【感想】NOISE 下 組織はなぜ判断を誤るのか?

ダニエル・カーネマン, オリヴィエ・シボニー, キャス・R・サンスティーン, 村井章子 / 早川書房
(21件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
10
7
3
0
0
  • 判断のあるところノイズあり

    多くの人は自分の判断に潜む重大な欠陥に気づいていない。
    目の前で起きた出来事の原因探しは苦もなくできるが、統計的に考えてみることはしない。
    なぜなら、それだけ因果論的思考に囚われているからで、バイアスはすぐに目につくが、ノイズは容易く見落としてしまう。
    目に見え、見つけ出しやすいバイアスは、ナッジなどで抑え込むことが可能だが、見えにくく予測不能なノイズは、そもそも対策を立てにくい。

    ノイズとは、統計的思考によってはじめて見つかるばらつきであり、データに基づく予測によって導かれ、射撃を行った時に穿たれる着弾範囲でもある。

    判断のあるところノイズあり。
    見えない敵の脅威に対処するという点では、新型コロナ対策と似ていて、ノイズに対しても、予防的な衛生管理が援用できると説く。
    つまり、判断においても、手洗いに似た予防習慣を徹底するといい。

    究極的に言えば、人間による判断をルールやアルゴリズムに置き換えれば、システムノイズを完全に排除できる。
    判断の余地を減らすべくガイドラインを厳格化すれば、ルールになる。
    しかし大半の人は、厳格なルールは行動の自由を制限し、賛同を得にくいと判断し却けて、ルールではなく規範で良しとする。

    例えば、児童虐待やいじめの実態を見抜けず、深刻な事態に発展した責任を問われた時も、本来であれば、現場の状況を把握し、自分たちで実効性あるルール作りをすべきところなのに、わざわざ第三者委員会などを設置して外部に下駄を預け、その結果、大量のノイズにまみれた弥縫策で良しとするのだ。
    そんなことなら、規範ではなくルールとして機能するアルゴリズムに任せた方がよっぽどマシではないかと指摘している。

    根底にあるのは、直感に対する不信や否定。
    直感を禁止するわけではないが、総合判断は最後の最後まで遅らせるべきだと主張する。

    思い込みは不味いと思うが、直感はそれほど信を置けないものなのか?
    これはおそらく、同じ判断でも、難民認定や量刑の決定、指紋やDNAの鑑定などと、体調不良や機械の故障の原因特定や、将来の結果の予測を伴う判断とでは大いに異なっているからだろう。

    棋士の長考は、まず鋭い直感によって得られた一手に対する反証や証明に費やされるし、プロの修理屋や医者も、最初に感じた違和感(色や膨らみや異音など)を頭の片隅に留め、様々な基本的な項目を確認した後に、最初の直感に立ち戻り、真の原因を探り当てる。
    この意味で、本書でも紹介される超予測力を備えた人のように、経験を凌駕するプロがいるということで、どうしてもこうした専門家に頼れない時に、本書の薦める対策が有効となるだろう。

    プーチンは2021年9月から、側近の新型コロナ感染が相次いだため、自主隔離に入り外部との接触を絶った。
    この間に彼は、歴史書を読み漁り、独自の世界観を偏狭な形で醸成させていったと言われている。
    執務室の中で彼は、ソ連解体から30年を振り返り、国際社会で占めるロシアの地位の低下を憂い、欧米からの度重なる嘘や裏切り、辱めに対して、被害妄想にも似た形で怒りを蓄積・増幅させていった。
    ウクライナの歴史とロシアとの関係について深く探求する内に、ロシアとウクライナは一体であるとの確信を得て、ウクライナの主権は認めず、欧米からの干渉は許さないと決心する。

    判断を下すとき、誰もが固有の価値観や信条、記憶、経験などを背負っている。
    こうしたものは、様々な要素に対する安定した反応バターンであり、一過性のものではない。
    パターンノイズが、判断者としての性格や個性の副産物だとすれば、今回のプーチンの下したウクライナ侵攻は、どのような判断だったのだろう。
    胸襟を開いて言い合える中だったドイツのメルケルは退陣し、そもそも隔離によって周囲とおいそれと会えず、側近はプーチンの判断に疑問を呈すると昇進できないのでロクに進言をしない。
    こうした中で、ウクライナの歴史を巡る深い彼の信念の方が、ロシアの体制維持よりも重要になっていったのかもしれない。
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    投稿日:2022.03.13

