【感想】真剣師 小池重明

団鬼六 / 幻冬舎アウトロー文庫
(31件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
13
6
11
0
0
  • 果報な人だ・・・

    西村賢太の作品を地で行くような人生を垣間見る。
    多くの人が、きっと迷惑を蒙っただろう。また、少なくない人に嫌悪されただろう。私自身、現実世界では、絶対に係り合いになりたくないと思う。

    本人も自分の人生に満足して、この世を去った訳でもないことは明白だ。
    でも、果報な人だと思う。

    だって、迷惑な奴だ、困った奴だと言いながら、こんなにも長い長い弔辞を書いてくれる人がいるなんて、そうある事じゃない。そう、これは一遍の弔辞なのだろうね。
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    投稿日:2017.02.27

  • 真剣師の時代は終わった

    団鬼六と言えばSMというイメージしかないのだが、趣味の将棋では89年から将棋ジャーナルのオーナーとして93年まで私財をはたいて発行を続けた。その団が6年ぶりに小説家として復帰したのが92年に亡くなった新宿の殺し屋こと真剣師の小池重明の懺悔録「流浪記」を基にした本作だった。余命1年と宣告された小池に懺悔録を書かせ将棋ジャーナルに連載したのもその団の仕掛けだった。団と小池の付き合いが始まったのが88年ごろで、冷静に見れば団はいいカモにされているのだが、破滅型の小池を見捨てきれなかったようだ。

    中学生で将棋を覚えた小池は高校に入ると学校に行かずに将棋にのめり込む。ほぼ一年で三段になり中部日本学生将棋選手権では大学生も破り優勝した。小池の最初の真剣(賭け将棋)は通いつめた将棋クラブで席主の娘に片想いし、その娘と仲の良い大学生に彼女をかけての勝負を挑んだのがきっかけだった。結局不良高校生の応援団を引き連れた小池は勝負には買ったが真剣禁止の将棋クラブからは出入り禁止にされ、彼女はのちにこの大学生と結婚している。

    高校を中退し売春宿の番頭を振り出しに喫茶店、酒場などで働くが長続きしない。岐阜のホテルに勤めた際には浮気をするオーナーの当て付けにとオーナーの奧さんに誘惑され関係を持つのだが、わざわざそのことをオーナーに言いつけ、逆にそのまま関係を続けろと言われたのに逃げ出してしまう。後にも度々仕事場から金を持ち出したり、未亡人や人妻と3度駆け落ちしているが金と女にはとにかくだらしない。

    酒にもだらしなく団には娘に会いたいと泣きつきもらった金をその日のうちに飲んで使い果たしてしまうなど、飲みだすとコントロールが効かなくなる。大山名人との対局前夜には深夜営業のスナックでビールを飲み始めて口論になったボーイを殴り、留置場から対局場へ二日酔いで向かうのだが角落とは言え大山名人の考慮時間74分に対しわずか29分しか使わず完勝してしまう。この辺りが破滅型の天才と言われる所以だ。

    岐阜から戻った小池は名古屋の将棋クラブに居候をしながら真剣師と交流を持ち始めこのころ将棋の腕を上げていく。21歳でアマ名人戦の愛知県代表になりこの年名人になった関則可を頼って東京に出将棋修行を始める。奨励会入会試験の口利きを松田八段の推薦を取り付けたのはいいがキャバレーの女に入れ込んで道場の金を使い込み、松田にも関にも顔を合わさず名古屋に逃げ帰ってしまう。一定期間は真面目に働くのだが周りが信頼し始めたころに酒や女に溺れるとコントロールが効かなくなり逃げ出すしかなくなってしまう。時には世話になった店の金や車を持ち出して逃げるのだが、一応借用書だけは書いておくあたり弱い自分に対して言い訳を作っている。

    小池が新宿の殺し屋として名を挙げ出したのは名古屋で働いた葬儀屋をその仕事で知り合った未亡人と駆け落ちし再度東京に出てきてからだ。32歳になった小池は鬼加賀と呼ばれるアマ名人にもなった大阪の真剣師と死闘に挑んだ。初日勝てば50万円の5番勝負、二日目は1番10万の10番勝負を戦い、トータル7勝7敗ながら初日の勝ちが効いて加賀は小池を日本一の真剣師と認めることになった。翌80年からは2年連続でアマ名人を取り表の世界でも日本一となるとプロにも連勝し1982年には棋聖を取った森雞二に角落、香落ち、平手と3連勝をする。将棋は勝ち続けるが生活は破綻しており出入りしていた将棋酒場の金を持って女と逃げ出し、さらにはサラ金地獄。賞金百万円の大会で優勝してもその場で借金取りに抑えられてしまう。

    このころ再度プロ入りの話が出たのだが棋士会は反対し、更には新聞にに寸借詐欺の記事が出てアマチュア将棋界からも追放された。子供の将棋道場を作る、プロになるために紹介料がいると言って集めた金はすぐに使い込んでしまうのだった。この時小池は35歳になっていた。そしてまた数年間将棋界から姿を消した。

