【感想】脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論

ジェフ・ホーキンス, 大田直子 / 早川書房
(32件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
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9
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0
  • 脳の中に座標系が満ち溢れてる?

    街で演奏しているストリートミュージシャンの前を通った時。
    次の曲に移り、ギターの前奏を聞いただけで、足を止め何も思わず口ずさむ。
    一緒についてハミングしたりして、演者もこちらに顔を向け微笑む。
    普通それは、それがお気に入りの曲で、カラオケでも歌っているものだったからだよと思うが、脳を単に入出力するだけのコンピューターだと考えていた一昔前の脳科学だと説明がつかない現象なのだ。
    あるいは、道を歩いていると曲がり角から急に自転車が飛び出してくるが、驚きつつも体は瞬間に反応して身をかわす。
    まるで、予測していたかのように。

    脳もきっと人知れず、常に予測しているんじゃないか。
    著者は最初、それは経験や記憶に基づくと考えていたが、それだと具合が悪いことに気づく(あのミュージシャンやあの道は初めてだ!)。
    そこで何らかのモデル、常に学習によって絶えず更新され続けるモデルに基づいて脳は予測を立てているのだと考える。
    しかしメロディは予測できても、物体の動きをどうやって脳は予測できるのか。
    例えば、自分が座っている椅子の下に転がってきたボールを、人はどうやって椅子を回転させ、身を屈めて、拾い上げることができるのか?

    きっと脳の中には座標系があって、それがあるから物体の位置を補足することができるんだと考える。
    そうだ、きっとそうに違いないと著者は興奮気味に考え、何本か論文を書きあげ発表するも、いまにいたるまでニューロン内に座標系は見つかっていないそうな。

    ラットの頭の中には地図ニューロンがあって、実験でもそれぞれに対応して活性化する頭方位細胞や場所細胞、格子細胞が見つかった。
    たとえば現在地のD6から餌のあるB4へ行く時には、その地図のおかげで、東に何区画進み、北に何区画進んだら餌にありつけるか分かっているんだ。
    なんとこの地図は古い脳だけでなく新しい脳である新皮質にもありそうだぞ。
    我々の脳の中には行列で無数に仕切られた町の地図も持っているんだ、と。

    著者が言う"モデル"では、自分がどこにいるかや、どこに触れているかなどの空間認識は、感覚入力信号だけではダメで、実際に動いたり、動かしてみる必要があるとのこと。
    これがないと、モノや場所、作業の構造を知りようがない、と。
    考えることは一種の動きであり、座標系内の適切な位置が活性化しない限り思考も始まらない、と。
    眼の動きだけでコミュニケーションをとっている筋萎縮症で寝たきりのALS患者も同様なのだろうか?
    いやいや、物理的に体を動かさなくても、脳の中で動き回ることはできる。

    概念の座標系や架空の地図の中で動くことで、触れることのできないDNAや民主主義について考えているんだ、と。
    イデアとは何か良く理解できない?
    この方程式がよくわからない?
    それはあなたの頭の中に対応する座標系がないからだ、と。

    未来のAIを真に知的な機械にするためには、自分が考えた脳の原理にもとづいて忠実に設計されなけばならない、と。
    そのような脳と同じ原理で動く機械にはもれなく意識があるはず。
    意識のメカニズムが不可解だ?
    それは考え方が間違っているんであって、座標系を用いれば論理的に説明がつくはずだ、と。

    そんな意識をもった機械のコンセントは抜くことができなくなるって?
    心配するな、人間だって就寝する時にスイッチをオフってんだ、と。
    だったら朝起きてスイッチが入るのと、再びコンセントをつなぐのと同じことだ、と。

    最後まで読み終えて不可解なのは、この本を読んで1部は絶賛して、残りの2、3部を否定している読者が多いこと。
    "蛇足だ"とか、"読まなくてもよい"とか。
    1部にまったく惹かれない立場から言わせてもらえば、残りの章も十分に首尾一貫していて、何なら彼の主張を肉付けする内容になっている。

    単なる遺伝子の複製するだけの存在を超えて、知識を守り未来に運ぶ存在になるのだ、と。

    真実の全体像と真実に近いらしい真実を考えざるを得ない。
    データ中で答えを探す難しさは、大まかに言って、酔っ払いが街灯の下で鍵を探しているようなものだと言われる。
    その酔っ払いに、なぜ街灯の下で鍵を探しているのか聞いてみれば、きっとこう返すに違いない。
    「だってここが明るいから」
    データは、データがある場所しか照らさない。
    しかし周囲には深遠な闇が控えたままだ。
    続きを読む

    投稿日:2022.09.17

ブクログレビュー

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  • katsuya

    katsuya

    脳の仕組みを解明しようとする研究者の著作。この本が面白いのは、作者がアカデミック出身ではなく、パームコンピューターで大成功した起業家であること。ビジネスで大成功を収めてから、元々関心あった脳の研究所を設立し、打ち込んでいるという変わり者。だからかもしれないが、内容はとてもわかりやすい。人工知能がもたらす変化なども、シンギュラリティを恐れる必要はないし、映画のような機械の反乱などが起こらないことをわかりやすく説明してくれる。脳を機械に接続して保存したものは、人間なのかという問いや、地球外生命体とのコンタクトまで、脳を題材にいろいろなテーマを取り上げていて、興味が尽きない。続きを読む

