【感想】無私の日本人

磯田道史 / 文春文庫
(79件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
28
30
16
0
0
  • タイトルが総てを物語ります

     タイトル通りの内容で、面白かった映画「殿、利息でござる」。その原作本とのことですが、ちょっと趣は異なりました。穀田屋十三郎に阿部サダヲの顔が被ることはありません。
     この本は、一人だけの話ではなく、穀田屋十三郎、中根東里、大田垣蓮月という、三人の人物を語り尽くした一冊です。この内、私は中根東里の名だけは聞いたことがありましたけれど、その詳細はまったく存じ上げませんでした。この本は、歴史書であり、分類上もノンフィクションで整理されているとおり小説ではありませんけれど、小説風に書かれているので、大変読みやすいですよ。
     「武士の家計簿」から10年あまり後に書かれたと、あとがきにありましたが、「武士の…」の時は、さほど意識しませんでしたが、磯田道史の文学的素養も、なかなかのモノだと思います。
     その「武士の…」のあと、読者から届いた手紙がきっかけで、穀田屋十三郎の調査に入ったとのこと。地方に住むアマチュア歴史家は、埋もれた歴史の発掘者であり、代弁者なのですね。
     内容は、先に書きましたとおり小説風に進みますが、そこは磯田道史なのです。BSプレミアムでMCを務めている看板番組と同じように、興が乗ってくると、彼の歴史観、文化観が、ほとばしってくるようで、熱を帯びた筆致にかわります。興奮気味に筆を進めている感じに、読んでいるこちらもワクワクするというもの。
     一貫してその心情にあるのは、経済成長に本当の幸せがあるのか?ということでしょう。彼はあとがきの中でこんなことを書いてます。「地球上のどこよりも、落とした財布が戻ってくるこの国。こういうことはGDPの競争よりも、なによりも大切なことではないか。」そして、「あの人は清濁あわせ飲むところがあって、人物が大きかった」というのは、まちがっている。と言い切ります。
     確かに、藤原正彦氏が「解説」で書かれているとおり、幕末維新の頃に来日した多くの欧米人は、「日本人は貧しい。しかし幸福そうだ。」と言いました。今の世の中、何か忘れちゃぁいませんか?と言うわけです。
     古文書を自在に読み解き、それをまさに、俯瞰した目で見ることが出来る磯田道史という、歴史学者の枠を飛び越えた気鋭の人物から、これからも目が離せないと思っています。
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    投稿日:2016.11.07

  • 一途な志は喋らなくても誰かが分かってくれる

    いつもは年貢などむしり取られるだけの民草が、お上から金を取ろうという大それた考えも面白いが、出資者である仲間を募っていく過程もいい。

    調子のいい男には理屈ではなく、酒席で情に訴えたりなどなかなかにしたたかだし、銭湯好きが一転して、水垢離をとり始めたことが思わぬ効果を生むところなどは、一途な志は喋らなくても誰かが分かってくれているんだなと感動する。

    計画に一銭も出さずタダ乗りしようなんて欲得ずくの人間は、江戸時代には庶民に至るまで見られないし、たとえ思い通りならなくても恨み言を言わず、相手を気遣う質朴さは頭が下がる。

    悪く言えば、仙台藩のイメージが変わった。
    東北人特有のお上に対する従順さをいいことに、米を専売して利益をことごとく手中にするさまは醜悪この上ない。
    震災復興の過程で宮城県政がこうした過去と重ね合わされることのないように望む。
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    投稿日:2016.05.12

  • 無私の日本人

    読後、しばらくはこの世的なことや唯物的なことは考えたくない気分でした。非常に感動しました。こんな人たちが本当に実在したのだ。日本人として誇りに感じます。あ~~~久しぶりに良い本に出会った!

    投稿日:2016.10.21

  • 無私のこころ

    本書には3人の人物に焦点をあてて3章だてで物語が書かれています。
    第1章は「殿、利息でござる」で映画化もされています。
    私は映画がすきなのでこの1章目当てで読み始めましたのですが、2章と3章の人物もすばらしくとても感動しました。
    おすすめです。
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    投稿日:2017.07.23

  • 無私とは・・

    穀田屋十三郎、中根東里、大田垣蓮月という3人が題材に取り上げられています。この本を読むまでは皆さん知りませんでした。いずれも壮絶な人生を送った方々です。
    さてここで「無私」ですが、私自身は滅私奉公のような、己を犠牲にして世の役に立つというイメージを持って読み始めました。穀田屋十三郎は、確かにその通りです。しかし、中根東里、大田垣蓮月はどうか。「私欲」から連想される、名誉欲や権力欲、金銭欲は本当になかった点で同じです。しかし、表だって広く世の役に立とうという行動も皆無です。すなわち、自分が本当の自分であることを貫く姿勢を見ていると、「私」が「無」いという無私とは対極なんですね。そういった意味では、中根東里、大田垣蓮月に対しては強烈な「私」を感じました。 素晴らしい本です。続きを読む

    投稿日:2017.08.16

ブクログレビュー

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  • Limei

    Limei

    自分の利益のためではなく、純粋に人のために人生を生きた江戸時代の三人のお話。

    伝わった古文書や資料を探し紐解き、こうして伝えてくださる磯田さんに感謝。
    おかげで三人の立派な生き方を知ることができました。

    穀田屋十三朗さんのご子孫は今でも「先祖が偉いことをしたなどというてはならぬと言われてきた」とおっしゃり、その心を受け継いでおられ、そのことにもとても心打たれます。
    宮城県の吉岡宿に行ってみたい。

    日本の歴史の中にはこうした無私の日本人がきっとたくさんいて、今の日本が作られているのだろうな。
    そしてきっと今もいる立派な無私の日本人たちが次の日本を作っていくことでしょう。
    続きを読む

    投稿日:2024.03.10

  • ガリバー

    ガリバー

    貧しくとも、人のために何かができる。
    貧しくとも、幸せに生きることができる。

    日本人のもつ美徳を、教えていただいた。

    投稿日:2024.01.24

  • Madder

    Madder

    涙流さずして読めないような三話でしたが改めて…「この国は豊かになった」のだと思いました。貧しさや悲劇の傍らにある心ある人の心に触れ、心温まる思い出した。何故そこまで他人の為に…自らを犠牲にしてまで…主に忠誠を(この本ではありませんが)誓うことができる? 本作歴史小説ですが、説明がとても丁寧で読みやすく、かつての日本人の心に触れられた気がします。感動です。続きを読む

    投稿日:2023.01.23

  • うりぼう

    うりぼう

    磯田さんの別著作を先に読み、「殿、利息でござる!」を見たあとで本書を読みました。穀田屋十三郎の話は映画の復習の感がありましたが、中根東里、大田垣蓮月の話は、私にとって初めての内容であり、とても心打たれました。藤原正彦の解説に私も同意です。良書です。続きを読む

    投稿日:2022.09.10

  • おさるさん

    おさるさん

    穀田屋十三郎、中根東里、大田垣連月
    実在した3人を古文書からわかる事実をもとにストーリー仕立てにして読ませる評伝。

    欲を持たず他人のために生きた代表的な3人の話。

    とてもじゃないけどマネできないですが、こういう素晴らしい人がいたということを語り継いでいきたいという磯田さんの想いが感じられる本でした。続きを読む

    投稿日:2022.09.01

  • こまき

    こまき

    私達はこの方たちの未来にある。私は頑張れてますか?社会も大地も変わってしまったけど磯田道史先生は古を掘り起こし人の在り方、大地の棲み方を示してくれてると思いました

    投稿日:2022.06.27

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