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乙野四方字 / ハヤカワ文庫JA (20件のレビュー)
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総合評価:
ABAKAHEMP
パラレル・シフトと鬼隠し
平行世界は可能性の世界。 朝食をパンにするか御飯にするか。 この世界で選ばれなかった可能性は、あちらの世界では選択されている。 単にAかBかという選択の問題だけではない。 平行世界は、実現…しなかった可能性の世界でもある。 もし事故に遭わなかったら、両親が離婚しなかったら、告白する勇気が持てていたら。 一時的にどこかの平行世界に入れ替わり、あり得たであろう可能性の世界を垣間見たとしたら、人は「ずるい」という嫉妬の感情を抱くかもしれないが、同時に報われたという感覚も抱くもの。 「全く知らない人の幸せを喜べる事が、とても幸せ」だという本書の隠れたメッセージ。 さっきまで散々調べた場所で探し物が見つかる。 記憶違いやデジャブといった現象は、同じ時間のどこかの平行世界にいる自分と意識だけが入れ替わる、パラレル・シフトかも。 ここではこうした平行世界間移動を、神隠しの現象とも結びつけて話を展開している。 頻繁にパラレル・シフトを経験する人は虚質が不安定で、存在感の希薄化に通じ、時間の流れにも取り残されるゆえに、ある時空に永久に閉じ込められてしまう。 それを救う手立ては、名前を強く読んで自我を固定化すること。 不安定な虚質を、繰り返し名を呼び続ける事で、確定させてあげる。 「『だから、僕が君の名前を呼びます。死ぬまで君の名前を呼び続けます。それは誰にも譲れない、僕の役目です』 その言葉の一つ一つが、私の不安を打ち倒してゆく。 そして進矢さんが、もう一度、私の名前を呼んでくれる。 『栞さん』 その瞬間。 私の胸は、温かいもので満ちていった。 ああ、本当だ。 愛する人に、名前を呼ばれるだけで。 『帰りましょう』 世界はこんなにも、ここにあるんだ」 タイトルの意味に気づかせる、感動的なエピローグ。 しかし、多くの読者の頭からは、この会話が79歳と73歳の老人同士の間のものだという事実が、抜け落ちてる。続きを読む
投稿日:2023.04.05
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ちょこ
このレビューはネタバレを含みます
『君を愛したひとりの僕へ』の後に読んだので、これが日高暦が願った世界なのだとしても、いくら高崎暦と今留栞が幸せなのだとしても、日高暦と佐藤栞は結ばれることは絶対ないんだなと思ってしまって読んでて悲しくなった お互い知らないことがお互いの1番の幸せなのは切なすぎた 読み終わった後に日高暦と佐藤栞が結ばれる世界があるといいなと思いました
投稿日:2024.04.24
キュアダイエットおじさん
『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』に続く待望のスピンオフ長編……とあらすじにも書いてあるのですが、違います 完結編です、これ オカルトの要素もあり、それを作中の理論によって解決する…ところは推理小説のようでもあり、でもその理論はSFで、そして恋愛小説としても素晴らしい この幸福な読後感と言ったらありません いい年して思わずうるうるぽろぽろしてしまいました そして本棚から『僕が~』をとりだして、パラパラと読み返してはニヤニヤとしてしまいました マジで面白かったです、おすすめ 『僕が~』『君を~』を読んだ人ならこの作品も読むべきです!絶対に! 読んでない人は……どうなんだろう、どこまで楽しめるのかな? それはそれで読書体験だけど(そもそも『僕が~』と『君を~』は読む順番で作品の印象が変わるという触れ込みでしたし)でも、どうなんだろうね実際続きを読む
投稿日:2024.03.30
はな
『僕が愛したすべての君へ』と『君を愛したひとりの僕へ』を読んでから読むべき物語。どちらの状況も読んでいるからこの物語で感じた幸せが尊いもので、途中から涙が止まらなかった。 所々に前作と繋がる要素も散り…ばめられているので、考察が好きな方にはもってこい。 素敵な物語に出会ってしまったと思った。続きを読む
投稿日:2024.02.04
isutabi