ブクログレビュー

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  • スタヰル

    スタヰル

    # 組織的エラーの仕組みと正しさへの道標

    ## 面白かったところ

    - バイアスが強いエラーなのか、ノイズ起因のエラーなのか、この下巻を読むことでより明瞭になった点

    - 企業理念やルールや規範が人間社会で長生きしている理由がわかる点

    ## 微妙だったところ

    - 特になし

    ## 感想

    組織により踏み込んだ、エラーとバイアスについての内容。

    特に面白かったこととして、アメリカの指紋分析官の話があった。国家随一の専門職である指紋分析官という役職に加えて、指紋鑑定という信頼度の高い(より正解に近い)証拠という組み合わせだからこそ、容疑者の冤罪をなかなか立証できなかったという事実。

    これは組織の中で輝かしい存在、例えばエキスパートとかスペシャリストなどの肩書だと身近に映るだろう。

    この人たちの決断が必ずしも正解とは限らないし、反芻努力の欠如が無関係の人を悪い意味で巻き込むことになる良い事例だった。

    上記の特別な人達も `人間` なので、文字通りヒューマンエラーを起こしうる。

    この現実を教訓として我々は意味のあるルールや規範を整える必要があるし、より正解に近づくために時にはノイズをかけて群衆の叡智の力を借りねばならんということなんだろう。

    アニメ『PSYCHO-PASS』の世界観と照らし合わせると、どこか自分の中で腑に落ちた。

    人間じゃない何かが決断し、裁き、すべてが決められた社会では、ノイズが起きようもないしバイアスのみが存在する。

    人間の判断というノイズがないとバイアスの方向転換はできないし、人間社会とは到底言えないものである。

    主人公の常守朱が発したセリフの中で、よいものがある

    常守「法が人を守るんじゃない、人が法を守るんです」

    法を `バイアス` 、人を `ノイズ` と読み替えると、どちらかが悪や正義ではなく共存するものだということがよく理解できた。
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    投稿日:2024.01.18

  • Katsu

    Katsu

    このレビューはネタバレを含みます

    上下巻感想
    自分の判断、会社としての判断は正しいのか?大丈夫?と考え読み始めた。
    例えば難民認定の許可は審査官によって大きく違い、ある人は5%ある人は88%の許可していた事や100人の精神科医の診断結果は54%しか一致しなかったなどなどの沢山の事例や調査結果に驚かされた。そう言った判断は明確な基準があり間違いがないと考えていたがほとんどの場合、大きな乖離があるという。ではそれが何なのか?その原因は大きくバイアスとノイズに分類され違いは簡単に言うと、銃で的を狙い一定方向に的を外す要因はバイアス、上下左右などランダムに外す要因がノイズということだった。ノイズにもいろいろなものがあり、発生の事例や要因や測定方法や対処法が分かりやすく書かれていた。この本を読むことによって自分が思っているより自分が冷静で客観的な判断ができていないという事実を認識して、対処法を講じていく必要があると感じた。またアルゴリズムでの判断と人間の判断の違いや有効性は人事評価などノイズが発生しやすい場面で適応できるシステムの必要性を感じた。
    また、前作でも感じたが作者がノーベル賞受賞者でありながら、専門家の無能を辛辣に笑い飛ばす語り口がとても痛快だった。自分の馬鹿さ加減も深く認識させられる。

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    投稿日:2023.08.24

  • zo3zo3

    zo3zo3

    興味深い本だった。
    ノイズやバイアスは時に、不公平を生み出し、様々なところで影響を及ぼす。
    人間の思考からノイズやバイアスをいかに除去するか、色々な方法がある。

    投稿日:2023.08.06

  • 速読

    速読

    普段の生活に存在するノイズを具体例を用いて説明してくれているのですごく分かりやすかった。
    ノイズを防ぐためにどうすればいいのか、また、ノイズをなくしていくことでどういったことが起きるのかをよく理解できた。
    きっちりとした成果を出していくためには、ノイズが生じにくい環境作りが大切。しかし、ノイズが皆無であれば、システムが崩壊する可能性もあると思った。
    いいバランスでノイズを削減していくことが重要である。
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    投稿日:2023.06.20

  • もとし♪げん

    もとし♪げん

    上巻よりも読みやすかった。
    バイアスとノイズ。
    計量経済学での攪乱項を深く分析していると認識しました。

    投稿日:2023.01.22

  • bookkeeper0

    bookkeeper0

    ノイズが思った以上に多く、これを少なくすることは簡単ではない。
    人間に首尾一貫した判断が苦手であり、やはりガイドラインのようなものでかなり判断の振れ幅を抑えてやる事が必要だとよくわかる。
    このガチガチのガイドラインは、日本人にはかなり好まれる傾向にあるとは思うが、融通の効かない社会は息苦しい。
    筆者の対策を、うまく使って行きたい。
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    投稿日:2022.10.18

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