年近くになるのだが、あてにしていた失業保険がなかなか出ないこともあって、いよいよ貯金が心細くなってきた。そのせいなのかどうなのか帰宅すると、ねえ今日はどうだったの、どんな感じなのよ、などと妻がしつこく尋ねてくる。 -
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