★死ぬまで君の名前を呼び続けます。(p.231) 3つの魅力(1)並行世界というもののありよう、虚質と世界をどう考察するかへの好奇心。(2)二時間で読めます。メモしながらなので実際にはもっと短時間で…ラクに読めるでしょう。(3)虚質との結びつきが弱く頻繁に小さなパラレル・シフトを繰り返し存在感の薄い栞の存在を確立させる方法は? 【一行目】久しぶりに、この日記を書きます。 ■世界観■ 世界には揺らぎがあり人は気づかないうちに並行世界との間を行ったり来たりしていることが実証されている。遠い世界への移行はそう多くは発生しないが近隣の世界には日常的にちょいちょい行ってすぐ戻ってくるようだ。ちょっとした記憶違いや勘違いの多くはこのせいである可能性もある。この並行世界は自然にあるものなのか、誰かが何か選択したときのみに発生するものかどうかは作品の記述だけではよくわからない。 ■並行世界についての簡単なメモ■ 【IEPPカウンター】自分が生まれた世界をゼロとし、現在相対的にどれくらい離れた世界にいるかわかるカウンター。あくまでも目安。生まれたときにつけさせられるウェアラブル端末にインストールされる。便宜上1、2と区切られているが実際はグラデーションのような気もする。誰かの選択によって並行世界が生まれるならその場合は1、2と区切られるのでかまわない。 【アインズヴァッハの門】その門を通るだけで誰でも殺人鬼になってしまう門。 【アインズヴァッハの揺り籠】通称IPカプセル。他の並行世界に移動できる。犯罪に使えそうな危険な装置でもある。命名は佐藤絃子所長だが虚質科学研究所の所員たちはIPカプセルと呼んでいる。 【命】佐藤栞《温かさと冷たさ。あなたの言う通り、きっとその温度差が、命の尊さなんだよ》君をp.42。《あなたが感じたのは、可能性の温度なんだよ》君をp.43 【今留栞】『僕が君の名前を呼ぶから』の栞。佐藤絃子の娘。父親から見返りを求めないで他人を助けられるような人になりなさいと教えを受け困っている人を探すというどこか間違っている行為をするタイプ。自転車好きで旅行に「マイサドル」を持って行くほど。中学生のとき大学生の内海進矢と知り合う。高校や大学では存在感が薄くなりそこにいるのに気づかれないことが多かった。 【内海進矢】大学生。科学として、民族史における超常現象(伝奇やオカルト)の研究をしている。中学生の今留栞と知り合う。敬語でしゃべるのが楽だというタイプ。 【SIP】→シュヴァルツシルト半径 【女の子】老人になった暦がある場所で出会った。即消えた。一瞬、「たんぽぼ娘」? とか思ったが。 【科学】《お母さんは、鬼の話を否定するわけじゃないんだ。それが正しい科学の姿勢というものなのかもしれない。》僕が君のp.102。科学は否定も肯定もしないことかと 【和音/かずね】→瀧川和音。 【ギネス・カスケード】ギネスビールを勢いよく注いだとき泡が液体の中を沈む現象が見られることがある。 【虚質科学研究所】祖父が亡くなったとき十歳の高崎暦がいきなりジャンプした研究所。父が勤めている。並行世界の存在を実証した佐藤絃子が所長となって設立した研究所。高崎暦や瀧川和音の親が所員であり、彼ら自身も後に所員となった。 【虚質素子核分裂症】人間も含む、物体を構成する「虚質」が物体を離れてしまった状態。人間の場合には精神が肉体と離れているという状態で症状となる。 【困った人を助けたい】佐藤栞がいきなり言い出したこと。助けるために困っている人を作り出しかねない勢い。 【暦】→高崎暦/→日高暦 【暦の父】研究者。虚質科学研究所の副所長。 【暦の母】実家が資産家。 【佐藤絃子/さとう・いとこ】虚質科学研究所所長。虚質の概念を九州大学理学部在学中に提唱した。昔のアニメ、ゲーム、ラノベが好きでそこに出てきた名詞を使いたがるので話がわかりにくくなる。 【佐藤栞/さとう・しおり】『君を愛したひとりの僕へ』の栞。佐藤絃子の娘。心優しく、好奇心旺盛で、謎の行動力が発揮されることがある。 【栞】→佐藤栞/→今留栞 【シュヴァルツシルトIP】通称SIP。簡単に言うとある事象が発生した一定の半径内ではかならず同じ事象が発生するという範囲。たとえばSIPの相対値が22プラスマイナス10となっているとき自分の世界が0なので相対値が22離れている世界で事象が発生し、それと同じ事象が起きているのはプラスマイナス10、おおむね12~32の世界で同じ事象が起こっているというような目安。 【修馬/しゅうま】今留栞と内海進矢の息子。 【世界】内海進矢《世界は差違でできている》《世界は、あるものと、それでないものの差違からできている。その差違を形作るのが「虚質」であり、それを言い換えたのが「八百万の鬼」ということなのではないかと僕は考えています》僕が君のp.155 【高崎暦/たかさき・こよみ】「僕が」の主人公。母に引き取られた暦。祖父の家で暮らしていた。地元は大分。両親は離婚したが離婚してからの方が関係は良好になった。