【感想】哲学な日々 考えさせない時代に抗して

野矢茂樹 / 講談社
(26件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
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  • "考える技術"とは"問う技術"であり、"待つ"ことこそ"考える"こと

    哲学は、なにか固有の研究対象というのがあるわけではなく、あらゆる領域の前提というか、ゲームで言えばルールのような「メタ」を取り扱う。
    自分がやっていることや、生きていくための「メタ」を問うのだから、生活などしていられない。
    だから哲学者は、世捨て人か学生に適していると言われているが、立ち止まって問い直す余裕は誰にとっても価値がある。
    しかし大変である。
    教職者であれば、気持ちが教科や教え子に向かわず、「教育とは?」という一般論に向かうし、恋愛中の男女であれば「そもそも恋愛とは何ぞや?」と考えてしまうのだから。

    哲学者はどのように考えるか?
    いきなり心とは何か? みたいにそのまま問うことはしない。
    まずは、もっとずっと小さい、手頃な問題を設定する。

    「考える技術とは、どうやって答えを閃かせるかではなく、いかに問いをうまく立てるかという、問う技術である」。

    かつて小林秀雄が「考える」とは「迎える」ことだと語ったように、最後は「雨乞いの儀式」のごとく閃きを待つわけだが、そのまえに下準備として論理的に詰められるところはきちんと詰めておくというのが著者らしいところ。

    「待つことこそ、考えること」に他ならぬのなら、現代はますます「考えさせない時代」となりつつあり、野崎まどの『know』のような脳内に電子葉を埋め込まれ、「知らない」と思うまもなく瞬時にわかってしまう世界が到来するとしたら、哲学者はおそらく失業だろうな。

    「バラは暗闇でも赤いか?」という話がもっとも面白かった。
    著者は街なかでこの話を考えつき、うれしさのあまり散々周りの人に語ったのだが「まちがっている」と否定されたり反応がいまいちらしい。
    ただ著者としては異論は大いに結構で、全面同意される方が気色悪いかもしれない。
    バラは暗闇では赤くない。
    色は物の性質ではなく、われわれの主観に生じる感覚でしかない。
    著者はここでもやもやを覚える。本当に色は感覚なのか? と。
    本のタイトルを『赤いバラと雷鳴』に替えてほしいほど鮮やかに推論する。

    いま新聞でも雑誌でも哲学者の書くエッセイはどこも引っ張りだこだが、著者の書く文章はどこか味気ない。
    接続詞の重要性を強調したり、文章には一家言があるのだろうが、著者独自の匂い立つような味わいがないので、前半のように短文になればなるど、淡泊さが余計に極まるのが残念なところ。
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    投稿日:2015.12.05

ブクログレビュー

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  • おおにしみゆ

    おおにしみゆ

    おもしろかったー。論理が必要なのは、完璧な調和のもとに生きてないから。ポリフォニーのあまたの声をきくこと。本を読んで、人と議論して、自分で考えて、調べたり考えたりしたことを書く。

    投稿日:2024.01.31

  • syuulou

    syuulou

    接続詞の大事さ、不要さ、の話。俳句には接続詞ないでしょ!との投げかけ。ホントそうだ、場所を踏まえて活用していかねば。

    投稿日:2023.04.30

  • まめけんし

    まめけんし

    野矢茂樹の文章が好きなので読んだ。理路整然としていて読みやすく、語りかける相手を意識した表現のやわらかさがある。
    前半は西日本新聞掲載の短いエッセイ。後半はそれより少し長いエッセイを集めたものである。
    「論理的に書くこと」という文章では論理的に書くためには相手を意識する。つまり、その話をしたい相手がいて、その相手からの問いかけに答えるように書いていくことが大切だと言っている。これは野矢茂樹の文章を読んでいればうなづけることだろう。
    また、哲学の師である大森荘蔵の授業についての話はとても刺激的だ。
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    投稿日:2023.01.27

  • echigonojizake

    echigonojizake

    哲学のエッセイ。野矢さんの文体がとても心地よく染み込んでくる。

    禅宗の「本来無一物」「衆生本来仏なり」はよいですね。足し算ばかり求める世の中で、引き算を考えてみると、生きる価値も見えてくると感じました。

    やたら成長を求める風潮のなかで、立ち止まって考え、モヤモヤを飼い慣らすというのも素敵でした。
    続きを読む

    投稿日:2022.03.25

  • ねおなお

    ねおなお


    哲学
    考えること

    なんだか
    つい堅苦しい
    そんなイメージをもってしまうが
    エッセイ調なので
    とても柔らかい

    でも
    時に
    うーむ
    と立ち止まって考えてみたり


    自分の世界の
    考えるって
    物事の捉え方って
    まだまだ狭いなと
    そんなことを感じた
    続きを読む

    投稿日:2022.03.06

  • izumowol

    izumowol

    「語りえぬものを語る」が大変良かったので野矢茂樹の本を
    何冊か追ってみることに。これはエッセイ集。前半の1部は
    一篇一篇が短いこともあり軽い印象。後半の2部も柔らかい
    語り口と平易な文章で読みやすいのだが、その実かなり深い
    内容だった。散歩大事(笑)。
    続きを読む

    投稿日:2022.03.05

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