【感想】ジェネリック医薬品の不都合な真実 世界的ムーブメントが引き起こした功罪

KatherineEban, 丹澤和比古, 寺町朋子 / 翔泳社
(5件のレビュー)

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ブクログレビュー

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  • yasq di Fontana

    yasq di Fontana

    ジュガールで行こう!?

    気楽に読める一般向けの本で、アンダーライティングに役立つ最新知識をゲットしよう。そんなコンセプトのブックガイドです。第109回目は供給不足がニュースにもなっている「ジェネリック薬の構造的な問題を探ります。
    20世紀の間は、ジェネリックの問題は、アメリカならアメリカ国内での、日本なら日本国内での企業の間の競争でした。ところが21世紀になりグローバル経済でインドや中国がジェネリック薬市場に本格的に参入すると、予想もしない事態となりました。それを余すところなく描くのが、今回の「ジェネリック医薬品の不都合な真実」です。
     インドのジェネリック製薬業の歴史、その発端から興隆の道程、そして世界がそれを受け入れざるを得なかった訳、その後の残念な腐敗の過程、さらに、それでも世界がインドのジェネリック医薬品を使い続けなければならない訳…。膨大な調査を通して、これら全てが500ページ超の中に盛り込まれています。
     ジェネリック医薬品の存在意義は、特許が切れた先発薬と同等の効果や安全性を持つ薬を安価で提供することです。それは、政府の医薬品審査機関の厳格な管理・監督のもと、ジェネリック医薬品メーカーが高い倫理観をもって、「先発医薬品と変わらない薬効・安全性の薬を製造しているはずだ」という「信頼」を前提として作られた制度です。
     つまり、ジェネリック医薬品は、そもそも先進国の企業倫理と法制度のもとで製造されることを想定した薬なのです。
     しかし、グローバル経済の進展で、先進国とは異なる倫理観や社会制度をもつ国々が工業化し、世界の工場となっていきました。衣類や機械などを作っている間はそれでよかったとしても、「薬」を製造するとなるとどうでしょう。薬は外観で中身がわからないし、結果としての作用もすぐにはわからないものです。
     そんな流れの中心にあるのがインド。インドにはガンディーの頃から独立の見返りとして、イギリスの依頼で第二次世界大戦中に戦士向けのキニーネなどを製造していたという歴史もあります。
     20世紀後半、英語力と理系脳にすぐれる上層社会のインド人が続々と欧米の大学へ留学し、医学部や薬学部にもインド人が増えました。当然、欧米の製薬企業にもインド人がたくさん入ってきました。インドにもどった彼らは製薬会社を起業。彼らは、新薬開発はできませんが、既存薬を合成することには長けていました(いわゆるリバース・エンジニアリング)。
     そして1970年、インディラ・ガンジーの時代に、「インド特許法」という独自の特許法ができました。「インド特許法」によって模倣薬を自由に作れることになったインド国内では、模倣薬が流通する時代が到来します。ただし、その時点ではインドは世界市場から締め出された状態でした。
     インドの薬における大きな転機は、1980年代に起こったHIVの世界的流行です。欧米の製薬会社が超高価な価格で提供していた抗HIV薬を、インドは100分の1の価格で提供するという賭けに出ました。これが世界世論を動かし、インド製抗HIV薬が主にはアメリカの予算でアフリカ諸国に供給されることとなったのです。この出来事をきっかけに、インド製薬業界は世界的な薬品供給者として認められるようになりました。
     そして21世紀、高騰する医療費に悩む先進諸国も、次第にインドの薬に門戸を開いていきます。もちろん、先進国並みの企業倫理と監督制度のもとで製造されることを前提に…。
     そこに立ちふさがったのは、「ジュガール」というインド人の心性でした。
     ジュガールとはヒンディー語で「応急処置」という意味らしいのですが、転じて「その場しのぎでうまくいくならそれでOK!」、さらには「さまざまな規制をたとえ違法な方法でもくぐり抜けて目的を達成する才能」を意味します。
     インドでは、ジュガールがビジネスで成功する才能だと今でも考えられており、ジュガールに長けた人は尊敬の対象になっています。日本でも、『大富豪インド人のビリオネア思考』という、「ジュガール礼賛本」が出版されているほどです。
     インドで作られたジェネリック医薬品をアメリカで使うには、FDAの認可、定期的な精度管理、工場の査察など、品質管理のための高いハードルがあり、そこにコストがかかります。ところが、ジュガールを使うと、でたらめな書類やその場しのぎの査察対策でFDAをごまかし、いい加減な品質管理でコストダウンすればよい…という具合になります。
     本書のメインとなる実話では、アメリカで成功してインドにもどってきたインド人研究者が、インド製薬業界のジュガール体質に嫌気がさして内部告発。これを発端に、FDAやアメリカの司法とインドの製薬業界(さらにはインド政府)の間で、さまざまな法や駆け引きのバトルが繰り広げられます。
     その研究者の事件は解決するのですが、アメリカの政府や消費者が財政的にジェネリックを求めていたため、インドのジェネリック医薬品が持つジュガール体質は温存されてしまいます。それどころか、FDAが規制を厳格化しインドからの薬剤の輸入が滞ると、アメリカ国内では薬剤が不足する事態に…。
     もちろん、この本で取り上げられている事例は、先進国とは異なる倫理観を持つ国の企業の話です。先進国内のジェネリック医薬品にあてはまるものではありません。しかし、世界一厳しいといわれているFDAをもってしても、なぜ「嘘」でつくられた薬が消費者の手に届いてしまったのか、そのメカニズムを知ることは重要でしょう。
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    投稿日:2022.12.08

