【感想】徳川家康 弱者の戦略

磯田道史 / 文春新書
(21件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
5
8
7
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0
  • 巧みな人心掌握術と悪運の強さ

     2023年のNHK大河ドラマは、松本潤が演じる『どうする家康』で、弱虫だった家康が少しずつ成長して、天下人になるまでを描いてゆくようである。本書ではその弱虫だった家康を歴史学的に検証しながら、逆境に学び続けた天下人の実態に迫ってゆくのである。
     家康は強力な超人パワーと実行力に満ち溢れていた信長や、権謀術数と巧みな人心掌握術に優れ、さらに膨大な兵力と資力を誇る秀吉のようなカリスマではない。だが己が経験したことや見聞きしたことをひとつひとつ地道に積み上げ、信長や秀吉が成し遂げられなかった15代にも及ぶ長期政権の礎を築いた努力と辛抱の人だったようだ。また優れた家臣に恵まれていた……というより家臣の使い方が非常に巧みだったのである。

     また当然のことながら、家康が天下人になるまでには、いくつかの障害と選択肢があった。まずは今川を裏切って織田と同盟を結んだこと、もしこの選択肢を誤っていれば、天下人どころか今川とともに滅んでいたことだろう。さらに武田信玄急死による武田軍廃絶や、本能寺の変で無事伊賀越えと成し遂げたという運の良さ、さらには天正大地震で秀吉側が莫大な被害を受けたことなど数え上げたらきりがないほど悪運に恵まれていたようだ。

     さて今回の大河ドラマでは、家康の正室である築山殿をかなり美化しているのだが、歴史学的にはそもそも今川出身の築山殿にしてみれば、家康が今川を裏切った時点から恨み続けていたようであり、嫡男・信康においても、気性が激しく日頃より乱暴な振る舞いが多く、家康とは反目しあっていたとも言われている。従って単に信長の命令だけで、築山殿と信康を処断したわけではなく、家康の意向も含まれていたと解釈されているようだ。
     また秀吉による関東転封も、家康自身はさほど不服だったわけではなく、むしろ秀吉との棲み分けや石高の大幅増加、関東平野や江戸湾などの地勢にも惹かれて積極的に受け入れたようである。

     本書ではこのような話を織り込みながら、歴史学者的観点を踏まえながら分かり易く家康が天下人になれた経緯を描いてゆく。また190頁という新書版の薄さも手伝ってか、遅読の私でもたった3日であっという間に読破してしまった。寝苦しい夏の熱帯夜を忘れるためにも、是非手軽に本書を手に取ってみようではないか。
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    投稿日:2023.12.06

ブクログレビュー

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  • lonelyrunner

    lonelyrunner

    徳川家康が弱国大名からいかに天下人までなりえたのかを堅苦しい史実資料だけでなく、わかりやすく説明されていた。
    なかなかおもしろかった。

    投稿日:2024.02.17

  • mmlibrary

    mmlibrary

    このレビューはネタバレを含みます

    2023/12/23 読了
     家康の成功は今川の英才教育と信頼できる部下の力が大きい。特にナンバー2である酒井忠次の貢献が大きく"家康の諸葛孔明"説に同意。姉川・長篠の信長、山崎の秀吉、小牧・長久手の家康に共通するのは天下に示した"武威"、これによって天下人になり、これがない光秀、毛利、信雄、信孝、秀頼は滅亡した、という説明に納得。

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    投稿日:2023.12.23

  • kasaharapapa

    kasaharapapa

    このレビューはネタバレを含みます

    中曽根康弘の言葉、
    国内の事情で外交をやってはならない
    お家の事情のために、相手の状況や力関係、外部環境を無視した外交や戦争を行ってしまうミスは、実際の歴史にあることなのです

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.12.21

  • kitano

    kitano

    このレビューはネタバレを含みます

    <目次>
    ①はじめにー家康はどうしたのか!
    弱小大名が生き延びて天下をとった弱者の戦略
    ②第1章 「境目の土地」三河という運命
    徳阿弥の素性を鑑みるに、家康も熊野比丘尼と
    同様に情報・諜報を駆使する能力を有していた
    ③第2章 信長から学んだ「力の支配」とその限界
    絶大な力なき自分を強くする「武威」を上手く
    喧伝する諜報能力の高さが信長の弱さを見抜く
    ④第3章 最強の敵・信玄がもたらした「共進化」
    信玄の強さの秘密「物見・透破・築城」を取り
    入れ(滅亡後に家臣団採用)家康は強くなった
    ⑤第4章 二つの滅亡 長篠の合戦と本能寺の変
    長篠は勝頼の猪突猛進じゃなくて戦略的に背後
    を突いて、突進せざるを得なかったわけだ
    ⑥第5章 天下人への道
    秀吉の権威だけに縋った石田三成に代表される
    五奉行が常に家康を追い落とす策謀をしていた
    と考えるのもアリだなと思った

    大河ドラマどうする家康終了前に読めてよかった
    新書なのに徳川家康が生き延びた理由が見えた
    「三河の弱小大名がどうやって天下を手に入れた」
    このキーワード、自分をプロデュースして「武威」
    「信頼」を周囲に喧伝し続けた生き様だと思った
    史実も適時専門家も紹介しつつ最新説を披露をしつ
    つ、その追求をし過ぎずに、当時の物語に表される
    人物像を二次史料が暴きだしているのも一興

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    投稿日:2023.12.17

  • imipu

    imipu

    一部重複する記載が多いのが気になるが
    家康がどのように天下人になったのか
    武威を示す大切さ

    だが家康が天下人になれたのは運がかなり大きいのでは?と思う

    投稿日:2023.12.12

  • hori2221

    hori2221

    このレビューはネタバレを含みます

    良書。
    磯田道史さんに外れはない、期待通り。史実、史実じゃない、疑わしいけど参考になる、区別して説明。
    家康、信玄、信長の分析が素晴らしい。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2023.09.23

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