並行世界に移行した十歳のときわりと早く理解したのでなかなか柔軟ではある。賢すぎて他者を見下しているところがあるので友人ができない。 【宝箱】祖父が暦にくれた鍵のない宝箱。 【瀧川和音/たきがわ・かずね】「僕が」のヒロイン。高崎暦の高校の同級生。暦が辞退した生徒総代をつとめた。成績優秀なAクラスでも常に首位の成績を取る。これまで話したこともなかったのにいきなり「暦」と下の名で呼ばれ驚いたがどうやらIP端末のカウンターで85離れている世界から来たと言う。そのくらい離れているともう異世界レベルらしいが? 「君を」では研究所に配属され暦が室長をつとめる研究室の部下になった新人研究者。その後ずっと共同研究者となった。 【名前】内海進矢《存在を確立させる方法なんて、誰かが名前を呼ぶだけでいいんです。》僕が君のp.230 【廃病院】穂尾付町の廃病院。鬼灯蓮が管理している。かつて子ども(どうやら鬼灯蓮の弟で鬼灯太郎というらしい)が神隠しにあった。中に祠がありその扉を開けることは禁じられている。佐藤絲子に調査が依頼されたが、虚質科学はそういうのに向いていないツールだと気が進まない。たまたま居合わせた娘の栞、内海進矢もともに調査についていったが栞の感覚ではヘンな場所で、同じ時間がリピートしていた。祠の周辺は虚質が不安定になっているらしい。警察が調査したとき祠を開けたらしいが中には果てしない闇があったとか。 【パラレル・シフト】佐藤絃子が提唱したときは賛否両論、議論を巻き起こし世界中で研究され、わずか三年で並行世界の存在は認められた。人は日常的に無自覚に(比較的近い)並行世界間を移動している。その場合肉体は移動せず意識(虚質素子)のみが移動している。近い世界では移動期間は短い。この移動のことを「パラレルシフト」と呼ぶ。エンピツなどの物体もシフトしているが意識があるわけではないのでほぼ何事も起こらない。そのものが失われた世界にはシフトできない。ときおり歩いてる最中とかに世界が少しずれたような気がすることがあるけどそんなとき、もしかしたら? 頻繁にシフトを繰り返すと「シフト酔い」を起こすことがある。 【日高暦】「君を」の主人公。父に引き取られた暦。栞と知り合い恋愛関係となるがとあるできごとで彼女を喪いなんとか取り戻そうと研究に没頭する。 【並行世界の自分】他の世界の自分は自分と同一人物なのかという命題。それは自分でしょう。パラレルワールドはグラデーション的であっておそらく1とか2とかデジタル的に区切られているわけではないと思います。すべての自分はずっと繋がっている。重なっているのではなく繋がっている(と思う)。まず入れ代わることもない遠い自分もまとめて自分という存在をかたちづくっているのだ(と思う)。自分がいない世界に至るまでは。違って見えても一人の人間の手の形と足の形が違っているというようなもので。なんてことを考えてみてもパラレルワールドは所詮SF的想像に過ぎないけど、まあ思考としてはおもしろい。と、まだ半分読んだか読んでないかの時点で考えてみましたが暦君はどういう思考に落ち着くでしょう? 【鬼灯蓮/ほおずき・れん】穂尾付町の廃病院の管理を任されている若い美女。弟の太郎が廃病院で鬼隠し(神隠し)に遭った。鬼灯家は輝智(かがち)の九名家を束ねる。 【美智子】今留栞に大学でできた友人。 【ユノ】暦が十歳の頃、母の実家で飼っていたゴールデンレトリバー。 【レオタードの女】とある交差点にある銅像。続きを読む
投稿日:2023.10.23
Yuna
とても面白かったです! 「僕が愛したすべての君へ」「君を愛したひとりの僕へ」と繋がっていて、他の並行世界の幸せになった栞が書かれており、暦とは会わないけれど、最後に暦と再開して「会ったことがあるような気がする」と二人が思っていてお互い相手が幸せなのが嬉しく感じているところが好きです! 「君を愛したひとりの僕へ」は幸せになれなかった2人の話だけど、「僕が愛したすべての君へ」は暦が幸せになった世界、「僕が君の名前を呼ぶから」が栞が幸せになった世界、この2作は暦と栞は他人だけど、最後会話するのが個人的に好きです! 「僕が愛したすべての君へ」「君を愛したひとりの僕へ」「僕が君の名前を呼ぶから」すべての物語が繋がっていて、「凄いなぁー!」と、感動しました!!
投稿日:2023.09.25
めなこ
映画を2本観てから読んだので、世界観にすんなりと入ることができた。 名前を呼ぶ、ということの意味と重みを改めてじんわりと感じることのできるよい作品だった。
投稿日:2023.07.25
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