  • komoda

    komoda

    BOTTLE OF LIES: The Inside Story of the Generic Drug Boom
    https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798168128続きを読む

    投稿日:2022.08.12

  • whitesheep11

    whitesheep11

    安いにそれなりの理由があった。品質がウーンというレベルだったり、味が今ひとつということがある。




    しかし医薬品が「ワケアリ」だと大変だ。身体に入れるものだけに製造する側や認可する側が注意してもらいたいと思うが、生産拠点が外国となるとそうも行かなくなる。




    今回の本では、ジェネリック医薬品という正規の医薬品よりも安い価格で買えることで話題になっていたが、消費者が口にするにはリスクのある状況だった。「まさかという名の坂」があったとは。




    著者のキャサリン・イーバンは、調査ジャーナリストで偽造医薬品、銃の違法取引、CIAによる強制的な尋問を取り上げた記事で数多くの賞を獲得している。





    アメリカ食品医薬局(FDA)のコンサルタントで、海外の製造工場で長い時間を過ごしたことのある人に聞いたところ次のようなことを述べた。企業文化、さらには国の文化によって薬の製造品質に影響が出る。





    忖度が求められる文化かそれとも違う意見が出ることを歓迎するかによる。





    例えば中国は都合の悪い情報を出さない。著者が中国で情報提供者に会おうとしたとき、政府から尾行されて、携帯電話を盗聴された。




    ここにも「チャイナリスク」があったか。




    中国に派遣されるFDAの査察官のほとんどが中国語を話すことができず製造記録も読めなかった。通訳も自前ではなく、企業の営業担当者だった。




    これでは正確な調査などできるわけがない。



    ジェネリック医薬品に関して闇の部分があるとは知らなかった。易いだけで飛びつくと大変だな。




    「規制とは追いつ追われつビジネスなのです」と、アメリカ薬局方協会のグローバルヘルス・インパクトプログラムの元副委員長パトリック・ルクレイ博士が述べている。




    脱税や麻薬の取締りと同じく、無くなりそうにないなあ。
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    投稿日:2022.02.13

  • シングルブルー

    シングルブルー

    どうしてFDAが嘘を見破れなかったか。。。そりゃミイラ取りがミイラになるってこの事なんだなって思う。
    日本も他人事じゃないから読んでみるべし。

    投稿日:2022.02.11

  • medamaoyaji

    medamaoyaji

     ドキュメンタリー。
     読了後、ひょっとしたら読まなかった方が幸せだったかもしれないとまで感じてしまった。薬に対する恐怖心が湧き起こってくる。
     インドの大手ジェネリック医薬品メーカー「ランバクシー」、その製造工程のあまりのひどさにFDAへ内部告発を敢行したタクールの殆ど絶望的とさえ言える戦いを軸に話は進む。
     導入部で、中世ヨーロッパでは食料品に平気で粗悪な混ぜものを混入していたという話が出てくる。なるほど、それで欧州ではビールとかワインとかパンなどの製造法にあんなにうるさいんだと、それはそれで納得していたんだが・・・
     ここに描写されている薬品製造工程におけるランバクシーの杜撰さは、俄には信じがたい。これは「盛ってる」なと思ったほどだ。製造過程での定期的なサンプリングの試験結果は残していない、不衛生な工場、FDA査察官を騙す手口・・・あり得ない!と叫ぶしかない描写が続く。安価にできると主張したこの薬品会社の抗エイズ薬の頒布を手助けしたのがクリントン財団なのだが、その薬は効果が全く期待できないものだった。
     ランバクシー経営のあまりの酷さにタクールは、殺されるかもしれない危険を承知でFDAへ実体告発するのだが、そのFDAの動きの鈍いのにまたまた驚かされる。「やっぱりこれは「盛ってる」な」と再び思っても無理はない。
     五百頁を超えるこの本、息をもつかせず・・・いや頻繁に息を継いだ。ここに書かれていることが事実だとすれば、なんと恐ろしいことだろうと。
     全てのジェネリック薬品メーカーがランバクシー同様だと断定するのは早計だろう。しかし、仮にも大手と言われていた薬品メーカーがそのような実体だったと知って、ぼくらはどう考えればよいのだろう。
     高価な薬価は、困る。しかし、安くても命を危険にさらす薬はもっと困る。
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    投稿日:2021.12.07

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