    投稿日:2024.04.14

  • kenisfsan

    kenisfsan

    完全文系の私には理解できない部分も多かったが、情報量も多く文才もあってか読みやすく良い本でした。
    最後の将来予想はまあ頭の良い人の時間軸やスケール感は凡人には理解できない部分もあるので、そんなこと考えてるんだなあという以上の感想を持てませんでした。続きを読む

    投稿日:2024.03.20

  • rafmon

    rafmon

    2021年フィナンシャルタイムズ紙のベストブックに選出されたほか、ビル・ゲイツの「今年おすすめの5冊」にも選ばれたらしい。だから手放しで面白いか、というと少しクセがある。主張の論拠が乏しいため、ただただロマンが語られる雰囲気もあり、論理の飛躍が激しい。

    本著のテーマは「遺伝子vs知能」、「古い脳vs新しい脳」から始まり「人口超知能vs人類」という纏め方も可能だろうか。脳は、経験を通じて、複雑な予測モデルを学習する。私たちが知的なのは、1つのことを特別にうまくできるからではなく、ほぼどんなことでもやり方を学習できるからだ。絶えず動きによって学習し、たくさんのモデルを学習し、知識の保存と目標指向の行動のために汎用の座標系を使う。 AIは現時点では、経験による学習ができないが、いずれ、予測モデルを得て、人類を凌駕する。

    その時、人類は、脳をコンピューターと融合させる。目的は、超知的なAIに対抗するためという話。私たちの脳を超知的なコンピューターと融合させることにより、私たちも超知的になる。

    新しい脳、知能、人類が勝利する時、人類にとって古い脳とは、麻薬のような快楽を度々与えてくれる供給源の役割となり、快楽頻度と程度をランダム化する事で生きがいを見出すような、本能も能力も完全に可視化された存在になるのではないか。人口的に天才が生み出されれば、最早偶発的かつグラデーションのかかった才能ランキングと集団により、上位者の生活を支えるレガシーシステムも必要がなくなるからだ。
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    投稿日:2023.12.24

  • O

    O

    第一部では,著者による「1000の脳理論」が説明されている.また,第二部では,現在のAIと人間の知能の違いについて説き,それを踏まえてAGI(Artificial General Intelligence)を作るための方針と,AGIに対する楽観的考えを示している.AGIに対する楽観性の理由の本質は,知的機械には新皮質的な知能しか存在せず,古い脳による目標/欲求がないことである.第三部では話がガラッと変わり,人間の脳を起因とした人類の存亡リスクと,それを避けるためのアイディアや,地球内の未来の知的生命体および地球外生命体を含む知的生命体たちにどう人類の知識を残していけばよいかについて語られている.

    第一部のメモ.
    ・事実として,大脳新皮質には15万ほどの"カラム"が存在し,似た解剖学的構造を有している.加えて,似た構造のカラムが,それぞれ異なる情報処理能力(視覚情報処理や触覚情報処理)を持つようにふるまう.
    ・著者は,"カラム"1つ1つが,外界や自身の体の"座標系"のモデルを学習するのだと提案する.
    "座標系"を作るやり方をより具体的に言えば,海馬(新皮質より進化的に古い)における格子細胞(外界空間の構造を表現)から進化の過程で派生して形成されたものである.
    ・考えることとは,座標系を動くことである.数学:まず数学的概念を表すための土台としての座標系を学習する.N次元である.加えて,並列的に,その座標系に載せるべき方程式・定理などを学習していく.演算により,それらの概念間で動きが起こる.
    ・また,カラム間の情報統合は,遠くに投射する軸索たちによってなされる.統合の流れは,投票である.各々別のモデルを学習しているカラムたちの意見が合わさり,最も多く投票が集まった知覚が意識にのぼることになる.

    第二部の,知的機械の持つべき特性
    1たえず学習する
    2動きによって学習する
    3多数のモデルを持つ
    4知識の保存に座標系を使う.

    近年の,深層学習界隈での「世界モデル」の試みと似た思想だと思った.


    その他感想
    ・脳のネットワーク同期バーストにも,いわゆる投票モデルが当てはまるのでは?
    ・ロバストなネットワーク型システムのために本質的に必要な"分散性"は数学で表現されているのだろうか?
    続きを読む

    投稿日:2023.12.03

  • yumo

    yumo

    新しい脳と古い脳の構造の話が興味深かった。
    本書で肝となるのは座標系の話。1000の脳理論。脳は予測する。記憶には動作が伴う。
    誤った信念、維持するために直接の経験だけを信頼する必要がある。
    脳の教科書を片手に読むと理解が深まりやすかった。続きを読む

    投稿日:2023.11.02

  • horobetsu

    horobetsu

    脳科学で論文書いたしコンピュータサイエンスも専門にやっている身からすると、正直何が面白いのかさっぱりわかりませんでした。。。エビデンスがなさすぎて、空想の話をしてるのかなんなのかさっぱりわからなかった続きを読む

    投稿日:2023.10.18

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