【感想】忘れられた日本人

宮本常一 / 岩波文庫
(166件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
60
66
17
2
0
  • 歩く民俗学者の代表作

    対馬にある村の寄り合いで、著者が文書を一時貸出してくれるように頼むシーンから始まる。ああでもない、こうでもないと、関係あるようなないような取り留めのない話が何日も続いて(一つの議題だけを話している訳ではない)から、やおら結論が出る。現代の会社の打合せの場でも、こうした由緒正しき合意形成のスタイルはそこはかとなく継承されているような。

    昭和10年代から20年代にかけての西日本を中心とした聞き取り調査。著者による分析、まとめも少々交えるが、ほとんどが古老たちの語るライフヒストリーや伝承を記録したもの。

    まず序章の対馬での調査旅行の様子が、著者のスタイルを伝えていて面白い。寄り合いに付き合い、騎行の一団に小走りでついていき、着いた村で歌垣の名残に出会う。なんと自由で刺激的な旅であることか。

    2章では村落の社会構造についての東西比較。年齢階梯制が色濃く、村内の非血縁的な横のつながりが強い西日本。伝承を伝えるのは男が多く、早く村の公役から身を引くために隠居するのが早い。一方、家父長的な同族結合の東日本。伝承を伝えるのは女が多くなる。

    第3章は愛知県設楽町(旧名倉村)での座談会。百年近く前の村人たちの息づかいが伝わるような大変に細やかな話である。

    その他にも、エロ話、村を出て方々を渡り歩いた世間師、レプラ患者の旅する裏の細道、対馬の漁村の開拓談、ピシッと背筋の伸びた著者の祖父、文字記録を残した村の文化人など内容は盛りだくさん。
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    投稿日:2017.05.10

ブクログレビュー

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  • SAKA★CHAN

    SAKA★CHAN

    何度も読み直したくなる一流のドキュメンタリー
    前半は文字を読み書きできない老人たちを語り部とした、村における風俗史といっても差し支えない内容。口語調であるが故に容易に情景が浮かび上がります。中盤は氏の祖父の歴史、世間師、大工といった村と外部をつないだ人々の話から、いかに外部と交流することで変化していったか、が描かれる。
    終盤は村におけるインテリ農民による記録から村の隆盛の過程を紐解いていく。。

    それぞれが非常に面白く、想像力が掻き立てられます。
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    投稿日:2024.04.21

  • katsukun

    katsukun

    石鎚山は天狗の巣で、その天狗が時々山をわたりあるく事があった。風もないのに木々の梢が大風の吹いているようにざわめくのである。また夜半に山がさけるような大きな音がしたり、木のたおれりするがあった。これを天狗の倒し木と言った。さて夜が明けて見ると何のこともないのである。続きを読む

    投稿日:2024.03.20

  • ピッピ

    ピッピ

    忘れられているが、忘れてはいけない日本人の姿。戦前から戦後まもなく日本全国の民間伝承を調査した民族学の名著。
    長崎の対馬を先祖に持つ関係で読んでみました。初めの章にこの地方のしきたりや伝承が載っていました。
    この本に登場する日本人は、司馬遼太郎さんが、理想としているような鎌倉武士の起源を原形とする姿ではないかと思い浮かびました。
    特に宮本常一の祖父の宮本市五郎の話は胸を打つ。…仕事(百姓)を終えると神様、仏様を拝んでねた。とにかくよくつづくものだと思われるほど働いたのである。しかし、そういう生活に不平も持たず疑問も持たず、一日一日を無事にすごされることを感謝していた。市五郎の楽しみは仕事をしているときに歌をうたうことであった…
    この祖父と幼期期に一緒に寝て、おびただしい数の昔話や伝承を聞いて育った宮本さんが、大人になり古老から多くの伝承を集めることを仕事にしたのも頷けます。
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    投稿日:2024.03.19

  • smiyatake

    smiyatake

    日本中を旅して一般の人から話を聞いた宮本常一の代表作。日本中を旅して階段や廃校の写真をSNSにアップロードしている人の大先達。

    投稿日:2024.01.03

  • pinoko003

    pinoko003

    このレビューはネタバレを含みます

    もともと為政者の歴史より庶民の歴史に興味があるので面白く読めた。宮本常一の最高傑作と言われる本作だが、雑誌掲載のものをまとめた作品だからなせいか、一つの研究成果を起承転結でまとめた研究書ではなく、長年聞き書きしてきたトピックをオムニバス的にまとめたものだったことがわかった。
    昭和の初めごろの老人というと幕末明治大正昭和と激動の時代を生きてきた人々。よくぞこの時期に聞き書きをして記録を残してくれたと感謝したい。
    私たちが教科書で知っている長州征伐や西南戦争の時の話も田舎ではどう見聞きされていたのかが、よく知ることができた。
    また直接慶喜公が大阪から船で江戸へ落ちのびる時の舟渡をした古老の話などもあった。
    昔は今より性に関しておおらかで結婚前の夜這いはどの地域でもあり、未婚同士ではない場合もあったようだ。
    車が普及する前は物流は主に馬や海川に頼っていたので、職業として博労の仕事に就いている人もおおかったようだ。
    職業の変遷も伺える。
    旅芸人は旅先で芸さえ披露できれば、宿代や船賃は無料でできたということも初めて知った。
    昔は今より気安く世間を知るために旅もしていたらしい。
    ともかく、庶民は常に為政者から抑圧され苦しい生活を強いられていたというステレオタイプなイメージが払しょくされた。
    また、昭和初年代では60歳をすぎると隠居するのだが、隠居しても暇を持て余すのではなく、村社会での役割があったことを知り、今のシニア層の人の生き方のヒントにもなりそうに思えた。
    今なら宮本常一はどんな聞き書きをするのだろうか。
    とくに都市での聞き書きに興味があるのだが。
    満足度★★★★+0.5

    忘れられた日本人 (岩波文庫)
    宮本 常一(著)
    目次
    凡  例
    対馬にて
    村の寄りあい
    名倉談義
    子供をさがす
    女の世間
    土佐源氏
    土佐寺川夜話
    梶田富五郎翁
    私の祖父
    世間師 ㈠
    世間師 ㈡
    文字をもつ伝承者 ㈠
    文字をもつ伝承者 ㈡
    あとがき
    解  説(網野善彦)
    注(田村善次郎)

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    投稿日:2023.12.31

  • 祥

    名もない人々の日常を聞き書き。
    人びとの生きた記録が、文学作品のような読み応えになる。
    土佐源氏は読んでしばらく噛み締めちゃった。それから94pからの、和さんのエピソードがとても好き。

    他の方も感想に書いてるけど、昔の日本人の意識って「女の子は慎み深く」「嫁いり前なんだから不用意に男の人とお話ししちゃいけません」みたいなものだと思ってたけど、思った以上に強くておおらか(?)で意外だった。思えば民謡の歌詞とか聴くとわりと大らかで下ネタも満載だから、まあ、そういうものなのか。この辺のことは地域や時代、社会的立場も関係するのかな。

    聞き書きの良さを感じたものの、同時に思うのは、どの程度、開示されるのだろうか、という事。姑のイビリはそんなに無いという話のところでふと思ったんだけど、他所者にどの程度、自分たちの事情を話してたんだろう。
    嫁イビリがそんなに発生しない理由は読み進めるとちゃんと説明されてるので、まあ、そうかもね、と思うものの。レアケースな割には世に嫁イビリの話や唄があるのはなんでなんだろう。
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    投稿日:2023.12.01

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