    小池の最後の公式戦は亡くなる前年で相手は竜王戦でプロ相手に3連勝をしたアマ名人の天野高志、結果は小池の2連勝だった。すでに肝硬変を発症していた小池は対局数日後にまた血を吐き、負けた天野は準決勝で丸山忠久相手に必勝の将棋を落とした。今やコンピューターが強くプロでもなかなか勝てなくなってきているが20年前はまだこういう時代だったのだ。
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    投稿日:2015.08.30

ブクログレビュー

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  • k

    k

    実在した「真剣師」である小池重明の半生を綴った長編小説。
    小池は将棋はべらぼうに強いが、ギャンブル、酒、女にのめり込む癖があっために、アマ棋士では当時最強だったにも関わらず将棋界から追放を喰らったという破天荒な人物であった。

    「偏り」とは「才能」であると言える。何かにそこまで入れ込めること自体が並大抵のことではない。
    人は長期的にも短期的にもさまざまなことにバランスを取ろうとする。しかし、それは凡人の発想で、圧倒的な才に恵まれてそれを自覚してしまった人は圧倒的にそれに偏ってしまう。将棋にしろ、スポーツにしろ、仕事にしろ、このように圧倒的にバランスを失ってしまう人は一定数存在する。

    また小池の面白さはその人間臭さにある。高圧的で孤高を貫くのではなく、どこか小物で長いものに巻かれる性質がある。圧倒的な才能と人間臭さを併せ持つというこの二面性が彼をより味わい深い男にしているではないか。

    自分はここまでバランスを崩すことがないから、このような人物が(多少誇張されているとしても)実在して、壮絶な人生を歩んだということが非常に興味深い。ふとしたときに自分の「まともさ」に失望することがあったが、本当にそのような「才能」ひいては「偏り」を持つことが幸せなことなのかを再考させられた。


    「将棋盤の前に座っているときだけが幸せでした。盤の前に座り、駒の動きを見つめている。そこには他に何も介入してくるものがないのです。」本文より
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    投稿日:2022.11.30

  • 古泉智浩

    古泉智浩

    このレビューはネタバレを含みます

     将棋の棋士については関心がなかったのだけど、ロマン優光さんがコラムで幻冬舎アウトロー文庫について触れていた際に大好きな本として揚げていらっしゃり、随分前に買った。そうして読んでみると、本当にめちゃくちゃで最高に面白い。将棋の世界で圧倒的に強いのにアマチュアで、プロをどんどんなぎ倒していくのが痛快だ。しかし人生については下手ばかり打ち、袋小路に突き進んでいくのが凄い。将棋の腕前でいくらでもうまくやれただろうし、他の博打にさえ手を出さなければなどと思うのだが、しかしそこで下手を打つところがチャーミングで、応援したくなる。才能とは、幸福とは、など大いに感じさせられる。

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    投稿日:2021.01.28

  • memo

    memo

    囲碁も将棋もプロになるのはとても厳しい/ 年齢制限が設けられ、小さな頃から地域では天才と称される子どもたちが全国から集められ、その中でも特に抜きんでる天才が生業とするものである/ そんなプロたちをも蹴散らしてきた在野の天才、自己流将棋、新宿の殺し屋、小池重明の生涯を描いた作品/ 何年も将棋を触らず、肉体労働に従事、酒を飲んでろくに研究もしない、それでも毎日そればかりやっているプロに勝つ/ 日陰の天才/ すべての元凶は一番はじめの奨励会試験を飛ばしたこと/ もったいない/続きを読む

    投稿日:2018.10.08

  • T

    T

    小池重明さんの一生を描いた作品。天才とあほが入り乱れている人物。こんな人がいたんだなーって感じです。将棋に関しては天才であったのかな。今で言えば何か発達障害の様な障害があると診断されるかもしれない。
    いずれにしても、勉強になる作品でした。続きを読む

    投稿日:2018.09.30

  • あわい

    あわい

    あまりにも将棋が強く、将棋以外がダメすぎた男小池重明。
    「将棋の鬼」とまで評される強さで並み居るアマプロ強豪をなぎ倒していく対局録は痛快ながら、対照的にさっぱり上向かず放蕩に沈んでいく人生はもの悲しく思える。
    しかし、品行方正に将棋の才能を生かし切る人生が小池重明にあり得たのかと言うと、それも無かったのではないか。
    団が結びに書き記した「人に嫌われ、人に好かれた人間だった」という一文が小池重明という男を評している。
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    投稿日:2018.02.12

  • yasuhit33

    yasuhit33

    このレビューはネタバレを含みます

    「小池は終生、放浪癖を抜けなかった天衣無縫の人間だった。女に狂い、酒に溺れた荒唐無稽な人生を送った人間だった。〜 とにかく、面白い奴だった。そして、凄い奴だった。」

    と、ここまで団鬼六に言わせる小池重明。こういう人が存在していた事が時代だなと思うが、こういう人に生きる隙間がある時代はまだ世の中が清潔になりきっていない、生きやすい時代であったのでは無かろうかと思う。

    こんな人生がホントにあるのかと驚きとともに、この本は一気に読めてしまう。

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    投稿日:2017.11.13

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